子宮筋腫は婦人科領域で最も頻繁に認められる良性腫瘍です。その発生頻度は40代後半の女性に最も頻繁に認められましたが、最近にいたっては従来とは異なり、若年者の子宮筋腫の発生頻度は明らかに高まってきています。

 

さらに、結婚年齢、初産年齢が遅くなっている社会情勢からみて、子宮筋腫合併妊娠は明らかに増加しつつあります。子宮筋腫合併妊娠は妊娠、出産に全く影響の無いものから重篤な問題を提起するものまでさまざまです。

 

 

子宮筋腫が妊娠、分娩、産褥に及ぼす影響

 

子宮筋腫特有な症状は粘膜下筋腫に最も高率に見られ、次いで筋層内筋腫にみられます。一般的には漿膜下筋腫の場合には巨大な場合を除いて無症状のことが多い傾向にあります。子宮筋腫合併妊娠の場合にも全く同様です。妊娠、出産などに対して悪影響を及ぼすのは主に粘膜下筋腫と筋層内筋腫の一部がほとんどです。

 

漿膜下筋腫や筋層内筋腫の一部の場合には全く妊娠、出産に悪影響を与えることなく順調に終了することもまれではありません。このような場合には、子宮筋腫の症状が全く認められないため、子宮筋腫の存在に全く気づかずに妊娠してしまうことが多いのが実情です。

 

 

子宮筋腫が妊娠経過に及ぼす影響

 

子宮筋腫が認められる人が妊娠した場合には以下のような妊娠経過の異常をきたすことがありますが、必ず以下の症状が現れるというわけではなく、全く無症状の場合もあります。

 

  • 流産・早産
  • 子宮内胎児発育遅延・前期破水
  • 胎盤の位置・付着異常(前置胎盤・低置胎盤・癒着胎盤)
  • 胎位異常(横位・骨盤位など)
  • 胎盤早期剥離
  • 筋腫核の変性や茎捻転による疼痛

 

子宮筋腫の一部は子宮内腔の圧迫、変形、伸展などの形状異常をきたすことがあり、その結果、流産率は正常の2倍になるとされています。

 

内腔の形状異常と同時に筋腫核の存在により子宮筋の増大障害、子宮筋の易刺激性、加えて筋腫核に隣接した胎盤の場合には胎盤の機能不全も起こりえるために早産、子宮内胎児発育遅延、前期破水、胎盤の位置付着異常などの異常が発生する場合もあります。

 

胎盤早期剥離は筋腫核に隣接した胎盤の場合に起こりやすいとされています。胎位異常(横位・骨盤位など)は筋腫核の存在部位と大きさによってさまざまです。

 

 

子宮筋腫が分娩経過に及ぼす影響

 

子宮筋腫を伴って妊娠した場合には、胎児の産道通過障害や微弱陣痛、子宮収縮不全・弛緩出血などによって、自然分(経膣分娩)が難しくなり、場合によっては帝王切開をしなければいけなくなります。

 

  • 胎児の産道通過障害(分娩障害)
  • 微弱陣痛
  • 子宮収縮不全・弛緩出血

 

子宮下部筋腫、子宮頸部筋腫やダグラス窩(子宮下部後面のくぼみ)に子宮筋腫が入り込み、しかも一定以上の大きさがある場合には、この筋腫結節自体が産道の障害物となるために胎児の産道通過障害の原因になります。そのために分娩遷延や分娩停止などの分娩障害をきたすこともあります。

 

このような症例はまれです。つまり、最も高頻度に認められる子宮底部や体部の筋腫は産道の通過障害とはなり得ません。胎児の産道通過障害(分娩障害)となる子宮下部の筋腫や子宮頸部筋腫は少数派です。

 

筋腫結節があることによって、陣痛が微弱になることもあり、このような場合には分娩遷延、分娩停止の原因になりえます。胎児の娩出後は子宮収縮不全を引き起こし、その結果多量の弛緩出血を引き起こすこともあるので注意が必要です。

 

 

子宮筋腫が出産後に及ぼす影響

 

出産がスムーズに行えたとしても、悪露の停滞・子宮復古不全や産褥期出血(晩期出血)、産褥熱・子宮内感染症など、出産後にさまざまな問題が発生することがあります。

 

  • 悪露の停滞・子宮復古不全
  • 産褥期出血(晩期出血)
  • 産褥熱・子宮内感染症

 

子宮筋腫の存在によって子宮腔の変形によって悪露の停滞や子宮収縮不全のために子宮復古不全をきたすことがあります。出産直後は経過良好であっても晩期出血の原因になることもあり、また筋腫の変性、壊死が高度の場合に感染を起こすと重篤な産褥熱を起こすこともあります。

 

 

子宮筋腫合併妊娠における治療

 

妊娠に子宮筋腫が合併した場合には、上記のように妊娠経過中、分娩時、産褥期に種々の障害が起こる場合があります。このような障害を避けるために、どのように子宮筋腫合併妊娠を取り扱うかは重要な問題です。

 

そのために積極的に手術療法(筋腫核出術など)を行うべきとの立場と、可能な限り手術療法を避けて保存的治療(安静・子宮収縮抑制剤、鎮痛剤などの投与など)を選択すべきとの立場の二つの考え方がありますが、現在では後者が一般的な治療法となっています。すなわち、可能な限り保存的治療を優先し治療効果に限界がある場合には手術療法を選択すべきとの考え方が主流になっています。

 

しかし積極的に手術療法を行うべきか、可能な限り手術療法を避けて保存的治療を選択すべきかは1例1例慎重に検討し、治療方針を検討する必要があります。保存的治療が主流といっても、時には手術療法が唯一の治療法となる場合があります。以下にその例を列記します。

 

≪手術療法が選択される子宮筋腫合併妊娠≫

  • 成人頭以上の巨大な子宮筋腫
  • 子宮筋腫の変性などにより腫瘤自体の痛みが保存的治療にて緩解しない場合。
  • 有茎性子宮筋腫の茎捻転(激しい痛みを伴い鎮痛剤は無効)。有茎性子宮筋腫とは子宮の外側に茎をもって子宮に付着した子宮筋腫(漿膜下筋腫)です。この筋腫が茎を軸にしてねじれる(茎捻転)と激しい痛みを伴います。
  • 筋腫結節表面の血管が破綻し、多量の腹腔内出血をきたしショック状態を呈したとき。
  • 筋腫結節による周辺臓器の圧迫が強い場合。たとえば膀胱の圧迫による排尿障害・尿閉。
  • その他の保存的治療無効例。

 

以上のような特殊な状態が発生した場合には手術療法が選択されるべきです。緊急手術の絶対的な適応です。逆に言えば上記以外の子宮筋腫の場合には子宮筋腫合併妊娠の取り扱いは手術を行うのではなく、保存的治療を優先すべきということになりますが、1例1例慎重に検討し、治療方針を検討すべきです。

 

 

子宮筋腫合併妊娠の出産方法の決定

 

子宮筋腫の核出部位には子宮壁に傷がありますので、この傷に負担がかかると子宮破裂の危険性があります。そのために陣痛が発来する前に最初から帝王切開を選択すべき症例もあります。核出状況によっては経膣分娩が選択されますが、その場合には慎重な対応を要します。

 

≪経膣分娩と帝王切開の選択≫

  • 妊娠中に保存的治療を行い妊娠経過が良好な場合、あるいは全く自覚症状が認められない場合には筋腫の存在のみを理由に帝王切開を選択することはありません。他の産科的異常が認められない場合には経膣分娩が選択されます。
  • 子宮頸部筋腫などの存在により胎児の産道通過障害が予想される場合には帝王切開を選択します。しかし、このような症例はまれです。
  • 妊娠前あるいは妊娠中に子宮筋腫核出術を行った場合には、核出状況(核出部位、核出数、子宮壁の縫合状況など)によって分娩方法は異なります。

 

筋腫結節は膣腔などを圧迫しながら骨盤腔を占領しています。そのために胎児の産道通過障害が容易に予想されます。このような場合は経膣分娩は不可能なために最初から分娩方法は帝王切開が選択されます。子宮頸部筋腫であるために産道通過障害をきたすのであって子宮体部や底部の筋腫では一般的にこのようなことは起こりません。