口腔習癖には、いろいろな種類がある。その中でも不正咬合を引き起こすものとしては、指しゃぶり、舌突出癖、口呼吸、吸唇癖・咬唇癖、おしゃぶり癖などが挙げられる。

 

不正咬合の後天的な原因は、口腔習癖によるものが少なくなく、不成咬合の予防や進展の防止には、口腔習癖の早期発見、早期指導・治療が大切である。

 

 

はじめに

 

大人でも「無くて七癖」というように、貧乏ゆすり、髪の毛や頭や鼻を触るなどの癖を持っている。しかし、我が子の癖になると親は何かと気になるものである。口腔習癖の多くは増齢的に減少していくものが多いが、逆に爪噛みのように学童期にかけて増加するものもある。乳児が指をしゃぶるの姿は微笑ましいが、5〜6歳を過ぎて指をしゃぶる場合には、開咬や上顎前突などの不正咬合を引き起こすことが多い。

 

同じ指しゃぶりでも年齢によって持つ意味が異なり、乳児では生理的なものであっても、5歳を過ぎれば正常でなくなる。特に、口腔習癖が歯並びや咬合の異常、発音や嚥下などの口腔機能に影響を及ぼしている場合には、何らかの対処が必要になる。

 

口腔習癖の増加の背景には、少子化による母親の過干渉や溺愛、核家族化、母親の就業、子どもの遊び場が少ないなど身近な生活環境や社会環境が影響していることも少なくない。都会では、家の中での遊びやテレビゲーム、習い事などにより忙しく過ごすことが多く、外で元気に遊ぶ子どもの姿をほとんど見なくなった。また、子どものアレルギー性鼻炎、扁桃肥大などによる鼻閉が増えていることも、一部の口腔習癖に影響している。

 

学校健診においても、口腔習癖を伴った不正咬合を持つ子どもが増えており、もっと早く発見できればひどい不正咬合にならずに済んだのではという症例に遭遇することがある。

 

口腔習癖の種類

習癖とは、正常にみられる行動が繰り返し行われ固定化したもので、通常マイナスの意味合いを持っている。良い行動は習慣と言い、むしろ悪い行動が習癖と言われている。

 

口腔習癖は10種類以上あるが、不正咬合の原因となるものと影響しないものがあり、その他、子どもの情緒に関係する神経性習癖というものがある。口腔習癖は歯並びや咬合などの不正咬合への影響だけでなく、成長発育期には咀嚼・発音・嚥下、呼吸などの口腔機能の発達にも影響を及ぼすことが多い。

 

頬づえ、指しゃぶり、毛布しゃぶり、タオルしゃぶり、ガーゼしゃぶり、吸・咬唇癖、口唇なめ、おしゃぶりの常用、爪噛み、睡眠態癖、口呼吸、クレンチング、歯ぎしり、ほう舌癖、舌突出癖

 

口腔習癖による影響

航空習癖による影響は以下の通り。歯列や顎骨の成長発育、軟組織、口腔機能など、実にさまざまに影響を与える。

 

歯列や顎骨の成長発育への影響
  • 上顎前歯の萌出抑制
  • 上顎前歯の前突症状
  • 開咬症状
  • 上顎歯列弓の狭窄
  • 交叉咬合
軟組織への影響
  • 口元の突出
  • 表情が乏しい
  • アデノイド様顔貌
口腔機能への影響
  • 発音(サ・タ・ダ・ナ・ラ行の障害)
  • 舌たらずな発音
  • よく噛めない
  • 前歯で噛み切れない
  • 上手く飲み込めない
  • 舌が突出する
  • いつも口をポカーンと開けている
  • 口元の締まりがない
  • 口呼吸

 

口腔習癖の発現頻度と心理的な問題

年齢群別の口腔習癖の発現頻度をみると、指しゃぶりは学童期に向かい増齢的に減少傾向を示し、逆に爪噛みと歯ぎしりは増加傾向を示している。また、もの噛み癖は増齢的に減少し、咬唇の発現頻度は低いものの、年齢による増減は殆ど見られない。

 

心身医学的に問題となる口腔習癖は、一部の指しゃぶり、爪噛み、歯ぎしりでありが、子どもの情緒不安などの心の問題は、身体の病気のようにはっきりとした症状が出ないことが多い。指しゃぶりや爪噛みといった習癖と子どもの心理的な背景との因果関係はなかなか判別が難しいのが現状である。

 

指導にあたって、習癖の発生が生活環境に問題があると判っても、簡単に環境を変えられない現実がある。歯科医師、歯科衛生士の立場では、家庭のプライバシーにはなかなか入り込めない。心理的な問題があると判明した場合には、臨床心理士など専門的な知識を持っている人に委ねる方が良いだろう。また、口腔習癖は子どもの性格にも関与し、感受性が強い、神経質、依存的傾向があるようである。

 

 

口腔習癖における「指しゃぶり」

 

指しゃぶりに対する考え方は、専門分野により違いがある。子どもが指しゃぶりを止めるまで見守った方がよいか、指導が必要な場合は何歳頃に始めたらよいか、また子どもの生活環境をどのように変えたらよいかなどについては、小児科医、育児の専門家、臨床心理士、言語療法士、小児歯科医、矯正歯科医などにより意見が違ってくる。これは、それぞれの立場での専門知識をベースにして症状や背景を捉えるためと考えられる。

 

専門分野の視点

■小児科医

乳幼児の指しゃぶりは生理的な人間の行為であるとし、子どもの成長発育の中で見守り、子どもの生活環境、心理的状態を重視して無理に止めさせないという意見が多い。指しゃぶりによる不安や緊張を解消する効果を評価し、そのうち止めるだろうという楽観的な意見が多い。そして不正咬合、口腔機能への影響をあまり心配していないようである。

 

■臨床心理士

指しゃぶりを生理的なものとしながら、年齢が高くなっても持続する指しゃぶりの背景には親子関係や生活環境による影響があり、子どもの心理面から問題行動の一つとして捉える。子どもの情緒に問題がある指しゃぶりは早期に指導し、生活環境を変えて正常な心身の発達を促進するという意見が多い。

 

■言語療法士

子どもの言語発達面から捉える。指しゃぶりにより開咬が生じると、上下顎前歯の間に舌を出して発音する歯間化構音、サ行などが側方に流出し、音が歪む側音化構音になるため、言葉の学習、獲得面から問題があるとしている。

 

■歯科医師(小児歯科医、矯正歯科医)

歯並びや咬合とともに発音や嚥下、口元の突出、顎発育などへの影響が生じ、年齢が高くなると矯正が必要な不正咬合になる。不正咬合の進行防止や口腔機能の発達面より、5歳を過ぎた頑固な指しゃぶりは指導した方がよいとしている。歯並びの問題より心理療法を優先した方がよいとする考えもある。

 

■母親の意識

歯並びや顔貌への影響を考え、不安を感じている場合が多い。指しゃぶりを止めさせるために、注意したり言い聞かせたり様々な方法を行うことが多い。中には「指をしゃぶらせていると静かになる」「そのうちになくなると思う」というように楽観的に捉える母親もいる。

 

指しゃぶりの原因

指しゃぶりの原因については、子どもの情緒の問題として不安・不満から現れた「欲求不満説」と、乳幼児の生理的な指しゃぶり学習され習慣化し、幼児後期、学童期まで単なる癖として残った「学習理論説」が代表的である。

環境要因として、拒否的、威圧的、溺愛による過保護などの保護者の育児態度が影響したり、親のいらいら、過剰な反応、子どもの気分が分からない、心配しすぎなどの親子関係や夫婦関係、嫁姑の関係などが複雑で子どもの情緒に影響している場合もある。

しかし、指をしゃぶるというおとは必ずしも病的、情緒的な状態が現れるものではなく、無意識に繰り返すことにより習慣化し、単なる癖として残っているものも多い。現実には、子どもの指しゃぶりが、心理的なものか単なる癖なのかを初診時に判別することは難しい。

 

  • 吸引反射、スージング効果
  • 習慣、学習説
  • 問題のある育児姿勢(早期離乳、人工栄養、不適当な授乳法、
  • 欲求不満などの精神的な要因
  • 子どもの気質と生活環境

 

指しゃぶりに対する保護者に意識

指しゃぶりを止めさせたい理由としては、「歯並びに悪い影響を与える」「口元の突出」「顔貌」「発音」「精神的なこと」など、歯科医師以上に気にしているようである。特に食べ方では、「横で噛み切る」「よく噛まずに飲み込む」「くちゃくちゃ音を立てて食べる」など、食べ方の異常に保護者が気づき、話し方についても「舌足らずな発音」を気にしている。

 

指しゃぶりを止めさせたい理由食べ方で気がつくこと
  • 歯並び
  • 顔貌
  • 発音
  • みっともない
  • 精神的なこと
  • 将来のこと
  • 口の横で噛み切る
  • あまり噛まないで食べる
  • 口の中に詰め込む
  • 口を開けたまま食べる
  • 良く噛まないで飲み込む
  • 噛み方、飲み込み方が遅い
  • 歯の前に食べ物を出してくちゃくちゃ食べる
  • 硬いものを嫌う
  • 食べ物を水分で流し込む
  • 上唇と歯の間に食べ物が入る

 

指しゃぶりの指導と治療

指しゃぶりは、3歳頃が発現頻度のピークで以後徐々に減少する傾向にあるが、4〜5歳で歯並び、発音、嚥下、口呼吸などの障害が現れる場合には、指導を必要とすることが多い。指導には、次のような事柄を目安にする。

 

  • 継続する頑固な指しゃぶりか(昼夜)
  • 単に習慣化した習癖が残っているか
  • 生活環境などで子どもの情緒の問題があるか

 

3歳頃の指しゃぶりは、無理に止めさせる必要はなく、保護者に対して将来の歯並びや発音への影響を説明しておく。5歳前後の指しゃぶりは、歯科医師が歯並びへの影響などについて指しゃぶりを止めた症例写真などの媒体を使って子どもに説明する。

 

この頃の子どもは自立心がめばえ始め、環境の変化や友達遊びなど興味を示す対象が増えるため、第三者が子どもに言い聞かせると止めていく場合が多い。しかし、生活環境などnより子どもの情緒安定があり満たされない場合には、指しゃぶりをなかなか止められない場合もある。

 

指しゃぶりを止めさせる条件が整っていない場合には、経過を見守っていく。万一、代償行為として爪を噛む、髪の毛を抜くなどが起きる場合には、指導を中止し、子どものストレスを取り除いて心理的に安心させる必要がある。指しゃぶりの指導は、生活環境の調整、行動療法、心理療法などが行われる。

 

 

口腔習癖における「おしゃぶり癖」

 

おしゃぶり癖には「毛布しゃぶり」「タオルしゃぶり」「ガーゼしゃぶり」「おしゃぶりの常用」などがあり、睡眠時のさびしさ、不安を紛らすためにしゃぶることが多い。

 

おしゃぶり癖の指導

おしゃぶり癖が他の口腔習癖と大きく異なるのは、周囲の大人がおしゃぶりを与えることによって始まるという点である。最近は、首から下げるヒモ付きのおしゃぶりが流行し、屋外でも乳幼児にしゃぶらせる母親が多くなってきている。特に深く考えず「赤ちゃんの必須アイテム」として捉え、母親たちの一つのファッション的な要素として使用されることが多い。

また、母親の中には、子どもにおしゃぶりを与えると静かになるという手抜き派もいるようである。マスコミによる記事や製作会社の宣伝文句に踊らされたりすくことなく、おしゃぶりのメリット・デメリットをよく知った上で使用できるよう、歯科医師は正しい情報を提供していく必要がある。

 

おしゃぶり肯定派の意見は、おしゃぶりを使っていると鼻呼吸になり喘息やアレルギーになりにくい、口の周りの筋肉を使うので顔が引き締まる、赤ちゃんが吸いたいという欲求を満足させる、指しゃぶりよりは止めやすいし歯並びにも良いなどである。一方、否定派の意見には、口に何でも入れることで確かめるという行為ができない、言葉を話すのを阻害する、歯並びが悪くなる、母親と子どもとのコミュニケーションが不足がちになるなどがある。

おしゃぶりを使用している乳幼児は、使用していない乳幼児にj比べ、何らかの健康上の問題が発生する可能性が高いという報告があることから、3歳頃に歯科的影響が出てきている場合には、止めさせたほうがよい。

 

止めさせる方法としては、おしゃぶり癖を止めないと歯並びがどうなるかをよく説明して、止めるように励ますとよい。毛布、ガーゼしゃぶりは無理に止めさせるとストレスになることがあるため、定期的に少しずつ切って執着を徐々になくしていきながら、神経質、不安、緊張、昼夜の行動などの環境を調整することが必要である。おしゃぶり癖については、小児科医、小児歯科医、育児に関連する専門家の話し合いが必要であろう。

 

 

口腔習癖における「舌突出癖」

 

正常な嚥下では、上下顎の臼歯を軽く咬み、舌尖を切歯乳頭部につけてオトガイ筋や口輪筋を緊張しないで飲み込む。これに対して舌突出癖のある患者では、安静時に舌は前方位や低位になり、嚥下時には舌を上下の歯の間に突出し、口輪筋やオトガイ筋をつよく収縮させる。

 

また、嚥下時に前歯を押す舌圧は正常者の2倍以上になり、嚥下は1日600〜2,000回行われるため、舌位や舌圧により開咬や上顎前突を生じることになる。

 

舌突出癖の原因

舌突出癖は、乳歯列期の指しゃぶりが混合歯列期まで継続して二次的に舌突出癖に移行する場合と、咽頭扁桃肥大、口蓋扁桃の肥大、アレルギー性鼻炎などの鼻閉による口呼吸などによるものがあげられる。その他の原因として、舌小帯の付着異常、乳歯の早期喪失、顎骨形態の遺伝などがあるが、その40%は指しゃぶりが原因といわれている。

 

  • 幼児期の頑固な指しゃぶり
  • 口呼吸
  • 舌小帯の付着異常
  • 乳歯の早期喪失
  • 大舌症
  • 早期接触や咬合干渉
  • 顎骨形態の遺伝

 

舌突出癖による影響

舌突出癖が存在すると、前歯の萌出や歯槽骨の垂直的発育を妨げ、開咬状態になっていく。口呼吸を行い安静時に口を開けていると、安静空隙が大きくなり、上下顎大臼歯が挺出し下顎が回転した顎骨形態になり、上顎歯列弓の狭窄や深い口蓋となっていく。このように舌や口腔周囲筋の機能と不正咬合は影響し合っているのである。

 

発音の問題としては、歯間化構音というようにサ行を発音する時に上下顎前歯間に舌を突出して不明瞭な発音になる。また、発音が横漏れする側音化構音という現象が生じる。舌突出癖による歯列や顎発達への影響(下表5つ影響が繰り返し生じる)

 

  • 開咬・上顎前突→不明瞭な発音
  • 前歯の萌出や歯槽骨の垂直的発育を妨げる
  • 舌突出、口呼吸の継続→上下顎大臼歯の挺出
  • 下顎の後下方への回転→顎の垂直径が長くなる
  • 舌前方位、口腔周囲筋の不調和

 

舌突出癖の指導と治療

舌突出癖の治療は、可能であれば原因の除去、筋機能療法、ハビットブレーカーの使用、矯正装置による顎骨形態の改善が行われる。舌突出癖が改善できるかどうかは、歯性の開咬が骨格性の開咬かという顎骨形態や、原因除去、本人の努力に左右される。

筋肉昨日療法を指導するタイミングとしては、混合歯列期が適切である。舌突出癖による歯列、軟組織、発音などへの影響を理解し、自分の口元など容姿についても関心が出て自覚が生じ、本人が治そうという意識と保護者の協力が無ければ、決して良い結果は得られない。

固定式のハビットブレーカーは、口蓋への挿入、発音障害などの影響があるため、可徹式の床タイプが無難である。

 

 

口腔習癖における「口呼吸」

 

最近の子どもは、環境要因にもよるが、鼻気道障害は増え、口呼吸が多くみられるようになってきた。鼻閉には鼻アレルギー、鼻茸、鼻中隔湾曲症、上咽頭閉塞にはアデノイド肥大、後鼻腔閉塞、中咽頭閉塞には口蓋扁桃肥大、舌根扁桃肥大などがあり、気道が狭窄する。

 

口呼吸は鼻閉だけが原因ではなく、不正咬合による場合が多い。例えば上顎前突や上下顎前突は前傾した前歯により口唇閉鎖ができにくく、習慣的に口呼吸を行うようになる。

 

口呼吸の影響

口呼吸があると、舌は前方位や低位となり、頬筋の力により上顎歯列弓の狭窄が起こる。口を開けて呼吸を行うには、下顎を少し下げて舌を前方位にして気道を確保するため、嚥下時に舌が突出しやすい。

このような状態が続くと、成長発育期には顎骨形態に影響して、開咬、上顎前突、歯列の狭窄、交叉咬合などの不正咬合を引き起こし、オトガイ部が後退した長い顔になる。また、口呼吸は歯肉の炎症を起こし、歯肉が発赤、腫脹し、歯周病を増悪する原因になりやすい。何よりも口呼吸は、口元が突出し外見が良くない。

扁桃は5〜8歳頃が最大で増齢的に小さくなっていくといわれるが、炎症によって鼻が詰まる、いびきをかくなどの症状を引き起こす。扁桃の摘出により舌の前方位が変化し、舌突出癖が改善され、口呼吸や開咬が治ることがある。

 

口呼吸の指導と治療

口呼吸は、基本的には耳鼻咽喉科医の協力がなければ解決がつかないことが多い。耳鼻咽喉科医が扁桃摘出を行う目安としては次のことが挙げられる。

 

  • 扁桃腺炎のため年間4〜5回以上学校を休む
  • 心臓病、腎臓病、リウマチ、皮膚の病気の原因が扁桃の慢性炎症を起こす
  • 扁桃の肥大が高度なため、呼吸器、心臓に疾患を起こす
  • 睡眠時無呼吸症候群の原因となる

 

上顎前突、上下顎前突など前歯の位置により口唇が突出して閉鎖できない場合には、小臼歯抜歯により矯正治療を行い、前歯を後退させことで鼻呼吸が可能になることが多い。その他、オーラルスクリーンやリップトレーニングにより、弛緩した口唇の筋力の賦活、夜間テープによる閉鎖などがある。

 

 

口腔習癖における「吸唇癖、咬唇癖」

 

3〜5歳児を対象にした調査では発生頻度が少ない習癖である。咬唇癖は一種のストレス、吸唇癖は指しゃぶりの代償的行動であると言われている。吸唇癖・咬唇癖の発生原因について、「指しゃぶりから移行する」という説や「吸啜反射説」があり、口唇を吸う行為は遊びや心の不安を制止するという働きがあるという。

 

吸唇癖・咬唇癖の影響

下唇を吸ったり咬んだりすることにより、上顎前歯は唇側傾斜し、下顎前歯は舌側に傾斜する結果、前突状態により口唇閉鎖ができにくくなり、口呼吸を引きこすようになる。その上、下唇をクッションとして、オトガイ筋や口輪筋を強く収縮する。通常、上顎前突になり下顎の後退やdeep bite を伴うことが多い。そして、上唇がはん転し短くなったショートリップと呼ばれる外見上の問題も起きてくる。

 

吸唇癖・咬唇癖と治療

上顎前突の矯正治療を行うと。吸唇癖・咬唇癖ができにくい形態になるため、習癖が消失することが多い。また、他の習癖に置き換わることは殆ど無い。上顎前突は、吸唇癖・咬唇癖の結果にあると患者に説明し、習慣的な吸唇癖・咬唇癖を止めるように意識させる必要がある。

従来からの吸唇癖・咬唇癖の指導法としては、下唇を吸わない、または咬まないように意識させるオーラルスクリーンを用いることが多かった。しかし、オーラルスクリーンを装着しても、幼児や小学校低学年の子どもでは、治そうという意識が低く、協力を得ることが難しい。通常、保護者は幼児期の吸唇癖・咬唇癖が気になっても治療が必要であると認識せず、混合歯列期になり上顎前突が著しくなってから、小児歯科や矯正歯科を訪れることが多い。

 

矯正治療としては、下唇が入らないようなリップバンパーやバイトプレート、上顎前突を改善するためにヘッドギアーなどが使われている。乳歯列期・混合歯列期前期の吸唇癖・咬唇癖の治療法として、ファンクショナルアブライアンスを使用した使用した形態改善を優先し、上下前歯の間に下唇が入らないようにしている。

さらに、上唇を賦活するようにリップトレーニングを指導する。ファンクショナルアプライアンスが口の中に装着されている間は、物理的に下唇を吸うことができないため、習癖を止める意識づけにもなる。そして、前突状態の改善により、5〜6ヶ月で吸唇癖・咬唇癖が消失することが多い。

また、比較的短期間に上下顎前歯の被蓋関係やdeep bite を改善することができ、抑制された下顎の前方発育を促進する効果や形態改善に伴う側貌の改善などが同時に行える利点がある。

 

 

口腔習癖における「爪噛み」

 

爪噛みしている子どもは、爪を切る必要がないくらい深爪であり、指先が荒れて傷があり,甘皮がささくれている。中には足の爪まで噛んでしまう子どももいる。この習癖は4〜5歳から学童期にかけてみられる神経性習癖で、増齢により徐々に減少していくと言われている。

 

爪噛みの原因

欲求不満、過度の緊張、不安や不満、退屈など心理的要因で生じる。子どもは情緒的反応として精神的な緊張を解消する一手段として爪を噛む。子どもの性格特性は、神経質、緊張しやすい、敏感、活発などの特徴を持ち、情緒、社会性の未熟さがみられることが多い。むしろ、活動的、攻撃的で動作が落ち着かない子どもにも多くみられる。緊張の背景として、親の過干渉、放任、緊張状態が続く厳格なしつけなど情緒的に安定した親子関係が保たれていない。

学童期になると爪噛みは固定化し、本人が自発的に治そうとしないと長引くことになる。爪噛みにより不正咬合を生じることはないが前歯の歯根吸収、前歯切端の磨耗、前方での咬み癖などが起こる。また、チック、指しゃぶり、歯ぎしり、夜驚などを併せ持つこともある。

 

爪噛みの指導と治療

軽度の場合は指導の必要が無いが、臨床心理士は子どもの心理的な面を重視した方がよい。

 

  • 汚れた爪を咬むのは不潔なため、清潔のしつけとして止めさせる。
  • 話をすれば理解できる年齢であるため、深爪の危険を説明する。
  • 爪を保護する透明なマニキュアを塗り、爪の大切さを教える。
  • 不安、ストレスの要因を見つけて除去していく。(環境調整)
  • 行動療法として、報酬システムを用いる。
  • 子どもの同意の上で、爪を咬みそうになった時や噛んだ時に苦い薬を塗ったり、3分間手を握り締める。(反応競争法)

 

 

さいごに

 

口腔習癖には様々なものがあり、歯並びや咬合、発音や嚥下などの口腔機能に影響することについて解説した。

 

神経性習癖としては、一部の指しゃぶり、爪噛み、歯ぎしりなどがあり、子どもの情緒が関与している場合には心理療法が必要である。しかし、学習された習癖として残っている指しゃぶりの多くは、行動療法を用いて指導していくことが多い。

 

予防矯正学的に、将来の不正咬合への進展を防ぐためにも口腔習癖は早期に止めさせる方がよいと考えられる。早期に対処すれば、矯正装置を用いなくても不正咬合が自然治癒する可能性があるからである。