破水とは、卵膜が破綻して、羊水の漏出を来した状態のことを言い、出産前(特に妊娠中期~後期)に起こることが多く、前期破水、つまり妊娠37週未満に起こる破水は早産の引き金になることが多いのが実情です。

 

ただし、羊水様の液体が流出しても、それが必ずしも破水とは限りません。また、流出羊水量が多い場合には診断は容易ですが、少量の場合は容易ではありません。破水の有無によって今後の妊娠経過の対応が全く異なるために、破水が疑わられる場合にはそのままにせず、少しでも早く病院で診断を受け、前期破水の場合には適切な治療(待機あるいは積極的治療)を行う必要があります。

 

 

破水と卵膜について

 

子宮口付近は子宮の内側から羊膜、絨毛膜(胎児成分)および脱落膜(母体成分)の3種類の膜から構成されていますが、癒合して1枚の膜になっていて、卵膜と呼ばれています。

 

この卵膜が破綻するのが破水です。破水すると子宮内より膣を経て羊水の漏出が起こります。また、破水し子宮口が開いている場合には、卵膜は触知できずに胎児自身を直接触れることができます。ただし、高位破水の場合には卵膜を触知し、胎児部分を直接触知することは不可能です。

 

 

前期破水とは

 

前期破水とは分娩の開始以前、つまり規則正しい陣痛が発来する以前に卵膜の破綻をきたし、羊水が子宮外に流出する場合を言います。前期破水は早産の重要な原因で、早産の1/3は前期破水が引き金になるために産科的に重要な疾患です。妊娠37週以前の前期破水はpreterm PROMと呼ばれ、前期破水の約5%を占め、未熟児出産の原因になります。

 

適時破水と非適時破水

分娩時、子宮口が全開大(10cm開大)の時に、強い陣痛が起こると、子宮内圧は緊張の極に達し、ついには卵膜の破綻、すなわち破水が起こります。このように破水は子宮口が全開大に近い頃に起こるのが正常です。このような時期の破水を「適時破水」と言います。

 

これに対して、破水が分娩開始以前の著しく早期に起こったり(前期破水、早期破水)あるいはこれとは反対に全開大後もしばらく破水が起こらない場合(遅滞破水)があります。これらの破水時期の異常を総称して「非適時破水」と言います。前期破水は破水時期の異常です。

 

前期破水と早期破水

■前期破水

前期破水とは分娩開始以前すなわち陣痛発来以前に起こる破水を言います。臨床上は以下に示す早期破水をも含めて前期破水(広義)と総称することがあります。前期破水はPROMとも呼ばれ、premature rupture of the membraneの略です。

前期破水は、早産、臍帯脱出および子宮内感染症の主要な原因となり、産科臨床において重要な位置を占めています。全分娩の約10%に起こるとされています。妊娠中期の前期破水は早産の原因の30〜40%を占めるとされています。

 

■早期破水

分娩の開始後から子宮口の全開大に至る以前に破水するものを早期破水と言います。上記したように広義な意味では前期破水に含まれます。日本産科婦人科学会では、陣痛の発来をもって分娩開始としています。その際の陣痛は胎児娩出まで続くもので、かつ周期が10分以内、または1時間に6回の頻度になった時点を陣痛発来としています。

 

前期破水(PROM)の分類

■prelabor PROM

前期破水のおよそ90%は胎児が成熟(2500g以上)している妊婦に起こります。このような破水はprelabor PROMと呼ばれますが、この段階での破水は成熟児であり、早産ではないために臨床的に異常ではありません。

 

■preterm PROM

胎児が未熟な場合(妊娠37週未満)の破水はpreterm PROM(preterm premature rupture of the membrane)と呼ばれます。前期破水(PROM)の約5%は未熟児(1000〜2500g)で、0.5%以下の頻度で児体重1000g未満のものも含まれます。すなわちpreterm PROMは未熟児出産の誘因になります。

 

 

前期破水(PROM)の原因

 

前期破水(PROM)の原因には、卵膜の異常(異常に菲薄な場合や炎症、感染などによる脆弱化)、急激な腹圧の亢進(重荷を挙上したり、墜落、激しいせきなど)があげられます。

 

前期破水(PROM)のハイリスク因子としては、母体感染症(尿路感染症、性器の感染症、性感染症など)、切迫早産、双胎妊娠、頸管無力症、多産婦、羊水過多症、栄養不良、前期破水(PROM)の家族歴などがあげられています。

 

あるいは過長臍帯があり胎動の激しい場合や性交(オルガズム)も前期破水(PROM)の誘因であるとの報告もあります。また高齢妊娠(35歳以上)や喫煙もリスク因子とも考えられています。

 

絨毛膜羊膜炎について

上記の前期破水の原因の中でも最も注目されているのが絨毛膜羊膜炎です。絨毛膜羊膜炎の起炎菌としては、B群溶連菌(GBS)、嫌気性菌、グラム陰性桿菌などの細菌、淋菌、クラミジア、トレポネーマなどの性感染症や単純ヘルペスウイルスなどのウイルスも考えられます。

 

このような病原菌が認められ、膣炎や子宮頸管炎が引き起こされると、頸管に接する卵膜の局所的な絨毛膜羊膜炎が発生することがあります。この局所的な絨毛膜羊膜炎は羊膜の脆弱化と子宮収縮を引き起こし、前期破水に至ると考えられています。産道(膣、子宮頸管)から上行性に感染が拡大し、その結果として卵膜の脆弱化の原因となり、結果的に破水の原因となります。

 

 

前期破水(PROM)の症状

 

典型的な場合には羊水の漏出が絶えず続きます。妊婦さんは水様物がもれると訴えることがあり、また外陰部や大腿部がびしょびしょに濡れることもあります。このように羊水の漏出が多量の場合には、妊娠子宮が全体にやや小さくなり子宮底長が減少する場合もあります。

 

羊水が減少すると腹壁上より胎児の手や足(胎児小部分)の突出が著明になることもあります。羊水の漏出量が少量の場合にはこのような症状は認められません。

 

破水に続き、陣痛が始まるために下腹痛を訴えることが多々あります。また、破水後時間が経過すると子宮内感染を起こすことが多い傾向にあります。感染が成立すると、母体の発熱、胎児頻脈が認められますが、これは胎児をとりまく子宮内環境の悪化を意味しています。

 

羊水過少症が認められることがありますが、胎児肺低形成や臍帯の圧迫による胎児仮死の原因になったりすることがあります。そのために人工羊水補充療法がありますが、決定的な治療方法にはなり得ないのが現状です。

 

 

破水の診断法

 

破水の診断の基本は、羊水中にのみ認められ、腟内や子宮頸管内に認められない物質が膣内や子宮頸管に検出されると破水と診断されます。以下の診断法は全て行われるわけではなく、まず内診、視診が行われます。これで破水の診断が不明の場合には腟内pH測定法(特にエムニケーター)が行われます。

 

これによって診断がつかない場合には、ヒト癌胎児性フィブロネクチンやα-フェトプロテイン(AFP)、あるいはヒトインスリン様成長因子結合蛋白1型(IGFBP-1)の検出用キットのいずれかが使用されます。

 

問診および内診・視診

羊水の急激な漏出、持続的漏出が認められる場合には破水の診断は容易です。外陰部が羊水で汚染されていたり、腟鏡診にて肉眼的に羊水が確認されれば破水と診断されます。しかし、「尿漏れの疑い」や「おりもの(帯下)が多い」と訴えて来院した場合には内診や視診で破水の診断をすることは不可能ですので、以下の診断法を参考にしなければなりません。

 

腟内pH測定法

腟内容(腟分泌物)のpHは4.5から6.0の酸性ですが、羊水のpHは7.0から8.5のアルカリ性です。したがって腟内容のpHがアルカリ性に傾くことは間接的に羊水の存在を意味し、破水と診断されます。つまり腟内のpHが6.5以上であれば破水の可能性が高く、pHが7.5から8.5を示せば、破水は確実と考えられます。

 

しかし、出血や精液の混入、子宮頸管炎などの炎症の存在によって腟内容のpHは上昇することがあるため、判定には注意を要します。具体的に腟内pH測定法はBTB法とエムニケーターがあります。この検査はあくまでも腟内のpHを測定しているにすぎないために偽陰性、偽陽性に注意が必要です。

 

■BTB

BTBとはbrom-thymol-blue(ブロム・チモール・ブルー)の略です。BTB試験紙と呼ばれるテープを腟分泌物に浸すとpHが6.2から7.8の場合には、このテープが黄色から青色に変化します。

 

■エムニケーター

エムニケーターはpH指示薬としてニトラジンイエローを用いて、BTB法よりもより正確なpH診断を行う方法です。ニトラジンイエローは、破水の鑑別に適した変色域を持ち、腟分泌に浸すことにより、そのpHに応じて呈色します。その色調を以下に示す色調表と対照して羊水のpHの検査を行います。

黄色の綿棒を腟分泌物に浸して、青色に変化するとpHが6.5以上であると診断します。すなわち、間接的な診断法ながら破水と診断されます。

 

羊水シダ状結晶証明法

腟内容をスライドグラス上に載せて乾燥させると、腟内容が羊水である場合にはシダ状の結晶が形成されます。これは羊水中に多量に含まれる塩化ナトリウムとタンパク質の相互作用によるものとされています。しかし、日常頻繁に行われる検査法ではありません。

 

胎児由来細胞の証明

毳毛(うぶげ)は羊水中のみに認められ腟内に存在しません。腟内容をスライドグラスに載せ、そのまま直接検鏡します。その結果、胎児毳毛(うぶげ)が確認されれば破水と診断されます。

 

同様の理由で脂肪球やオレンジ細胞の存在が確認されれば破水と診断されます。妊娠週数がすすむと、羊水浮遊細胞中に脂肪細胞の占める割合が高くなります。腟内容をスライドグラスに載せ、0.1% Nile blue sulfate の1〜2滴を滴下し検鏡します。オレンジ色に染まった無核細胞、脂肪球が検出されれば破水と診断されます。

 

ただし毳毛やオレンジ細胞の出現は胎児の皮膚の成熟に関連し、妊娠32週以降でないと陽性にならないのが欠点です。羊水シダ状結晶証明法と同様に日常頻繁に行われる検査法ではありません。

 

ヒト癌胎児性フィブロネクチン

ヒト癌胎児性フィブロネクチンは羊水中に含まれ、非妊娠や正常妊娠妊婦の腟分泌中には存在しないことが知られています。従って、妊婦の腟分泌中にヒト癌胎児性フィブロネクチンが検出されれば破水と診断されます。

 

ヒト癌胎児性フィブロネクチンの検出用のキットには、ロムチェックなどがあります。ロムチェックは、ヒト癌胎児性フィブロネクチンに対するモノクロナール抗体を利用した金コロイド着色法に基づいており、高い感度および特異性で頸管腟分泌液中のヒト癌胎児性フィブロネクチンを検出できます。数分間で診断が可能です。

 

α-フェトプロテイン(AFP)

α-フェトプロテイン(AFP)は胎児由来の物質であり、羊水中には高濃度の存在します。しかし、母体血中には羊水中ほど多くなく、尿中や腟分泌液中にはほとんど含まれていないことが知られています。すなわち、羊水中の物質として特異性が高く、腟内からα-フェトプロテイン(AFP)が検出されれば破水と診断されます。

 

ヒトインスリン様成長因子結合蛋白1型(IGFBP-1)

ヒトインスリン様成長因子結合蛋白1型(IGFBP-1)はヒトインスリン様成長因子に結合するタンパク質の一つで、羊水中に高濃度で存在します。このIGFBP-1は正常妊娠妊婦の腟中にはごく微量しか認められません。破水した場合には羊水由来のIGFBP-1が腟中に漏出するために、腟分泌中のヒトインスリン様成長因子結合蛋白1型(IGFBP-1)を検出することは破水診断の指標となります。

 

 

前期破水(PROM)の治療

 

二つの治療方針、待機と積極的治療があります。待機とは妊娠の継続を意味し、また積極的治療とは分娩を意味します。妊娠時期によって対応が異なるが破水後直後の方針は以下のようになります。いずれの場合にも抗生物質を予防投与して、子宮内感染を防止しなければなりません。

 

■妊娠37週以降(児体重2500g以上)

妊娠37週以降であるために早産ではなく正期産です。すなわちいつ分娩になっても問題ない時期です。一般的には破水後に陣痛が自然に発来することが多いために破水直後は待機の方針となります。しかし、24時間経過しても陣痛が発来しない場合には、子宮内感染が起こる前に分娩誘発を行います。

 

■妊娠35週~妊娠37週(児体重2300g以上)

妊娠35週以降は一般的には胎児の母体外生活は可能になります。そのために妊娠37週以降の前期破水症例と全く同じ対応をとることもあります。すなわち破水直後は待機の方針となりますが、陣痛が発来しない場合には分娩誘発を行います。

また破水直後よりも24時間から48時間経過したほうが胎児の肺が成熟するとの報告があります。そのために破水後48時間以降に分娩誘発を行うこともあります。しかし、妊娠35週では予定日よりも1ヶ月以上も早く、妊婦さんによっては妊娠の継続を希望する場合もあります。

その他に何らかの理由によって妊娠の継続を選択する場合には、子宮内感染を認めず、胎児の状態が良好の場合には分娩誘発ではなく妊娠の継続の方針をとっても問題はありません。積極的に待機の方針をとるならば子宮収縮抑制剤の持続投与が必要になります。

 

■妊娠35週未満(児体重2300g以下)

妊娠35週未満の場合には、一般的には胎児の母体外生活は困難を伴います。そのために基本的には妊娠の継続を目指します。妊娠を継続するためには子宮内感染を認めずに、陣痛が抑制されていなければなりません。切迫早産の治療を行うことになります。

 

子宮内感染の防止

子宮内感染の防止のためには抗生物質を投与します。そして子宮内感染の有無をチェックするためには、発熱、腹痛、腰痛、性器出血、膣分泌物の変化などの自覚症状に注意しながら血液検査(白血球数やCRPの測定)を行います。

 

子宮内感染が起こると発熱や下腹痛・腰痛がみられることがあります。また白血球が増加し、CRPも上昇します。母体の発熱のために胎児頻脈が見られることもあります。このように感染が成立すると抑制不可能な激しい陣痛が発来する場合もあります。

 

抗生物質を投与して、奏功不可能な感染が認められたならば、子宮内環境の悪化を意味します。この場合には妊娠の継続は児にとって危険であり、帝王切開を含めた急速遂娩が必要になります。

 

陣痛の抑制

破水後は一般に自然に陣痛が発来します。陣痛の抑制のために子宮収縮抑制剤の投与などが必要になります。切迫早産の治療を行うことになります。しかし、陣痛の抑制は全て可能ではなく、激しい陣痛が発来し分娩にせざるをえない症例もあります。

 

妊娠週数が若い場合には胎児の保護目的に分娩方法は帝王切開が選択されることが多い傾向にありますが、少数症例ですが相当長期間にわたって妊娠の継続に成功する場合もあります。

 

 

前期破水(PROM)の予防

 

preterm PROMは上記のようは保存的治療法にて妊娠の継続をはかっても、いずれは分娩せざるを得ない状況になり、未熟児出産の誘因になります。

 

前期破水(preterm PROM)の予防とはまさしく絨毛膜羊膜炎の予防であり、ひいては早産の予防につながります。そのために絨毛膜羊膜炎の正確な診断方法の確立が望まれます。そのために顆粒球エラスターゼや癌胎児性フィブロネクチンなどの臨床応用が試みられているが絶対的でないのが現状です。

 

絨毛膜羊膜炎の治療目的(前期破水の予防目的)で抗生物質を投与することもありますが、治療法として完全に確立しているわけではありません。現状では前期破水を完全に予防する治療法はありません。