O−157感染症は、主に食事(菌繁殖)から感染し、初期症状はかぜに似た軽度なものが多いのですが、感染してから4〜8日過ぎると、激しい腹痛とともに、水様の便を繰り返し、まもなく鮮血を伴う血便になります。

 

O−157感染症を予防するには、こまめな手洗いや高温での殺菌が大切で、特に小児にとっては危険性が高い感染症です。小さな子どものいる家庭では、菌の繁殖しやすい夏だけでなく、一年を通して殺菌対策に気を配ってください。

 

 

病原性大腸菌O-157とは

 

人間の腸内には、無数の大腸菌が存在していますが、その多くは無害です。尿路や呼吸器、血液などに入って尿路感染症や肺炎、敗血症、髄膜炎などを起こすことがあっても、腸内での病気の原因になることはほとんどありません。大腸菌のなかには、例外的に腸内で病気を起こすものがあり、病原性大腸菌といわれています。大腸菌は、菌の表面にあるO抗原(糖脂質)とH抗原(鞭毛)の違いによって分類され、これまで何百種類も発見されています。

 

O−157は157番目に発見されたO抗原をもつ大腸菌です。学術的には「O-157:H7」とよばれ、長さ約μm、幅約1μmの棒状の細菌です。O-157は体内で増殖して毒素を分泌する腸管出血性大腸菌です。病原性大腸菌には、赤痢のような組織侵入性大腸菌、サルモネラ中毒のような病原血清型大腸菌、乳幼児が多く感染する毒素原性大腸菌もあります。

 

 

O-157感染症とは

 

O-157感染症は、病原性大腸菌O-157が分泌するベロ毒素によって、激しいけいれん性の腹痛と血便や下痢を起こす病気です。感染者の約80%が15歳以下です。成人の場合は症状がでないか発症しても軽症ですむことが多いのですが、抵抗力の弱い乳児や幼児、高齢者は重症になることがあります。また、まれに溶血性尿毒症症候群(HUS)や、意識障害を伴う脳症などの重い病気を併発して、患者が死亡することがあります。合併症の年齢別発生率は15歳以下が約%で50、5歳以下の子どもに多いのが目立ちます。

 

1996年に学校給食が感染源と考えられるO−157感染症が全国各地で集団発生しました。患者・感染者は1万人近くにのぼり、溶血性尿毒症症候群などを併発した12人の子どもが死亡しました。WHO(世界保健機構)は「世界でも桁違いに記録的な患者数」とコメントし、日本への外国人観光客の足も遠のいたほどでした。

 

O-157感染症は、1996年8月にO-111やO-22による腸管出血性大腸菌感染症とともに、指定伝染病に指定され、旧厚生省が治療マニュアルを発表するなどの対策を講じています。しかし、早期治療法は現段階ではまだ確立されておらず、ベロ毒素に対する有効な治療法も完全には確立されていません。さらにO-157はとても感染力が強く、わずかな菌に感染するだけで発症します。潜伏期間もほかの感染性腸炎に比べて4〜8日と長く、感染源を特定しにくいほか、家庭や教育施設で二次感染する例も多いのが特徴です。

 

 

O-157感染症の原因

 

O-157感染症は、ほかの食中毒と同じように、病原菌が水や飲食物に混じったり手指などについて、口から入って感染します。食中毒には二つのタイプがあります。一つは食品内毒型で、ブドウ球菌やボツリヌス菌による食中毒などです。この病気は、汚染された食品を食べた人が発症するだけです。

 

O-157は、サルモネラ菌やカンピロバクター菌と同じように、食品を介して感染することから、欧米では食水系感染症ととらえられ、患者の排泄物などからほかの人に感染する二次感染の危険性もあります。通常食中毒を発症するには、菌が100万個以上必要ですが、O-157はわずか10個から数十個の菌の感染で発症することが明らかになっています。

 

O-157が体内に入ると、大腸管粘膜に付着して増殖し、多くのベロ毒素を分泌して腸管の粘膜を破壊します。腸管にびらんや潰瘍をつくり、腸管の機能を減退させ、けいれん性の腹痛や鮮血の混じった下痢を伴う出血性大腸炎を引き起こします。ベロ毒素は脳の神経細胞や腎臓の特に尿細管、血管内皮を攻撃します。

 

このため5〜20%の患者は、発症してから数日から2週間以内に溶血性尿毒症症候群(約7%)や脳症(約20%)などを併発します。合併症患者の95%は、20〜30日で軽快しますが、まれに死亡することもあります。下痢症状がなかった患者や治療によって菌が死滅した場合でも放出された毒素で同じ症状を起こす場合もあります。

 

 

O-157感染症の感染源

 

O-157は、牛の腸にいることが知られていますが、牛に対しては病気を起こしません。しかし、ヒトの体内に入って大腸に感染すると病原性を発揮します。感染すると約半数が発症するといわれ、特に乳幼児では重症になる傾向があります。O-157感染症が世界で初めて報告されたのは、1982年のアメリカでした。

 

オレゴン州で26人、次いでミシガン州で21人の集団食中毒が発生し、うち6名の患者の便からO-157が検出されました。検査から、あるチェーン店のハンバーガーが感染源と突き止められ、ただちにアメリカ疾病管理予防センター(CDC)によって販売停止の処分がとられました。それ以降もしばしばアメリカやカナダ、イギリスなどでO-157を病原とした集団食中毒が発生しています。

 

感染源となった食品や飲み物は、ハンバーグなどの牛ひき肉、ローストビーフ、ミートパイ、市販のドライサラミ、ハム・ターキーのサンドイッチ、未殺菌牛乳、メロン、マヨネーズ、アップルサイダー、レタス、調理用ポテト、ヨーグルトなどです。日本で初めてO-157が検出されたのは1984年で、1990年には、埼玉県の幼稚園の井戸水が原因となり、O-157感染症が集団発生して園児2人の命が奪われました。

 

1995年までわずか6件だったO-157の集団感染は1994年には18件に激増し、全国の有症患者数は1万人に達しました。1996年以降もO-157感染症による集団食中毒は続発しています。O-157は、赤痢菌やカンピロバクター菌などと同様に、少ない数で感染します。

 

O-157感染症の二次感染

アメリカでは、子どもが湖で泳いだだけでO-157に感染しました。日本でも、塩素消毒をしない子供用のビニールプールで泳いだ幼稚園児が発症しています。わずか10個の菌に感染しただけで発症した例もあります。

 

食品や調理器具、人の手指、便などから感染して、集団発生を引き起こします。菌の検出も難しいので、現状では感染源を特定して、集団発生をくい止めることは困難です。徹底した予防対策を立てて、二次感染を防がなければなりません。

 

 

O-157感染症の症状

 

発症初期は血性下痢は少なく、だるいとか悪寒がするなどほか、上気道症状や吐き気、嘔吐などのかぜによく似た症状が現れます。感染してから4〜8日過ぎると、激しい腹痛とともに、水様の便を繰り返し、まもなく鮮血を伴う血便になります。これが出血性大腸炎です。ひどくなると腸出血のように、血液だけを排泄する人もいます。

 

有症患者の6〜7%は、感染して数日から2週間後に血小板の減少、乏尿、顔色不良、貧血、出血斑、血尿、浮腫、意識レベルの低下などの溶血性尿毒症症候群や脳症の症状が出ます。このうち約2%の患者は命を落とす危険があるといわれています。

 

おかしいなと思ったら、すぐに医師の診察を受けましょう。下痢止めや抗生物質を使ったりすると、逆に医師の診断を混乱させる結果を招くので、家庭では整腸剤か消化剤を使う程度にして、治療は医師にまかせましょう。

 

 

O-157感染症の診断と治療

 

O-157感染症は、何よりも早めに治療に入ることが大切です。症状が出たら、一刻も早く医師の診察を受けます。

 

≪診断≫

O-157感染症は熱は38℃以下で、血液検査では軽い炎症反応がみられるくらいです。出血性大腸炎になっていると結腸壁が膨らむので、腹部の超音波検査が診断に用いられます。しかし、ほかの食中毒や、血便・腹痛を伴う病気、O-157感染症以外の病原菌との鑑別をつけるため、便の培養検査や疫学的な検査で原因となる菌を急いで突きとめなければなりません。

検査結果を待っている間に病状が悪化することがあるので並行して治療を進めます。最近はより早い診断のために、ベロ毒素の有無も診断の材料にしています。感染経路を解明し、二次感染を防ぐために、血便患者には細かな問診が行われます。4〜5日前の食事を中心に、家庭の料理や外食に思い当たる食品はないか、家族や患者の友人など同じ食事をした人に同じような症状は出ていないかなどを、あらかじめチェックします。

 

≪治療≫

細菌感染症は、症状が出たらできるだけ早く抗菌剤を服用することが基本です。主治医は、抗菌剤の使用や、乳酸菌製剤などの生菌剤の投与を判断します。下痢の症状があるときは安静にし、十分に水分を補給して、年齢・症状に応じた消化しやすい食事をとります。激しい腹痛や血便があり、口から食事をとれない場合は点滴をします。

下痢止めは、腸の内容物の滞留時間が長くなり、毒素の吸収を促す可能性があるので使用はしません。溶血性尿毒症症候群などの合併症は、発症してから1週間程して急に現れることもあるので、軽症の場合でも10日間くらい安静を保ち、赤血球や血小板などの検査を続けます。

 

 

O-157感染症の予防

 

感染予防のポイントは、感染源となるO-157に汚染された飲食物を摂取しないようにすることです。食品を扱うときには、材料だけでなく、手や調理器具をしっかりと流水で洗います。また、調理した食品はすぐに食べましょう。

 

≪肉類≫

まず、すべての生肉が汚染されているかもしれないと考えて対処しましょう。75℃以上で1分間加熱すると菌は死滅するといわれています。焼肉やハンバーグは薄くして、仲間で1分以上きちんと火を通します。生肉を料理した手でほかの食品や食器をさわってはいけません。手を洗うときは、飛沫が飛び散らないように弱い流水で、ていねいに洗います。手を洗ったら清潔なタオルでよく拭きます。包丁、まな板、食器などは、熱湯で十分消毒しましょう。

 

≪野菜≫

水栽培される野菜の場合は種子が汚染されていると、いくら洗っても感染を防ぐことはできません。子どもは重症になりやすいので、生野菜を避け、加熱調理した食事にします。

 

≪水≫

天然の清水も汚染されている可能性があるので、井戸水は必ず沸騰して使います。水道水も、塩素消毒されているから大丈夫というわけではありません。集合住宅などでは、水のタンクが汚染されているかどうか、定期的なチェックが欠かせません。不安なら沸かしてから使いましょう。

 

家庭でできる食中毒対策

多くの都道府県、ならびに市町村では「食中毒予防」のマニュアルを作成し、住民に配布しています。そこに強調されているのは、

 

  • 菌を食品や調理器具につけないこと。
  • 菌を増やさないこと。
  • 菌を残さないこと。です。

 

具体的なチェックポイントは、食材の買い物には保冷袋や保冷箱をもって出かけ、冷蔵庫に入れる前に下準備をすませます。腸炎ビブリオ菌に汚染されている可能性のある魚介類は、流水で水洗いし、内臓とえらを取ってからラップに包んで冷蔵庫へ入れます。肉は食べる大きさに切って塩、コショウまたはしょうゆ、みりんなどにつけ込んでから冷蔵し、ひき肉は特に傷みやすいので、すぐ調理しないときは火を通してそぼろ状にして冷凍します。

 

卵はサルモネラ菌の汚染の可能性があるので、ほかの食材に触れないようにします。水栽培の野菜は避けましょう。野菜は泥を落としてから冷蔵します。調理は十分な洗浄と加熱を心がけ、まな板、包丁は肉用、魚用、野菜用を使い分けます。食材は流水で繰り返し洗い、冷凍した食品は冷蔵庫か電子レンジで解凍しましょう。雑菌が増殖するので、炊き上がったご飯を炊飯器で保温するのは避けます。

 

 

さいごに

 

O-157感染症は、症状の出ない感染者がいます。日ごろから、大便の後は石鹸で手を洗い、使い捨てペーパータオルで手を拭くようにします。患者がいる家庭では、患者のパジャマやシーツなどは塩素系漂白剤に浸してから洗濯し、便が付着したものは、沸騰や薬剤で消毒します。患者の食器は洗剤と流水で洗浄します。

 

混浴は避けて、患者の入浴は菌の排出停止が確認されるまでシャワーにするか、最後に入浴させるかします。食品すべてを十分に加熱し、調理した食品に直接手を触れないようにしましょう。