心因性難聴とは、「こころ」に何かしらの問題が発生した時に、耳が聞こえなくなる病気のことを言い、子どもの心因性難聴では学習、友人関係、転校やいじめなどが発症の主な原因になっています。

 

「担任がかわった」「クラス替えがあった」「クラスの雰囲気になじめない」、「いじめ」などの学校関連の原因のほか、両親の離婚、親子関係、兄弟関係などの家庭環境も原因の多くを占めています。

 

 

聴覚検査のときだけ音が聞こえなくなる

 

大人でも子どもでも、過度のストレスは、心身にさまざまな弊害をもたらしますが、近年、ストレスが子どもたちに聴覚障害をもたらすケースが増加しています。

 

聴覚障害のほとんどは音が聞こえにくい難聴であり、その多くは聴覚器官に何らかの問題が見られます。こうした障害は、通常、小学校1年生の健康診断での聴覚検査で発見されます。ところが、1年生の検査時ではパスしたのに2~4年生になって、聴力検診の音が聞こえにくい、あるいはまったく聞こえないという結果が出ることがあります。こういった症例は男の子より女の子に多いという特徴を持っています。

 

ただし聴覚器官には問題がないので、こうした子たちは通常の会話は普通にできるのです。日常の会話に問題がなく、聴覚検査のときだけ聞こえない状態になる理由として、ひとつ考えられるのは、聴覚検査によって受けるストレスです。「さあ、音を聞いてごらん」と言われることによって起こるストレスで普段聞こえる音が聞こえなくなってしまうということです。

 

このタイプの難聴を調べてみると、結果的に原因がまったくつかめないケースもあり、これは、専門用語で「機能性難聴」と呼びます。一方、明らかに精神的な問題を抱えている場合も多く、これを「心因性難聴」と呼びます。

 

 

愛情面での問題が引き起こす心の病気

 

心因性難聴の子どもの多くは、愛情関係に問題が見られます。その典型的な第一の例は、親が仕事を持っているなどの理由で忙しく、あまり子どもと触れ合う機会がない、あるいは、他の兄弟との触れ合いに比較して、その子との愛情関係が希薄などの状況です。つまり、愛情不足の例です。

 

第二に見られるのは過干渉です。親が一人の子どもに意識を集中させすぎ、さまざまな干渉をすることからストレスを感じている状態です。そして第三は、学校でのいじめやたくさんの習い事、早期教育などによって、心の休まる暇もないことから過剰なストレスをため込んでいる状況です。

 

近年、この心因性難聴は、確実な増加傾向を見せ、しかも低年齢化しています。その背景には、少子化の中での塾通いの早期化、習い事の早期化・過剰化、さらに親の離婚の急増などが指摘されています。

 

通常の会話はできているわけですから、実質的な問題はなさそうですが、難聴が検査のときに限って発生するというのは考えにくいのです。つまり、検査時と同様にストレスがかかる状況では聞こえなくなることが十分に考えられるわけです。また、その原因を取り除いてあげられなければ、彼らの心の成長は大きく妨げられ、将来的には、登校拒否やひきこもりなどにつながる可能性があります。

 

しかもこの心因性難聴は、視野の異常や視力の低下などの視覚障害を伴うこともあり、この場合は、さらに深刻です。つまり、ストレスが強い状況になると、音が聞こえなくなると同時に、周囲の事物が見えなくなってしまうのです。

 

 

十分な愛情が第一。必要に応じて専門家のケアを受ける

 

心因性難聴や、それにともなう心因性視覚障害などの「心因性知覚障害」は、脳・心と外界を遮断することでそれ以上のストレス、つまり不安や怒り、悲しみ、妬みなどの「嫌な思い」を味わわないようにする行為と考えられています。これは、その子の心が非常に弱った状態を意味します。

 

そこで、心因性知覚障害を改善する第一のテーマは、親が十分な愛情を持って接し、一緒に食事をしたり、遊んだり、歓談したりといった時間を持つことです。子どもの心は愛情を与えられれば、強さを回復することができるのです。

 

ただし、症状が重度の場合には、心理療法をはじめとした「治療」も必要であり、原因を特定する必要も出てきます。子どもの中には、「お母さんがお姉ちゃんばかりかわいがる」といった思い込みから、こうした状態に陥っている場合もあり、親が十分な愛情を注いでいても、本人にとっては、納得がいっていないという微妙なケースも多く、こうした場合には専門家の分析とケアが必要となります。

 

また、耳鼻科など医師の中で、この症状への認識は十分ではなく、無思慮に補聴器をつけさせられたり、病院をたらいまわしにさせられたりといったケースも多いので注意が必要です。心因性難聴が疑われる場合には心療内科での受診も選択肢に加えたほうがよいでしょう。

 

心因性難聴をはじめとする心因性知覚障害は、まさに子どもの心の叫びです。親は、この叫びをしっかりと受け止め、たとえ短時間でも心と心の交流を心がけ、子どもによかれと思っての干渉や塾・習い事の強要を慎むようにしてほしいものです。