親戚や友達が鬱病にかかった場合、心配で訪問したり電話したり、時には家に招待したりと、なんとか助けてあげたいという考え方は尊敬します。

 

しかしながら、コンタクトをとれば必ず鬱病が改善されるというわけではなく、時には悪化させてしまうこともあり、有難迷惑となってしまうことも少なくないため、訪問、電話、招待などの際にはさまざまなことに注意しておく必要があります。

 

 

患者さん宅への訪問について

 

自宅療養を余儀なくされている方は、やはりある程度は暇です。うつ病というと、年柄年中辛いというイメージがありますが、必ずしもそうとは限りません。

 

眠れなくて、気分も落ち込んで・・・という時は、やはり誰とも会うのも辛いですし、話すのも嫌なものですが、抗鬱剤がある程度効いてきて、睡眠薬で眠れて、精神安定剤で落ち着いている時はやはり暇です。

 

かと言って外出する元気があるかと言えば、そうとも限りません。ですから、ご同居のご家族・配偶者の方が、本人の調子が良いことを伝えてきて、本人が会いたい、という希望を持っていることが確認できた時は、訪問しても問題ないと思います。

 

但し、あくまでも精神の均衡はお薬のおかげで保てているのです。当然のことながら、短時間しか居てはいけないということは忘れないで下さい。

 

調子が良いようでも、訪問者があれば仮にそれが家族であれ、やはり患者さんは疲れるものです。その点には配慮してあげて下さい。

 

それから、訪問する時は、基本的には少人数にすること。そして、訪問される方にお子様がいらっしゃるようでしたら、お子様をどなたかに預けられないようでしたら、訪問は見送って下さい。

 

お子様の無邪気な姿は心和むのは事実ですが、必要以上に騒がれるとかなり神経がピリピリするものです。訪問するとしても「お見舞い」だと言うことは忘れないで下さい。

 

また、ご友人・会社の同僚の方は基本的には控えて下さい。今患者さんは世間のしがらみから解かれてようやくお薬を頼りながら落ち着きを取り戻しつつあるのです。

 

仲の良いご友人・会社の同僚の訪問を受けると、患者さんは現実に引き戻されてやはり相当焦ります。仮に話題に気を配ったとしても、患者さんの心は掻き乱されます。治って元気な姿で出てくるまで基本的には訪問しないで下さい。どうしても心配でしたら、配偶者または同居のご家族から患者さんの状態を聞くに留めておいて下さい。

 

なお、蛇足ですが、訪問した折には患者さんの状態あまりこと細かに聞きだそうとはしないようにして下さい。患者さんは具合が悪ければ来て欲しくないのです。訪問に応諾を得られたということは患者さんの調子が良いということを、当然分かっていてあげて下さい。

 

 

患者さん宅への電話について

 

電話については、私は特段の賛成も反対も無いのですが、毎日の電話。そして長電話は基本的にあまり賛成は出来ません。

 

電話は顔が見えない分、相手の声で調子を探ることになります。声を聞いて調子が悪そうだと思ったら、「今日は調子が悪そうだから切るね」という配慮が出来なければ、どうしても患者さんの調子を探ることになってしまいます。

 

調子が悪いのに電話に出ていて、更に調子を探られた時にはたまったものではありません。そういうことが続けば、患者さんは必然的に電話に出ることを嫌がるようになります。但し、患者さんが独立していてかつ配偶者がいる場合ならば、配偶者に調子を聞くのは良いと思います。

 

問題なのは、一人暮らしをしている患者さんの場合です。近くで一人暮らしをしているのならともかく、離れた所に住んでいる場合は、様子を聞くのに手段としてはやはり電話しか無いのかもしれません。

 

その場合は、固定電話でも携帯電話でも、本人が出なかったならば、「何時にもう一回電話するね」、とか「気付いたら電話頂戴」というメッセージを残すのが一番だと思います。

 

再度電話をかけたら応答したり、折り返し電話が戻ってきた場合には、対応としては調子をうるさく聞くのを避けるのは同じだと思います。

 

しかし、一人暮らしをしている場合は、やや恣意的に電話を無視することもあり得ることなので、初めにうつ病で伏せっていることを聞いた段階でお互いにどうやって意思の疎通を図るのか事前に決めておく必要はあるのかもしれません。

 

 

患者さんを家へ招待することについて

 

これは、ご友人は絶対避けて下さい。患者さんが行きたいと言ったならば、用があるといって断って下さい。

 

ご友人の場合は、万一患者さんがご友人宅で具合悪くなっても対処法を分かっていないでしょうし、行きたい理由が本当に純粋に遊びに行きたいのか、あるいはうつ病ならではの最悪の結果を出すのにふさわしい場所として患者さんが考えているのか分からないからです。

 

元々うつ病の場合覚悟の上での・・・、ということは殆ど無いと思うのですが、発作的に何か事故が起こったら取り返しがつきません。寛解して元気になってから来てもらっても十分です。

 

これは患者さんを守ることの他に、ご友人本人を守ることでもあると思います。実家・自宅に家族が招待するのは患者さんが行きたいというのであれば、特に問題はありませんが、呼びつけるようなことはしないで下さい。

 

今は休養中なのだということは分かっている筈です。一人暮らしにせよ、独立して家庭を持っている患者さんにせよ、もう患者さんが一番心休まる場所は、実家でも自宅でも無いのです。

 

自分の拠点を持っている患者さんが来たいというならば別ですが、生まれ育った場所だから、今まで一緒に生活してきたのだから、という理屈は招待する側の思いだと思っています。

 

また、患者さんが来たいという場合は、基本的には休める場所を用意しておいてあげて下さい。どのような手段で来たのであれ、普段は横になっていることが多い患者さんにとって外出はやはり相当疲れるものです。行ったら疲れて悪くなった、ということにならないようにしてあげて下さい。

 

 

旅行について

 

このことについてなのですが、大抵の本では原則好ましくないと書いてあると思います。しかし、私は必ずしもこれが駄目だとは思いません。当然横になっていなければ辛い。

 

安定剤を飲んでいても気分が落ち着かない。睡眠薬を飲んでも眠れない状態の時はこれは駄目というより無理ですが、一歩進んで安定してきた時は、本人が自発的に行きたいという意思表示をするのであれば良いのではないかと思っています。

 

というのは、うつ病というと何かと気分的なものばかりが取り上げられるのですが、肉体的な活動が減る分目に見えて体力も低下するものです。そして、うつ病の治療の中には体力回復トレーニングというものはありません。

 

活動できる気力が湧いてきたら、自発的に運動して体力を元に戻さないといけないのです。

 

ですから、旅行については前提として、気分の安定と睡眠の確保がある程度定着してきたら、初めは軽い運動程度の旅行から。そして、睡眠が確保できているのであれば、一泊旅行も悪くは無いのではないかと思います。

 

但し、この旅行については、あくまでも患者さんの自発的意思が尊重されるべきものであって無理強いすべきものではないことは当然のものと思っていて下さい。

 

仮に旅行に行くことを日帰りでも、一泊でも計画するならば、事前に予約が必要なパッケージツアーは難しいかもしれません。

 

とにかく体調は旅行当日の朝までどうなるのか分からないですから。パッケージツアーではなく少し高くつきますが、全てが当日予約扱い(割引無し)の旅行が良いと思います。

 

その方が、結果として体調が悪ければ中止すればそれまでですので・・・。(パッケージツアーの場合でしたら、当日キャンセルは恐らく相当キャンセル料を取られると思います。どちらが得かは企画される方がご判断下さい。)何度も言いますが、くれぐれも無理はさせないようにして下さい。

 

 

ご同居の方のささやかな支え

 

食事、洗濯、掃除・・・。数えていったら本当にきりがないのですが、その中でうつ病患者にとって非常に有難いことがあります。それは何かといえば、前の晩眠れなくても、日中具合が悪くても、朝になればカーテンを開けて、時計を見なくとも今が朝だと知らせてくれること。

 

そして天気が良い日は窓を開けて心地良い空気を通してくれることです。

 

睡眠障害(不眠症)はうつ病になると何らかの形で出てくることが多いものです。そして、不眠症といえば、一般的なイメージでは全く眠ることが出来ない症状または病気と思われがちですが、決してそんなことはありません。

 

通常は16時間程度で眠気が自然に訪れて8時間ぐらい睡眠を必要とするものが、眠気が訪れなかったり(入眠障害)、何度も夜中に目覚めてしまったり(中途覚醒)、とんでもなく早い時間に目覚めてしまう(早朝覚醒)のが、不眠症です。

 

そういう症状が現れると簡単に昼夜逆転してしまうものなのです。厳密に言うと単純に昼夜逆転するのではなく、その日その日によって睡眠が取れたり取れなかったりすることもあるのです。

 

そういう所謂昼夜逆転を防ぐのが、朝になると横になっていて起きれなくてもカーテンを開けて陽射しを部屋に引き込んだり、天気が良い日はカーテンを開けて空気を入れ替えることなのです。

 

患者さんは、陽射しが入ると今が朝であることを起きれなくても基本的には察知しています。そして良い空気が部屋に充満すると起きてみようという気力が湧いてくるものです。

 

医学的に良い空気がやる気を引き起こすかについては正しいのは分かりませんが、やはり部屋を通る風は精神安定剤以上に気分を安定させてくれるものではないかと私は思っています。

 

ですから、ご家族の中にうつ病の患者さんがいらっしゃったら、起こすためではなく、あくまでもさりげなく時間感覚を失わせないような手伝いをしてあげるのは有益だと思います。そして、これが一番後々患者さんに喜ばれることになるのではないかと思っています。