肥満は、古くは豊かさを象徴するものでした。しかし、社会が豊かになり高齢化社会が進んだ今日では、肥満による弊害が大きな社会問題と成りつつあります。というのも、糖尿病、心疾患、高血圧、動脈硬化といったいわゆる成人病が、肥満と密接に関わっているからです。肥満をどのようにしたら治療できるか、さらにはどのようにしたら予防できるかを明らかにすることは、上記のような成人病を予防する上で重要な問題となっています。

 

ごく最近まで、肥満は、“食べ過ぎ”のみが原因と見なされ、その対策も食事のカロリー制限が主体でした。もちろん今日においても、食事面での対策は肥満治療の重要な柱です。しかし、研究が進展して肥満の発症メカニズムが徐々に明らかになってくると、肥満は単に“食べ過ぎ”によるだけではなく、食べた栄養素がどのように体で使われるかも重要であることが判ってきました。すなわち、同じカロリーの食事を取っても、肥満になりやすい人となりにくい人がいること、そしてなぜそのような違いが生じるのか、その原因の一端が少し明らかになって来たのです。

 

 

エネルギーバランスを表す絵

 

肥満は、体のエネルギー収支の面からみると、食事による摂取エネルギーが体の消費エネルギーを上回ることによって起こります。従って、食事量がそれほど多くなくとも、体で使われるエネルギー消費がより少なければ、体内のエネルギーは過剰となり、余ったエネルギーが脂肪として脂肪組織に蓄えられ肥満となります。前述したように、同じ食事を取っても肥満になる人とならない人がいるということは、エネルギー消費に差があるからに他なりません。実際に、肥満者の中で食事量が多いという人は案外少ないのです。

 

肥満者には食事量を少なめに見積もる傾向も認められるのですが、エネルギー消費の低下が肥満につながっている可能性も高いと思われます。特に、ヒトを含めた動物は加齢に伴ってエネルギー消費が低下することが知られており、成人においてはエネルギー消費の低下が肥満の原因として重要な意味を持ちます。

 

それでは、エネルギー消費とはいったい何を表しているのでしょうか。エネルギー消費と聞いてまず思い浮かべるのは、運動です(生活活動代謝)。運動不足が、肥満の原因と成りうることは言うまでもありません。また、運動の他にも、人が生命を維持していく上で、あるいは成長するためにどうしても使わなければならないエネルギーもあります(基礎代謝)。しかし、人を含めた動物では、これら以外にも、余分な摂取エネルギーを体内で燃やして熱とすることによってエネルギー収支のバランスをとる、そういったエネルギー消費も存在するのです。

 

一般に、摂取カロリー量は毎日変化しますが、それにも係わらず体重があまり変化しないのは、食事量の調節だけでなく、熱産生を変化させて摂取エネルギーと消費エネルギーの収支を合わせるからです。このようなエネルギー消費(熱産生)は古くから食事誘導性熱産生、またはLuxus consumptionとして知られていましたが、最近ようやくその実体が少し明らかにされ、分子レベルでその調節機構を議論できるようになりました。ここでは、エネルギー収支を一定に保つ生体の調節機構、特にエネルギー消費の調節機構に焦点を当て、肥満との関連を考えることにします。

 

 

摂取・消費エネルギーのバランスは、脳、特に視床下部で調節される。

 

視床下部は、発生学的にみると脳の最も古い構造に属し、食欲や性欲、睡眠・覚醒の日周リズム、体温調節など、生命の保持並びに系統維持のための基本的な諸活動を調節する機能を営んでいます。また、食事による摂取エネルギーと体内での消費エネルギーの収支を保ち、肥満とやせを防止することも視床下部の重要な働きです。

 

視床下部にはいくつかの神経核(神経細胞のたくさん集まっている場所)があり、エネルギー収支の調節には、視床下部腹内側核(VMH)と視床下部外側核(LH)の働きが特に有名です。例えば、VMHが破壊されて機能しなくなると、動物は過食となって著しい肥満となります。そのため、VMHは満腹感をもたらす中枢とされ、別名満腹中枢と呼ばれてきました。これに対して、LHが破壊されると動物は食べなくなり、強制的に栄養を摂取させないと死んでしまうことから、LHは摂食中枢と呼ばれています。

 

一方、VMHとLHは、食欲や摂食行動を調節しているだけでなく、エネルギー消費の調節にも関わっています。事実、VMHを破壊した動物は、普通の動物と同じ量の食餌を与えても、やはり太ってしまいます。LHを破壊した動物はその逆で、同じ食餌量を与えてもやせてしまうのです。つまり、VMHを破壊するとエネルギー消費が低下して肥満となり、LHを破壊した動物は、体のエネルギーを熱として無駄に消費してしまうことによってやせるのです。

 

このように、視床下部は、エネルギー収支のバランスを保つ重要な調節中枢です。おそらく、視床下部では、睡眠・覚醒の日周リズム、体温調節機能などとも密接な連携を保ちエネルギー収支のバランスを維持すると考えられます。それでは、視床下部はどのようにして体のエネルギー状態を感知し、どのような機構によってエネルギー収支のバランスを調節するのでしょうか。この問題は、古くからの重要な研究テーマでしたが、最近、レプチンと呼ばれる新しいホルモンの発見が、この分野に大きな進展をもたらしました。

 

 

レプチンは、体のエネルギー状態を視床下部に伝える重要なホルモン

 

一般に、普通の動物のエネルギー収支は驚くほど精緻に保たれ、体重は長期間にわたって一定に維持されます。このようなエネルギー収支の調節には、脂肪組織から分泌される液性の飽食因子の関与が以前から想定されていました。すなわち、脂肪組織の量が増えるとそこから分泌される飽食因子も増加し、これが視床下部に作用して摂食量を抑制、その結果、脂肪組織重量を減少させるという考え方です。

 

このような仮説はlipostatic theoryと呼ばれていましたが、1994年、Friedmanらがob/ob遺伝性肥満マウスの原因遺伝子としてOB遺伝子を同定したことによって、その仮説の正しいことが証明されました。すなわち、OB遺伝子産物は、脂肪組織より産生・分泌される一種のホルモンであり、脳、特に視床下部に作用して摂食量の抑制と体内のエネルギー消費の増加をもたらすことが明らかとなったのです。

 

OB遺伝子は、167個のアミノ酸からなるレプチン前駆体蛋白質をコードしており、この遺伝子発現は成熟脂肪細胞に特異的に認められます。脂肪組織におけるレプチンの発現量は、実験的肥満動物や肥満者で亢進しており、また、ヒト血中のレプチン濃度を測定すると、体脂肪率とよく相関していることが明らかとなりました。さらに、レプチンを視床下部のVMHや弓状核に直接作用させると、強い摂食抑制と熱産生の亢進を引き起こします。

 

このように、レプチンは、脂肪組織重量の増大に伴って脂肪細胞より分泌され、主として視床下部に作用してエネルギー代謝(エネルギーの摂取と消費)を調節するホルモンなのです。ob/ob遺伝性肥満マウスでは、このレプチン(OB)遺伝子に異常があり、105番目のアミノ酸であるアルギニンがストップ・コドンに変異して完全なレプチンが産生されません。稀な例ではありますが、レプチン遺伝子の異常がヒト肥満者においても発見されています。

 

一方、レプチン受容体は、1995年に同定されました。レプチン受容体には選択的スプライシングによって生ずる少なくとも6種類のアイソホームが存在し、細胞内領域の最も長い受容体がレプチンの作用発現に特に重要であると考えられています。この受容体は、脳のうち、特に視床下部に多く、レプチンが視床下部を通じてエネルギー代謝の調節に関わっていることを示唆しています。また、ob/obマウスとよく似た表現型を持つdb/db遺伝性肥満マウスや、遺伝性の肥満ラットであるZucker ratでは、この受容体遺伝子に変異が存在し、そのため正常な受容体を作ることができず、肥満することも判りました。

 

このように、レプチンは体のエネルギー状態、特に脂肪組織重量の情報を視床下部にもたらす重要なホルモンです。それでは、次に、視床下部がどのようにしてエネルギー代謝、とりわけエネルギー消費を調節するかを、解明が最も進んでいる褐色脂肪組織での熱産生を例に考えてみましょう。

 

 

食餌誘導性熱産生の調節には視床下部ー交感神経ー褐色脂肪組織が関与

 

哺乳動物には2種類の脂肪組織が存在します。一つは、白色脂肪組織であり、中性脂肪をたくさん蓄えてエネルギー貯蔵庫としての役割を担っています。そして、もう一つの脂肪組織が褐色脂肪組織です。褐色脂肪組織は、その名のごとく褐色調の外観を呈していますが、それは血管が豊富で血液量が多いことと、ミトコンドリアが非常に多いからです。また、白色脂肪組織が全身に分布しているのに対して、褐色脂肪組織は、腎臓の周囲や大動脈周囲、腋か部などに限局しています。しかし、なんと言っても、褐色脂肪組織と白色脂肪組織の大きな違いはその役割にあります。すなわち、褐色脂肪組織はエネルギー貯蔵庫ではなく、むしろエネルギーの消費器官であり、体内の余分なエネルギーを燃やして熱産生を行う器官なのです。

 

褐色脂肪組織は、古くから、冬眠動物が冬眠から覚醒する際に低下した体温を急速に上昇させるために働く熱産生器官として知られていました。ヒトにおいても、出産直後の新生児が低い外気温に曝されると、褐色脂肪組織での熱産生を高めることによって体温を維持すると言われています。ところが、近年、褐色脂肪組織での熱産生が、寒さだけでなく動物にたくさんの食餌を与えた時にも亢進することがわかり、にわかにエネルギー収支を調節する器官として注目されるようになりました。

 

褐色脂肪組織での熱産生は、主に交感神経の支配を受けています。また、最近の研究から、視床下部腹内側核(VMH)が、交感神経の働きを介して褐色脂肪組織での熱産生を制御していることも判明しました。すなわち、摂取エネルギーが多くなると、VMHの活動が高まり、満腹感を引き起こすと同時に、褐色脂肪組織を支配する交感神経の活動が亢進します。そして、交感神経の神経末端からノルエピネフリンが分泌されて褐色脂肪細胞の細胞膜に存在するβ受容体に結合し、その作用が細胞内に伝えられます。その結果、細胞内の中性脂肪が分解されて褐色脂肪細胞での熱産生を惹起、過剰なエネルギーを消費するのです。

 

それでは、肥満動物の場合には褐色脂肪組織での熱産生はどうなっているのでしょうか。VMHを破壊し肥満した動物の褐色脂肪組織を調べると、熱産生機能が著しく低下していることが判明しました。また、他の実験的肥満動物においても同様に、褐色脂肪組織での熱産生の低下していることが確認されています。すなわち、多くの肥満動物では褐色脂肪組織での熱産生が低下しており、このことが肥満の発症並びにその維持に関わっているのです。

 

 

β3-アドレナリン受容体の遺伝子変異は、肥満や糖尿病の発症と関連

 

視床下部ー交感神経系がエネルギー消費の調節に関わっているならば、この調節機構のどこかに異常があると肥満を生じる可能性があります。事実、交感神経の神経伝達物質であるノルエピネフリンの受容体のうち、β3受容体の遺伝子変異がヒトの肥満や糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)の発症と深く関わっていることが、近年、明らかとなりました。

 

ノルエピネフリンの受容体にはα受容体とβ受容体があり、β受容体には更にβ1、β2、β3受容体の3種類が存在します。β1受容体は心臓に、β2受容体は気管支平滑筋に発現していますが、β3受容体は白色脂肪組織と褐色脂肪組織に主に存在し、白色脂肪組織での脂肪分解の促進と褐色脂肪組織での熱産生を調節しています。従って、β3受容体に何らかの遺伝子変異があり、その機能に異常があるならば、エネルギー消費の調節がうまく行かず、肥満が引き起こされる可能性があるのです。事実、肥満や糖尿病の発症頻度が高いPima Indianでは、β3受容体の遺伝子に、ある種の遺伝子変異(Trp64Argと略記されます)が高率に認めることが報告されました。

 

この遺伝子変異は、β3受容体の遺伝子のうち、64番目のアミノ酸であるトリプトファン(Trp)をコードする塩基配列に変異があり、そのためアルギニン(Arg)に変化しています。これと同じ遺伝子変異を持つ日本人肥満女性では、安静時代謝量が一日当たり約200kcalと有意に低いことも判明しました。また、このβ3受容体の機能を調べると、交感神経の神経伝達物質であるノルエピネフリンの作用が脂肪細胞内にうまく伝えられないことも証明されています。これらの研究結果は、交感神経系、特にβ3受容体を介した代謝への神経の作用が、ヒトにおいてもエネルギー消費の調節に重要な役割を果たしていることを示唆しています。

 

ところで、β3受容体がエネルギー代謝の調節に関与しているならば、β3受容体を選択的に刺激する薬剤は肥満の治療薬となるはずです。このような治療薬は、実際に実験動物レベルで有効であることが確認されており、現在、ヒトのβ3受容体に効果のある作働薬も開発されつつあります。

 

 

食餌誘導性熱産生には脱共役蛋白質(UCP)が重要な役割を果たす

 

以上述べてきたように、褐色脂肪組織での熱産生は、視床下部ー交感神経系の支配を受け、肥満と密接に関わっていることが判りました。それでは、褐色脂肪細胞では、どのような分子機構によって熱産生を起こすのでしょうか。褐色脂肪組織の特徴の一つはミトコンドリアが豊富なことですが、褐色脂肪細胞での熱産生は、このミトコンドリアが重要な役割を果たしています。

 

良く知られているように、ミトコンドリアはATPを産生する細胞内器官です。下図の左部分は、ATPを産生するための分子機構を模式的に示したものです。グルコースや脂肪酸が酸化されることによって生じたプロトンは、呼吸鎖酵素群の働きによってミトコンドリア内膜から膜の外側に放出されます。その結果、内膜の内と外とで電気化学的なポテンシャルが生じ、この自由エネルギーが内膜に局在するATP合成酵素を駆動させ、プロトンが再流入すると同時にATPを合成します。基質の酸化速度はADPの利用度によって決定されるため、基質の酸化とATP産生とは緊密に共役しています。

 

ところが、褐色脂肪細胞のミトコンドリア内膜には、脱共役蛋白質(UCP)、またはthermogeninと呼ばれる分子量32KDaの蛋白質が多量に存在し、ミトコンドリア内膜の内側と外側とで出来たプロトンの濃度勾配を解消する一種の短絡路を形成しているのです。このチャネルは普段は閉じているのですが、交感神経の働きによって脂肪分解が起こると遊離した脂肪酸がチャネルを開き、ATPの合成を伴うことなしにプロトンの勾配を解消(脱共役)、その結果、脂肪酸など基質の酸化が著しく亢進して熱産生を引き起こします。

 

このように、UCPは、褐色脂肪細胞での熱産生を引き起こす最も重要な蛋白質です。事実、普通の動物に食餌を多く与えると、交感神経の働きを介して褐色脂肪組織でのUCPの発現が高まります。しかし、VMHを破壊し肥満した動物では、過食となるにも係わらずUCPの発現は低いままであり、熱産生機能がうまく働きません。さらに、最近、UCP遺伝子にジフテリア毒素の遺伝子を導入し、褐色脂肪細胞での蛋白合成を特異的に阻害したトランスジェニックマウスが作成され、エネルギー代謝の調節に褐色脂肪細胞並びにUCPが重要な役割を果たしていることが確認されました。このトランスジェニックマウスでは、UCPの発現が3分の1に低下しており、その結果熱産生が低下して体脂肪量が2倍となり肥満することが判ったのです。

 

 

新しいUCPファミリーは褐色脂肪組織以外の組織、例えば骨格筋での熱産生に関与

 

褐色脂肪組織での熱産生は寒冷環境下において体温の維持に寄与するだけでなく、エネルギー消費の調節にも関与しています。しかし、ヒトなど大型の哺乳動物では、加齢に伴って褐色脂肪組織は縮小し、成人では腎周囲にごく少量残るにすぎません。そのため、ヒト成人においては、褐色脂肪組織がエネルギー消費の調節にどの程度関わっているかについて疑問視する向きもありました。一方、ヒト成人では、運動によるエネルギー消費とは別に、骨格筋がエネルギー消費の調節に関与していることが以前から指摘されています。

 

例えば、ヒト成人にエフェドリンを投与して交感神経系を活性化させた後、熱産生を調べると、その熱産生の多くが褐色脂肪組織よりもむしろ骨格筋に由来していることが報告されました。このような褐色脂肪組織以外の組織での熱産生は、これまで具体的機構が不明なため研究が遅れていましたが、新しいUCPホモログの発見によってその状況が大きく変わって来ました。

 

新たに発見されたUCPは、UCP-2並びにUCP-3と名付けられ、褐色脂肪組織に発現している従来のUCPをUCP-1と呼びます。UCP-2とUCP-3は、その構造がUCP-1と非常によく似ていることからも、UCP-1と同様な分子機構によって熱産生を引き起こすと考えられます。しかし、何と言ってもこれら3種類のUCPの最大の違いは、組織分布が大きく異なることです。UCP-1は、褐色脂肪組織に特異的に発現していますが、UCP-2は骨格筋や白色脂肪組織、肺、心臓、腎臓など、ほとんど全ての組織に発現しています。また、ヒトでは、脾臓や胸腺、白血球、マクロファージなど免疫系の組織・細胞に強く発現しており、感染症などにおける発熱との関わりが注目されています。

 

これに対して、UCP-3は、ヒトでは骨格筋に特異的に発現しており、メッセンジャーRNA量から判断してUCP-3がヒト骨格筋での主要なUCPホモログであると考えられます。ヒト成人では、上述したように骨格筋もエネルギー代謝の調節に関わっていると考えられるので、これら新しいUCPホモログが、ヒトでのエネルギー消費の調節に関与している可能性は高いと思われます。運動が肥満の予防に有効な理由には、運動それ自体でエネルギーを消費するだけでなく、これらUCPの発現を維持することも一因かもしれません。

 

UCP(uncoupling protein、脱共役蛋白質)

ミトコンドリア内膜に局在する32k Daのプロトン輸送体。ATP産生を伴わずに基質を最大限に酸化して熱産生を行う

UCP-1褐色脂肪にのみ存在
UCP-2あらゆる組織に遍在
UCP-3骨格筋(褐色脂肪、心筋)

 

それでは、UCP-2とUCP-3の発現量はどのようなメカニズムによって規定され、肥満とどう関わっているのでしょうか。最近、動物に高脂肪食を与えてエネルギーを過剰に摂取させると、UCP-2の白色脂肪組織での発現が亢進することが明らかにされました。また、レプチンが末梢組織に直接作用して、UCP-2の発現を高めることも報告されています。

 

更に、最近の研究では、甲状腺ホルモンの投与によってもUCP-2並びに-3の発現の亢進することが明らかにされました。ヒトの基礎代謝が甲状腺ホルモンによって増大することは古くから知られており、UCPが基礎代謝の変化に関わっている可能性は十分考えられます。このように、UCP-1 だけでなくUCP-2とUCP-3もまた、エネルギー消費の調節に関わっており、そのことによってエネルギー代謝の調節をより精緻なものにしていると思われます。

 

 

内臓脂肪型肥満は糖尿病、高血圧、高脂血症などをもたらす危険性が高い

 

これまで、エネルギーバランスがどのように調節されているかを、食餌誘導性熱産生のメカニズム及び肥満との関係を中心に述べてきました。確かに、肥満は、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ることによって起きます。しかし、最近、その余分なエネルギーが体のどこに脂肪として蓄積するかも問題であることが判ってきました。すなわち、腹部内臓の白色脂肪組織が増える肥満(内臓脂肪型)では、皮下の脂肪組織が増加する肥満(皮下脂肪型)に比べて、肥満の合併症である糖尿病、高血圧、高脂血症などの発症頻度の高いことが判明しました。

 

腹部内臓の脂肪組織(腸管膜周囲の脂肪組織)は、皮下の脂肪組織に比べて代謝が活発で、インスリンやエピネフリンなどホルモンに対する反応性も高いことが知られています。しかし、なぜ内臓の脂肪が増えると、このような合併症の発症頻度が高まるかは、現在のところ明確な答えが出されていません。最近の研究によると、腹部内臓脂肪はレプチン以外にも様々な因子を分泌しており、これらが成人病の発症に関与するという報告もあります。いずれにせよ、腹部内臓の脂肪量が成人病発症の危険因子であることは間違いが無く、同じ肥満でもお腹の中に脂肪がたまる肥満は要注意と言えます。肥満は、エネルギー代謝の問題に加え、内臓脂肪型かあるいは皮下脂肪型であるかも重要なのです。

 

 

さいごに

 

以上、視床下部ー交感神経系によるエネルギー消費の調節作用を中心に肥満との関連を述べました。肥満は、単に食べ過ぎによるだけでなく、エネルギー消費(食餌誘導性熱産生)の調節に異常を来すことによっても起こります。十数年前、多くの医師・研究者が肥満の原因を単に食べ過ぎによると考えていたことを思うと、エネルギー代謝に関するここ数年の研究の進歩は目を見張るばかりです。

 

エネルギー消費の研究が特に遅れた背景には、その具体的な分子機構が不明であった点に集約されます。また、ヒト肥満の発症に、褐色脂肪組織がどの程度関わっているかが不明であることも、研究の遅れた背景の一つです。しかし、ここで述べたように、レプチンが発見され、またUCP-2やUCP-3も発見されたことによって、エネルギー代謝の調節に関する我々の知識は大幅に増えることになりました。しかし、まだまだ解明すべき多くの問題が残されています。先に述べた内臓脂肪型肥満もそうですが、レプチンの作用一つを見ても多くの疑問点が存在します。

 

例えば、ほとんどの肥満者は、レプチン遺伝子やレプチン受容体遺伝子は正常であるにも係わらず、高レプチン血症が認められます。つまり、多くの肥満者は、レプチンが分泌されているにもかかわらず、過食並びに熱産生の低下が続いるわけで、いわゆるレプチン抵抗性が生じているのです。この問題は、現在、肥満のメカニズムを解明するためのホットな研究テーマとなっています。さらに、最近、脂肪組織からTNFーαと呼ばれる蛋白質が分泌され、これが骨格筋などでのインスリン抵抗性の原因となっていることが報告されました。これもまた、肥満と糖尿病との関連性を示す研究成果として大変注目されています。