胃や十二指腸の潰瘍は、胃のレントゲンや内視鏡によって明らかに異常を確認することができます。しかし、そうした検査をしても何ひとつの異常がないにもかかわらず、まるで胃・十二指腸潰瘍と同じような症状が続く胃の病気があります。

 

それが最近増えている「NUD」という病気です。こうした症状に対しては、これまでストレス性胃炎や慢性胃炎として消化剤が投与される程度の治療しかありませんでしたが、米国消化器学会では、こうした原因のはっきりしない胃や食道の病的不快症状に対し「NUD」という病名をつけています。

 

原因不明の不快症状が続いていませんか?

 

通常、口のなかの食べ物は、飲み込むと同時に食道を通過し、胃に運ばれます。胃のなかでは、胃運動によって胃酸と攪拌され、十二指腸へと送られます。

 

私たちは通常、メカニズムを気にしながら呼吸をしないのと同様に、口のなかで味わった食べ物は、そこから先でどんなふうに処理されていくかについてあまり気にしていません。

 

ですからゴクンと飲み込んだら、その食べ物とはお別れで、あとはまったく無意識のままに消化管を通り抜け、最終的には便となって排泄されるだけのことです。

 

でも、それはとても順調に消化吸収が行われているからで、たまにゴクンと飲み込んでお別れしたはずの食べ物の匂いがゲップとともに戻ってきたり、消化されないみたいで胃のあたりに重く残っていることを感じることがあります。

 

たとえば、こってりとした料理を食べたときや、夜遅くまでお酒を飲み過ぎてしまった翌朝には、もうとっくに消化されているはずの昨夜の食べ物が残っている感じがして、胃のもたれ、むかつきを感じることがあります。

 

こうした胃の不快感は、一時的に胃に負担を与えたため、長時間、食べ物が胃に残り、十二指腸への排出が遅れていることによります。

 

当然、食欲もなく、空腹感もありません。しかし、たとえわずかずつにしても、十二指腸に送られ、小腸に送られれば、やがて空腹感も戻り、食欲も出てきます。

 

ところが、食べ過ぎたわけでもなく、飲み過ぎたわけでもないのに、慢性的に胃のもたれやむかつき、不快感を感じる人がいます。

 

胃炎を起こしている場合にも同じような症状が現れますが、そうした人のなかには、どんなに検査をしても、何ひとつの異常も見つけられない人もいます。

 

胃部の痛み、不快感、胸焼け、悪心、嘔吐、食欲不振、膨満感といった症状が認められるにもかかわらず、内視鏡検査、超音波検査、血液検査などを行っても、まったく病気が認められない病態を「NUD(非潰瘍性胃腸症)」と呼んでいます。

 

 

飲みこんだ食べ物が逆流してくる

 

食べ物を口のなかに入れて噛み、ゴクンと飲み込みます。すると同時にその刺激が大脳に届き、大脳はそれを胃に送るように指示します。指示命令を受けると、まず食道の上部食道括約筋が開きます。

 

すると、食道に蠕動波がおき、飲んだ食べ物を下へ下へと動かします。食道の一番下には、下部食道括約筋があり、ここも脳からの命令を受けていっしょに開き、無事、食べ物は胃のなかにおさまります。

 

胃のなかにある程度食べ物がたまると、大脳はまた、胃から食べ物を排出するよう命令します。命令を受けると胃壁に蠕動波が起こり、腸に向かって下へ下へと食べ物を送っていきます。

 

ところが、胃の働きが弱っていると、内容物を下に送ることができず、反対に食道に戻してしまうことがあります。

 

でも、ここで下部食道括約筋がしっかりと働いていれば、胃の内容物を押し止め、食道に戻らないように守ります。ところがこの筋肉も弱っていると、胃の内容物は食道に逆戻り。

 

逆戻りすると、食道の下部のあたりに一種の感知器のようなものがあり、口のなかに唾液を分泌させるような生体反応を起こします。

 

口のなかには唾液がたまり、その唾液をゴクンと飲み下すことにより、逆流してきた胃の内容物を再び胃のなかに押し戻すことができます。

 

ところが感知器の働きが弱ったり、唾液が十分に分泌されなかったり、あるいは筋肉の力も弱まっていたりすると、胃の内容物は食道まで逆流することになります。

 

たとえ食道の途中まで戻ってきても、そのときに食道に下へと送る蠕動波が起きれば、のどや口のなかまで昇らずに胃に向かって戻すことができます。しかし、ここでも戻すことができないと、ついにのどから口のなかまで昇ってきます。

 

胃液の混ざった内容物は強い酸性ですから、こうしたことが何回も続くと、食道やのどの粘膜を刺激し、炎症を起こし、慢性咽頭炎になったり、再度飲み込むときに、間違って気道に入ると誤嚥性肺炎を起こしたりもします。

 

さらに、何回もこうした刺激にさらされることにより、食道の筋肉が薄くなってしまうため、機能が低下し、蠕動波が起こらなくなり、ごくふつうに飲み込んだ食べ物が食道の途中で詰まってしまう食物通過障害が起こったりもします。

 

「NUD」のなかでも、最近、増えているのが「胃食道逆流症」といわれるもので、アメリカ名は「GERD(ガード)」。

 

この疾患の典型的な症状は、胸焼けと呑酸。胸焼けとは、胃のあたりが熱く感じられたり、ジリジリ焼けるような痛みを感じたりする症状です。呑酸とは、酸っぱい水がのどや口のなかまで上がってくるものをいいます。

 

こうした胸焼けの症状は、胃酸の逆流によって起こります。アメリカでは胃になんの異常もないのに胸焼けを訴える人は約20%といわれ、日本でも、最近、胸焼けを訴える人は増加し、9~20%の人にみられます。

 

 

正しい治療をすればほとんどは治る

 

こうした胃の不快感は、食べ過ぎたり、飲み過ぎたりした後によくみられます。したがって、そうした食生活を正すことが先決です。しかし、「NUD」の患者さんの場合には、たいていは神経質すぎるほど、それらに対して用心深くなっています。

 

そのため、一般的な注意として、就寝前の間食、早喰い、脂肪分の多い食事や甘いものを食べない、毎日決まった時間にバランスのよい食事をゆっくり食べる、などしかいえないことも事実です。

 

ストレスが引き金になっているならば、ストレス解消をします。解消されれば、症状も消える人は少なくありません。喫煙、アルコールの制限なども必要です。また、胃や食道を圧迫するような姿勢を長くとらないことも改善の一策になります。

 

治療は基本的には薬物によって行います。症状に合わせて食道や胃の運動を促す消化管運動促進剤、胃酸の分泌を抑制する「H2ブロッカー」や「プロトンポンプ阻害剤」などを使用します。

 

初期療法ではこれらの薬を大量に使いつつ次第に投与量を減らしていきます。そして症状をコントロールする維持療法では、逆に弱い薬から始め、次第に強くしていき、コントロール値を高めていきます。

 

こうすることによって、8~9割を治療することが可能です。現在、消化器外来で行われている検査は、病変の発見には有効ですが、運動機能や酸分泌機能までを診断することはできません。

 

胃は常に動いている臓器ですから、運動機能がわからないことには、こうした機能の障害を見いだすことができません。

 

特別な試験食を食べてもらい、一定時間を追って胃のなかの残存率を計測する胃排出能検査や、胃の蠕動活動が電気活動と関連していることを利用した胃電気活動を体表から計測する胃電図なども研究されていますが、まだ一般に普及した検査にはなっていません。

 

したがって、多くの場合、無治療状態で放置されており、欧米に比較すると日本は非常に立ち遅れているのが現状です。