高齢者や若い世代に肺結核の発症が急増しています。集団感染のおそれもあるので定期検査を欠かさず、早めに治療を受けることが大切。

 

咳が長い間続いている、疲れやすい、微熱が続いている、寝汗をよくかく、痰がよく出る、息切れする、胸が痛む、体重が減ってきた、食欲があまりない、などの症状が出現している方は要注意です。

 

 

肺結核とは

 

結核菌が侵入して肺に炎症が起こる細菌性の感染症です。この菌の感染力は非常に強く、感染者が咳やくしゃみをすると飛び散り、それを吸い込んだ人は感染します。感染すると次の三つのいずれかの経過をたどります。まず、結核菌に対する免疫ができ、一生発症しないケースです。もしくは感染に引き続いて、6ヶ月から数年以内に発症します。

 

そして一度免疫ができても、数年から数十年後、からだの抵抗力が弱まったときに発症する場合です。しかし、一生発症しない人が大半です。肺結核は1950年代までは死亡原因の第1位を占め、おそれられていた病気の一つです。

 

60年代に入ると、有効な抗結核薬の開発や予防接種の普及が進み、栄養水準も向上したため、患者数・死亡者数ともに大幅に減少しました。ところが、80年代以降、患者数の減り方が鈍くなってきました。原因としては、三つの大きな要素があげられます。

 

■集団発生による発症

第1は、肺結核が集団発生しやすくなっている点です。以前に結核菌に感染し、まだ発症してなかった人たちが高齢になり、抵抗力が低下して発症しやすくなってきています。一方で、肺結核の免疫をもたない若い世代が増えてきました。この二つのグループが学校や職場で交流をもつと、一時期に多くの人が感染したりして集団発生ということになります。

 

■社会的関心の薄れ

第2は、結核に対する社会の関心が薄れてきている点です。このため、肺結核の患者に対する医師の診断や対策が遅れがちになっています。

 

■海外旅行の流行

第3は、海外に行く人が増えた結果です。予防接種の普及の遅れや、人口増による栄養状態の悪化で、いまだに結核が猛威をふるっている国が数多くあります。さらに、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染が原因で免疫力が低下し、結核を発症する症例が世界的に増加しています。

 

 

肺結核の症状

 

肺結核には、診断の決め手となる特徴的な症状がありません。症状は咳、痰、血痰、胸痛などの呼吸器に関するものと、微熱や、悪寒を伴わない高い発熱、発熱を伴わない寝汗、食欲不振、体重減少、背痛、肩こり、全身倦怠感などの全身に関するものに分けられます。この症状が2週間以上持続している場合には、肺結核を疑って検査する必要があります。

 

■感染初期

感染初期には、胸膜に炎症が起こることがあります。まず、刺すような胸痛が現れます。特に、呼吸時やからだを動かしたり、咳をしたときに強く感じられます。やがて鋭い痛みが治まり、鈍痛や圧迫感が長期にわたって続きます。

 

■病巣の安定期

病巣が安定し、その中心部に空洞が形成されるようになると、咳や痰が症状の中心となります。空洞の内容物は睡眠中にたまるので、起床後、しばらくの間、激しい咳や痰が出ることが多いようです。

 

また、何の前ぶれもなく、咳とともに喀血が起こることがあります。出血は鮮紅色ですが、少量のことが多く泡状で、痰が混じっています。ほとんどの場合、翌日には血痰となり、2〜3日から1週間程度続きます。喀血や血痰の後に発熱することもあります。

 

 

肺結核の原因と発症

 

肺結核の患者が咳やくしゃみをすると、結核菌を含むしぶきが飛び散ります。このしぶきを吸い込んだ人が感染し、飛沫感染します。飛沫感染は生活をともにする人の間で最も起こりやすくなっています。まれに、地面に落ちたしぶきが乾燥してほこりとともに舞い上がり、これを吸った人に感染する塵埃(じんあい)感染というケースもあります。

 

いずれの場合も吸い込まれた結核菌は気管支から肺に入って増殖し、炎症を起こして初期感染原発巣とよばれる病巣をつくります。肺門リンパ節にも病巣ができます。この二つの病巣を合わせて初期変化群といいます。

 

肺門リンパ節に病巣がつくられるころになると、結核菌に対する免疫力がついて菌を殺菌、分解できるようになり感染は終わります。初期変化群は、やがて乾燥して硬く石灰化して大半は治癒します。ほとんどの人は結核菌に対する免疫が維持されて、一生発症せずにすみます。

 

ところが、抵抗力が弱い人や、侵入した結核菌の量が多かったり毒性が強い場合には、初期変化群が治癒しないで悪化し、6ヶ月から数年のうちに引き続いて肺結核を発症することがあり、一次結核症といいます。

 

一次結核症の患者で、副腎皮質ホルモン剤や抗がん剤を服用している場合や、肝機能障害、人工腎臓透析、妊娠中絶などが誘因となり、結核菌が血流に乗って全身に広がるケースがあります。この結核を粟粒結核といい、結核性髄膜炎、結核性腹膜炎などの重い病気を引き起こします。

 

一方、初期変化群が治癒した場合でも、数年から数十年後に石灰化した病巣が崩壊して結核菌が再び増殖し始め、病巣をつくることがあります。二次性結核症とよばれるこの発症は、老化、人工腎臓透析、副腎皮質ホルモン剤や抗がん剤の服用、HIV感染、強いストレスや長期間の睡眠不足などが原因で、免疫力が低下した場合に起こりやすくなります。

 

なお、子供や若い人たちに多い発症パターンは一次結核症で、高齢者に多くみられるのは二次性結核症です。

 

 

肺結核の検査

 

肺結核の診断は、以下の検査の結果に基づいて行われます。主に、感染はツベルクリン反応で判明します。

 

■ツベルクリン反応

結核菌に感染しているかどうかがわかる検査です。まだ自覚症状のない初期変化群の段階でも感染の有無を正確に調べることができます。この検査では、結核菌の培養液を精製したPPDというたんぱく質0.1mlを前腕の内側の真ん中に注射し、48時間後に反応を調べます。発赤の大きさ、硬いブツブツの硬結や二重発赤の有無などから陰性・陽性が判定されます。

結核菌感染者や、結核菌を無毒化したワクチンのBCGの接種を受けたことがあれば、判定は陽性になります。ただし、副腎皮質ホルモン剤や抗がん剤の服用、腎不全、結核性胸膜炎や栗粒結核などが原因で、本来は陽性なのに陰性を示すことがあるので、ほかの検査の結果と照らし合わせ慎重に判定することが求められます。

 

■胸部X線写真

肺結核を発症している人に胸部X線写真撮影を行うと、肺上部の背中側に病巣が写ります。発症者のX線像の大きな特徴の一つは空洞が写ることです。これは病巣の中心部にできる細胞の死骸や滲出物のチーズのような塊が痰となり、気管支から排出された跡です。この痰には結核菌が大量に含まれているため、空洞の写る患者は周囲への感染源となる危険性が高くなります。

 

肺結核の診断

結核病学会では病巣の状態や広がりの程度から、肺結核の病型を次のように分類しています。

病巣の性状による分類

O型:病変がまったくない状態です。

Ⅰ型:広範空洞型といわれます。空洞が第2肋骨の上端を結んだラインを超えて広がり、肺の病巣範囲の合計が片肺分に達した状態です。

Ⅱ型:非広範空洞型とよばれているものです。空洞がみられるもので、Ⅰ型には当てはまらない状態を指します。

Ⅲ型:不安定非空洞型とよばれています。炎症が起こっているために空洞はみられず、病巣の縁がはっきりしない状態です。

Ⅳ型:安定非空洞型といわれています。炎症が落ち着き、病巣が収縮して空洞になったり石灰化し、結核腫とよばれる状態になります。X線写真では円形陰影として写ります。

Ⅴ型:病巣が石灰化し、治癒した状態で、治癒型とよばれています。

 

なお、肺門リンパ節の腫れ、胸水や胸痛を伴う滲出性胸膜炎、過去の手術痕などがあるといった、次のような場合は特殊型とされています。

病巣の広がりによる分類

:病巣が第2肋骨の上端を結んだラインよりも下にとどまっている状態です。

:1と3の中間です。

:病巣が、片肺分の面積以上に広がっている状態です。

 

病巣のある側による分類

:病巣が右肺だけにある場合です。

:病巣が左肺だけにある場合です。

:両側の肺に病巣がある状態です。

 

なお、治療中も治療効果の確認のために毎月1回X線撮影が行われます。

 

菌検出検査(喀痰検査)

肺結核の確実な診断のために、欠かせない検査です。治療で使用される抗拮抗剤の選択や、治療効果の判定のためにも必要です。

菌の検出に最も適しているのは痰ですが、痰がどうしても出ない場合には、綿棒で採取した喉頭の粘液や、空腹時にカテーテルによって吸引した胃の粘膜が検査材料になることもあります。これらの内容物から結核菌の有無を調べる方法には、塗抹染色法と分離培養法があります。

 

■塗抹染色法

塗抹染色法では、検査材料をスライドガラスに塗りつけてから乾燥させ、薬品で染色して結核菌の有無を顕微鏡で調べます。

 

■分離培養法

分離培養法は、雑菌を除いた検査材料を寒天培地などに塗り、4〜8週間おく方法です。結核菌が含まれていれば、分裂・増殖して直径1〜3mmほどの小集落が発生します。塗抹染色法で菌が確認され、検出された菌の量が多いほど、周囲への感染源となる可能性が高いといえます。

 

以上の検査の結果から、胸部X線写真で空洞が認められますが、塗抹染色法では菌が検出されない陰性の状態で、分離培養法では陽性となったときは軽症となります。いずれでも陽性のときには重症の肺結核と診断されます。

 

 

肺結核の治療

 

肺結核の治療の中心は化学療法で、抗結核薬などが処方されます。それ以外では効果が薄い、または効果がみれらないため、症状の程度によって異なりますが、入院は平均2か月、薬物による化学療法は6か月~9か月続ける必要があります。

 

化学療法

使用される抗結核薬は、それぞれに治療効果と副作用が異なり、2剤以上が併用されます。長期にわたる化学療法の間に同じ抗結核薬を使い続けると、結核菌がその薬剤に抵抗力をもつことがあるためです。

 

薬剤を選択する際には、患者の年齢や体重のほか副作用などが十分に考慮されたうえで、分離培養法の培地に薬剤を加え、検査で検出された結核菌が増殖するかどうかを調べる薬剤感受性検査が行われます。

 

2剤を併用する場合は、殺菌力のあるイソニアジド(INH)とリファンピシン(RFP)が処方されます。初めて肺結核の治療を受ける場合、抗結核薬の組み合わせと治療期間は、次の方法が標準です。

・INHとRFPの2剤を6〜9ヶ月間。

・INH、RFPにストレプトマイシン(SM)またはエタンブトール(EB)を加えた3剤を6ヶ月間、その後INH、RFPの2剤を3〜6ヶ月間。

・INHとRFP、ピラジナミド(PZA)にSMまたはEBを加えた4剤を2ヶ月間、そのINHとRFPの2剤またはINH、RFP、EBの3剤を4ヶ月間。

 

周囲への感染を防ぐため、結核菌が排出されなくなるまでは入院が必要になります。なお、化学療法を行うと、治療開始後約4〜5ヶ月でほぼ100%分離培養法の結果は陰性になります。

 

 

肺結核の予防

 

結核菌の感染を防ぐことは困難です。しかし、感染しても発病させないようにすることはできます。それにはBCGの接種を受けることが欠かせません。一般的なBCGの接種時期は4歳未満、小学1年生、中学1年生の3回とされています。BCGの接種は義務ではなくなりましたが、接種すれば肺結核の発症率を2分の1以下に抑えられ、効果は10年以上継続します。

 

十分な栄養や睡眠をとって、日ごろから健康に気をくばり抵抗力を高めることも大切です。たとえ発症しても、早くから適切な治療が行われれば完全に回復します。そこで、念に1度は胸部X線写真も含めた健康診断を受けるようにしましょう。

 

家族に患者が出た場合には、家族全員が感染している可能性があります。その場合、周囲への感染を防ぐために家族全員が検査を受けることが重要です。検査の結果、感染が明らかになった場合には、予防的に抗結核薬を服用して発症を防ぐ方法もあり効果を上げています。

 

肺結核を発症しやすいハイリスクのグループ

■人工透析を受けている人

腎不全のために人工透析を受けている人は、免疫を抑制している状態にあるといえます。免疫力が低下していると、感染症に対するリスクが大きいことになります。

 

■HIVに感染している人

HIVに感染すると、からだの免疫力が著しく低下してきます。そのため、結核菌にも感染しやすくなります。発症率は非感染者の数倍から数十倍といわれます。エイズ(後天性免疫不全症候群)患者の増加は肺結核患者の増加をも意味しているのです。また、結核菌の感染者がHIVに感染すると、7〜8年以内に30%以上が肺結核を発症するとされています。

 

■副腎皮質ホルモン剤を服用している人

アレルギー性疾患や膠原病など、さまざまな病気に対して用いられる副腎皮質ホルモン剤を服用している人に、発症が集中するケースがみられます。この薬は免疫を抑制する性質をもっているので、服用中は、細菌やウイルスに対する抵抗力が低下しているのです。

 

■胃の切除手術を受けた人

腹部の外科手術を受けたことのある人は胃酸分泌が低下するため、ハイリスク・グループに入ります。

 

■糖尿病の人

生活習慣病(成人病)の典型のようにいわれる糖尿病は、体内での糖代謝がうまくいっていない状態で、さまざまな合併症を引き起こします。感染症にも十分な注意が必要です。お酒をよく飲む人、特にアルコール依存症の人は、多分に低栄養状態で、全身の抵抗力が低下しているケースが多いものです。高齢者は、感染症全般にわたって注意が必要です。

 

また、過労やストレスの関与も見逃せません。ストレスは自律神経の失調を招き、免疫システムにも影響を与えます。規則的な生活、栄養のバランスを心がけ、運動でからだに適度な負荷をかけ続けることが第一の予防法といえるでしょう。

 

 

まとめ

 

肺結核は適切な治療を受ければ完全に治る病気になりましたが、発症に気づかずに放置したり治療を途中で放棄すれば、周囲の人に感染するだけでなく重症化します。回復にも時間がかかりますし、肺機能が低下するなどの重い障害を残したり、死に至ることもあります。

 

結核は決して過去の病気ではありません。かぜがなかなか治らなかったり、咳が長引くような場合には肺結核の可能性もあることを一人ひとりが考慮に入れておく必要があるでしょう。