うつ病の中には、抑うつ気分や意欲の低下などのうつ病本来の精神症状は目立たず、身体の病気のようにしか見えない場合があります。頭痛や腰痛、食欲不振、身体の痛みなど、日常的にうつ病以外でもよく見られる症状が前面に出ます。

 

うつ病でありながら、身体の症状が前面に出てくるため、身体の病気という仮面を被ったうつ病という意味で「仮面うつ病」と呼ばれています。

 

 

仮面うつの症状

 

基本的には、うつ病特有の憂鬱感、意欲の低下、自殺観念等の「うつ病」で現れる症状は殆ど出ません。ある程度「不眠」がつきまとうことはありますが、精神症状よりは、肉体的な苦痛の方が大きいのが特徴です。

 

精神的な苦痛が伴わず、肉体的な症状が主に現れるため、罹患した患者さんの大抵は、精神科、心療内科、神経科に初めから足を運ぶことが少なく、どちらかと言えば、不眠が耐えられなくなってようやく診察を受けることが多いのが現状です。

 

変な言い方ですが、うつ病としての自覚症状が薄いため、早めに専門医の診察を受けないと重症化してしまう傾向があるのも「仮面うつ病」の特徴です。

 

 

抑うつ状態の簡単な分類

 

身体因性のもの、反応性のもの、内因性のものに分類された経緯がありますが、それぞれの境界は明確ではありません。

 

■身体因性のうつ

身体因性のうつには、脳血管障害に伴う抑うつ状態、脳梗塞後に発症する脳卒中後抑うつのほか、C型肝炎の治療薬の副作用によって抑うつ状態になるもの、甲状腺機能低下に伴って抑うつ状態になるものなどがあります。

 

■内因性のうつ

内因性のうつは、遺伝的要素の大きいうつ病です。ただし、因果関係は明確になっているとまでは現段階では言えません。

 

■反応性のうつ

反応性のうつは周囲のさまざまな状況に対するストレスの蓄積によって発症します。例示すれば、転居や転職などの、生活や環境、価値観の変動や、近親者の死などの対象喪失に伴って発症します。

 

ただ単に、一つの要素に基づいて発症するとは限られず、上記要素が複合的に重なり合うことによって発症することが多いとも考えられています。

 

 

うつ病の発症及び病因

 

仮面うつ病もうつ病と同様に原因は不明です。以前は内因性と考えられていましたが、現在は遺伝的要因と環境的要因(心理的要因)とが相互に関連して発症すると考えられています。

 

ただし、繰り返しになりますが、原因は人それぞれであり、確固とした原因が突き止められている訳ではありません。ゆえに、原因を根本から排除するという治療法が存在しません。

 

 

仮面うつの病因

 

うつ病にかかりやすい性格として、メランコリー親和型性格、執着性格、循環性格などが提唱されています。しかし、必ずしもすべての患者に当てはまる訳ではなく、逆にこの性格の人が全員うつ病になるわけでもありません。

 

■メランコリー親和型性格

メランコリー親和型性格とは、秩序を愛する、几帳面、律儀、生真面目、融通が利かないなどの特徴を持つと言われています。

 

■執着性格

仕事熱心、几帳面、責任感が強いなどの特徴を持つと言われています。

 

■循環性格

循環性格は、社交的で親切、温厚だが、その反面優柔不断であるため、決断力が弱く、板ばさみ状態になりやすいという特徴を持っています。

 

そのほか、定年・死別・別離・離婚等の喪失体験など、いわゆる精神的ショックが起因となることが多く、発病者の多くが発症前に何かしらのショックを受けていると言われています。

 

 

仮面うつの病態

 

うつ病の原因や薬効原理は、いまだ完全には分かっていません。しかし、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの濃度が低下していることは事実として確認されています。

 

他にも心的外傷後ストレス障害と同様に神経細胞自体に物理的な破壊が起こっています。しかし、セロトニン以外にもノルアドレナリン、ドーパミンなどの機能低下、コルチゾール系の分泌異常、海馬の異常、前頭葉・帯状回、の血流低下など様々な生物学的要因も提唱されているのも事実です。

 

 

仮面うつの基本的対処

 

■方針

治療の基本は、患者をストレスから解放することです。例えば、うつ病の患者は責任感が強いので、励ましは絶対やってはならない(禁忌)です。励ますと余計責任を感じてしまい、それがストレスとなって病状が悪化し、最悪の場合は自殺してしまうこともあります。また、「重要な決断は先延ばしにする」ことも非常に大切です。転職・退職、離婚するかどうかと言った重要な決断はなるべく後回しにして、思考が低下した状態にある患者に無理をさせてストレスを与えたり、誤った判断をさせないようにする必要があります。

 

■十分に休養させること

当然のことですが、無理に行動に移そうとしないことです。精神的に不安定な状態では、行動がかえって逆効果になることがあります。まずは、気持ちの少しでも穏やかにしていけるよう、休養をとることが大切です。

 

 

治療の選択

 

専門家の判断を仰ぐことが第一です。 個人での(周囲を含めて)判断は危険であり、かえって症状を悪化させてしまうことがあります。必ず、一度は専門家に相談してください。

 

なお、症状の程度によって、基本となる治療法は変わってきます。以下に症状の段階における、基本的な対処・治療法を示しますが、独断は危険ですので、必ず専門家に相談してください。

 

■軽症の場合

軽症の場合は、最近では、薬物療法を行わずに精神療法(カウンセリング)のみを行うという選択肢もあります。(ただし、この場合医師との信頼関係は不可欠)

 

■中等度の場合

中等度の場合は、薬物療法を併用します。カウンセリングとの併用は、ストレス開放と言う観点から有効ではありますが、自身が望まない場合は薬物療法のみで進む傾向が多いのが実情です。

 

■重症の場合

重症の場合、ストレスから身を遠ざける為に仕事を休むなどしっかりとした休養を取ることが必要になってきます。また、場合によっては入院を要し、とくに自殺の危険が高い場合などには、医療保護入院(本人の意思によらない強制的な入院)が必要になる場合もあります。ただし、基本的には、任意入院がほとんどです。

 

■極めて重症の場合

重症もしくは、極めて重症の場合、治療により少し病状が改善してきたときに、自殺を図ることがあるので注意を要します。極めて重症のときは「自殺への意欲や決断力」も低下しているので自殺を実行に移せないが、病状が改善してくると「自殺への意欲や決断力」が出てきて実行してしまうからです。自殺の可能性があることから、長期的な入院を必要とします。

 

 

 

仮面うつの治療法

 

仮面うつの治療法には、実にさまざまな種類があります。基本的には薬物療法により改善を図りますが、症状がそこまで深刻ではなく、さらに長期的な目で根本から改善を図る際には、認知行動療法や精神療法がおこなわれます。

 

薬物療法

うつ病患者における抗鬱剤の薬剤の有効性が臨床的に検証されています。その他に、不安や不眠を伴う場合には睡眠導入剤、抗不安薬も処方されることがあります。各薬剤に長所・短所があり、症状や年齢、性別、身体合併症などを考慮して選択します。また、不安・焦燥が強い場合などは抗不安剤を、不眠が強い場合は睡眠導入剤を併用することもあります。

 

認知行動療法

外界の認識の仕方で、感情や気分をコントロールしようという治療法です。身体的な負担が少ないため、非常に有効な治療法ですが、認知行動療法を適切に行える専門家が少ないのが現状です。

 

精神療法

いわゆる「カウンセリング」と言われるものです。精神療法が行える専門家は多いものの、高いレベルで行える人材は少ないのが現状です。また、相性も存在し、相性が良ければ改善は速くなりますが、悪ければかえって悪化することもあります。

 

患部の集中治療

これは仮面うつ病について行われることがしばしばあります。内臓疾患等が認められない場合でも、患者が苦痛を訴えるのは事実ですから、痛み止め等を使って治療することがありますが、基本的にはこの治療は患者に身体的な病気ではなく、仮面うつ病であることを認識させる意味を持っています。

 

 

さいごに

 

最終的に重要なのは、患者に完全に休養を取らせることです。また、医師が状態に合わせて適切に治療方針(投薬を含め)を判断すること。患者に負荷がかからないようにできるだけ配慮することが必要です。また、仮面うつ病の場合、身体的不調を訴えるケースが多いため、不調を訴える箇所についての治療を併行して行うことがあります。

 

ただし、「仮面うつ病」は「うつ病」と違って、「隠されたうつ病」的要素が強いのが事実です。不調を訴える箇所を集中して治療した結果、本来的な「うつ病」の症状が現れることも稀ではありません。ですから、体調不良を感じて内科医等にかかって、原因不明と診断された場合には、必ず専門医の指導による治療を受けて頂きたいと思います。