これまで元気だったのに、急にぐったりして吐き気を反復したり、倦怠感や顔面蒼白、腹痛、食欲不振などが現れた場合には、周期性嘔吐症の可能性があります。周期性嘔吐症は、小児に特有の病気で、ストレスが誘因となって激しい嘔吐を繰り返します。思春期になり、脳や神経系が発達すると症状は出なくなります。

 

周期性嘔吐症の症状は、病名にあるように嘔吐が基本ですが、嘔吐はさまざまな病気の症状として表れますので、まずは一度、お近くの小児科またはかかりつけの小児科へ受診するようにしてください。

 

 

周期性嘔吐症とは

 

食あたりなどのはっきりした原因がないのに、子どもが1日数回から数十回、激しい嘔吐を繰り返し、ぐったりと元気がない状態になる病気を周期性嘔吐症といいます。周期性嘔吐症を起こすのは6歳ころをピークとして、ほど2〜10歳の子どもに限られ、思春期になると例外なく自然に治ります。どちらかというと男の子に多く、成長過程に特有の病気です。季節的には冬から春にかけて、1日のうちでは夜間か起床時に嘔吐をもよおす傾向があります。

 

周期的な嘔吐に加えてケトン代謝障害、アセトン血症ともいわれるケトーシスという症状を特徴とし、アセトン血性嘔吐症ともよばれます。かつては自家中毒症という病気でよく知られていた病気です。ただし、自家中毒症という病名は次第に使われなくなってきています。

 

自家中毒症、つまり周期性嘔吐症は1960年代までは子どもによくある一般的な病気でしたが、最近はあまりみられず、特に重症例はめったにありません。減少した原因ははっきりしませんが、栄養状態が格段によくなったことや、ほかの病気との識別が進んだことによるのではないかと考えられています。

 

 

周期性嘔吐症の症状

 

周期性嘔吐症は、不規則な間隔で繰り返して起こる激しい嘔吐と、ケトン代謝障害(ケトーシス)が代表的な症状です。初期には、吐く息にリンゴの腐ったような独特の臭いがみられます。

 

反復性の嘔吐

嘔吐を繰り返すと、脱水症状が進行するため、子どもはぐったりと元気がなくなります。激しい腹痛を訴える子も少なくありませんが、感染症がない場合には、際立った発熱や下痢はほとんどありません。

 

熱が出てもせいぜい微熱程度ですが、それにもかかわらず、心拍数が速くなり、脈拍は多くて微弱となります。顔色も青く四肢が冷えるような循環障害や、皮膚や粘膜が乾燥する脱水症状もみられ、血圧低下が起こる場合もあります。嘔吐の発作は突然始まるようにみえますが、実は事前に初期症状をみせることが多い傾向にあります。

 

だんだん元気がなくなってゴロリと横になったり、頭痛や食欲不振、腹部の不快感や腹痛を訴えたり、逆に興奮して異常な食欲をみせるなど、いつもと様子が違います。嘔吐の前日に遊びすぎたりして、非常に疲れている場合に、発作の起こるケースが多い傾向にあります。

 

周期性嘔吐症は一度発症すると、たいてい年に数回は症状を繰り返します。最初の発作時は兆候を感じとれなかったとしても、2度目からは家族が注意していると、嘔吐が起こりそうな気配を察知することができます。激しい嘔吐が続いてなかなか治まらない重症例では、胃に残っていた食べ物や胃液をもどした後、胆汁やコーヒー残渣様吐物(ざんさようとぶつ)とよばれる黒褐色の血液を吐く場合もあり、またけいれんを起こすこともあります。しかし、重症になるのはきわめて稀であり、嘔吐の発作自体も1〜3日で治まる場合がほとんどです。

 

≪嘔吐が起こる仕組み≫

脳の最も下方に位置する延髄には、嘔吐中枢があります。腹部や胸部の臓器などに異常が起こると、情報が神経系や血管を介して伝わり、嘔吐中枢を刺激します。嘔吐中枢への刺激は自律神経と脳脊髄神経によって、逆に胸部、腹部、食道、のどなどの筋肉に伝えられます。すると、まず吐き気が起こり、呼吸筋がけいれんして声門は閉じ、吐いたものが気管に入り込むのを防ぎます。

それから胃と十二指腸の境にある幽門部が閉じて腸への連絡が閉鎖され、一方、胃がねじれ、食道と胃の間の噴門部が開きます。次いで、横隔膜、腹筋、呼吸筋の強力な収縮と弛緩の作用で胃の内容物が口腔のほうへ排出されます。激しい嘔吐が繰り返されると、幽門が開いて腸の内容物も逆流し、胆汁の混じった吐物となることもあります。小さな子どもは病気になると吐き気や嘔吐をよく起こします。脱水症を合併したり、吐物が気管のほうに入ると窒息や肺炎などを起こすおそれもあるので、吐き気や嘔吐があるときは、よく様子をみることが大切です。

 

ケトン代謝障害

からだは燃料である糖質が不足すると、脂肪を分解してエネルギーを補います。脂肪の分解物としてできるのがケトン体とよばれるもので、ケトン体が血液中に過剰に送り出されて起こるのがケトン代謝障害、ケトーシスといわれる状態です。血液が酸性になって、顔色が蒼白になったり、だるさを訴えたり、うとうと眠りがちになったりして、ときにはけいれんを伴うこともあります。

 

ケトン体にはアセトン、アセト酢酸、ベータヒドロキシ酪酸という三つの物質が含まれています。周期性嘔吐症の特徴の一つとして、尿中にアセト酢酸が異常に多いケトン尿がみられます。また、嘔吐発作の前の初期症状から、吐く息にリンゴの腐ったような独特のにおいがあります。アセトン息といわれるもので、周期性嘔吐症に特異な症状です。

 

 

周期性嘔吐症の原因

 

周期性嘔吐症の原因については多くの研究が行われてきましたが、特定できていません。しかし、患者の年齢からみて、脳や神経の命令系統の発達が未熟なためではないかと考えられています。特に周期性嘔吐症の発症が多い2〜6歳ころは、理性的な作用をつかさどる大脳新皮質が急速に発達する時期で、脳の機能は未熟で不安定です。そのため成長過程で増えてくる肉体的ストレス、精神的ストレスに適応できず、体調を崩しやすいとされます。

 

また、神経系やホルモン系の命令系統の要である脳の視床下部の働きも未成熟で、嘔吐や自律神経障害、内分泌障害などが現れやすいのです。幼児期から学童期の子どもは、周期性嘔吐症の主要な症状であるケトン代謝障害も起こしやすい素因があります。

 

エネルギーのもととして肝臓に蓄えられるグリコーゲンの貯蔵量が少ないうえ、成長期には糖質の必要量が大きいためにグリコーゲンの消費が早くなります。そのために食事をとらなかったり、炭水化物が不足すると、すぐに異常が現れるのです。

 

周期性嘔吐症の発生原因には、代謝異常や内分泌障害、自律神経障害などのほか、アレルギー、間脳性てんかんの関与など多くの説があります。一般に、周期性嘔吐症を起こす子どもはやせ形が多く、神経質であるなど、性格的にも特徴がある点から、心身症としての側面があるともいわれています。心理テストをすると、内気で感じやすいデリケートな神経の持ち主であることが多いのですが、半面、わがままで、苛立ちやすいとも報告されています。

 

周期性嘔吐症の原因自体には明らかになっていませんが、過労やストレス、細菌やウイルスの感染などが誘因となることがわかっています。習い事の発表会、幼稚園・保育園や小学校の運動会や遠足、旅行などの日の夜や翌朝に嘔吐発作が起こりやすく、緊張や心理的ストレス、過労が引き金となっていることが多いようです。

 

 

周期性嘔吐症の診断

 

尿検査で尿中ケトン体をチェックし、陽性であることを確認します。血液検査をすると、正常の約4倍以上のアセト酢酸が検出され、ベータヒドロキシ酪酸も正常の約10倍以上に増加するというはっきりした症状があります。周期性嘔吐症では、嘔吐の繰り返しに加え、飲食物をとることができないために脱水症状となり、腹壁は軟らかく、触れると綿のような感触があります。

 

診断にあたっては、既往症を尋ねたり、嘔吐の誘因となる出来事や精神的ストレスなどについての問診が行われます。また、前日の行動、嘔吐の時間帯と回数、頭痛や意識障害の有無、頭部打撲などについても確認をします。さらに、ほかの病気との鑑別も必要です。幼小児は胃腸炎などで嘔吐して食事がとれず、わずか数時間絶食しただけで、ケトン代謝障害になることもあります。そのため、周期性嘔吐症と似た症状をみせるケトン性低血糖症や、糖尿病性昏睡、食物アレルギーなどではないことを確認します。

 

子どもが嘔吐を繰り返すのは、ほかの疾患が原因という場合もあります。例えば、脳腫瘍、脳炎、尿毒症、慢性腎炎、肝炎、腹膜炎、虫垂炎、糖尿病性代謝障害、特発性低血糖症などです。また、上気道感染や手術、麻酔などの物理的、化学的誘因が作用する場合や、さらに心因性の嘔吐もあります。

 

 

周期性嘔吐症の治療

 

周期性嘔吐症の多くは、落ち着いて対応すれば発作に至る前に症状を治めることができます。子どもが発作を繰り返していくうちに、家族が前もって初期症状に気づいたり、特有のアセトン臭から発作を予知できるようになります。

 

糖分の不足が初期に起こるので、あわてずに氷砂糖をなめさせたり、砂糖水や加糖ジュースを飲ませ、安静にさせる予防処置をとると、発作を起こさずにすむこともあります。しかし、発作が起こり嘔吐が長引く場合は、低血糖と脱水状態になることがあるので、程度に応じた点滴が治療の中心になります。

 

■一般療法

発作の初期には安静にして、精神緊張を和らげてあげることが大切です。楽な服装にしてゆっくりと寝かせ、そばについて安心感を与えます。のどの渇きを訴えたら、少量の氷片、氷砂糖を含ませるようにします。感染症がきっかけとなって起こる場合もあります。熱があったり、のどの痛みを訴えたら、小児科で適切な治療が必要になることもあります。

 

■点滴療法

嘔吐を繰り返している場合には点滴が非常に有効な治療法ですから、早めに小児科へ連れて行き処置をしてもらいましょう。通常は5%のブドウ糖液に電解質が入った液を使い、嘔吐が治まり口から水分や食べものがとれるようになるまで点滴で投与します。

 

■食事療法

軽症の場合は少量ずつ頻繁に水分を補給します。点滴をした場合は、終了後数時間してから、お茶、砂糖水、スープ、果汁などの水分を少しずつ飲ませ、水分をもどさないようなら次におかゆを与えます。食事は一度に食べさせる量を少なくして回数を増やし、食事内容は脂肪を控えて、炭水化物を中心にします。様子をみながら食事の質や量を増やしていき、発病1週間後までには普通の食事に戻します。嘔吐をおそれていつまでも食事を制限していると、栄養不足になることもありますから注意しましょう。

 

周囲は落ち着いて対応する

嘔吐をしばしば繰り返すため、周囲が神経質になったり、発作時にあわてると、子どもの症状がより悪化することもあります。事前に察知できるように子どもの様子にさりげなく気を配り、嘔吐を起こしても落ち着いて対応すると、子どもも安心します。嘔吐が治まれば食欲も出て、全身状態がよくなり、1週間たらずで正常な状態に戻ります。10歳を過ぎれば治る病気ですから、必要以上に心配しないようにしましょう。

 

日常的には、偏食をなくし、規則正しい食事をとるように心がけます。特に夕食をとらずに寝てしまったり、ケトン生産を促してしまう高脂肪の食事をとるのは避けるようにします。夕食時に食欲がなかった場合など、就寝前に砂糖を含んだ飲み物を与えるような工夫も必要です。また、精神的ストレスが誘因となることも多いので、情緒面の負担をとり除き、生活全般にわたって自分のことは自分でさせるなど、自立心を養うように配慮しましょう。