①前かがみになると痛がる(お腹)、②1時間以上、痛みが続いている、③吐き気や嘔吐がある、④微熱がある、⑤痛みから右足を上にして寝ている、⑥食欲がない、これらの症状があると虫垂炎(または盲腸)かもしれません。

 

虫垂炎は、発病してから48時間を過ぎると腸に孔があいてしまいます。上記のような疑わしい症状が現れたら、少しでも早く小児科または消化器科に受診し、適切な検査・治療を受けてください。

 

 

虫垂炎(盲腸)とは

 

盲腸の先端についている先の閉じた腸管が虫垂です。虫垂炎は、虫垂に細菌が感染したり、異物などが侵入して炎症が起こる病気で、一般には盲腸炎といわれていますが、盲腸と虫垂は別のものです。(ただし広義には同じですので、ここでは虫垂炎と盲腸を同義とします)

 

草食動物の盲腸はよく発達し、食物の消化に重要な働きをすることが知られていますが、人間や肉食動物の盲腸の一部は退化し、虫垂となりました。人間の腸の長さや機能は、年齢とともに発達していきますので、成長期の子どもの腸は働きが十分ではありません。

 

大網という膜は、腸を保持し、炎症を起こしたりした部位を包み込んで腹腔全体への波及を防止しますが、子どもでは十分に発達していません。このため腸同士の位置関係がずれることがあります。

 

虫垂が炎症を起こしやすいのは、ほかの腸と違って先端が閉じているために、ガスや膿がたまりやすいためです。特に子どもの虫垂は短くて内壁も薄いので、炎症が起こって内圧が高くなると、すぐに破れてしまうという特徴があり危険です。

 

また、子どもの虫垂炎は進行が早く、発症してから48時間以上経過すると、虫垂に孔があいてしまうケースが約90%といわれています。子どもの場合は、痛み始めた時期や場所、痛みの程度などをうまく説明できないために、診断が遅れがちです。

 

虫垂に孔があくと腹膜炎などを併発することも多くなります。虫垂炎は、1歳未満の乳幼児にはほとんどみられませんが、4歳を過ぎた頃に急に増え、10歳以上では成人と同じ頻度で発病するようになります。

 

 

虫垂炎(盲腸)の原因

 

虫垂炎は、細菌感染などによる虫垂の粘膜下のリンパ節の炎症、虫垂への異物の侵入のほか、糞石とよばれる結石や腫瘍ができることなどが引き金となって、化膿性の炎症が起こります。さらに、虫垂炎の誘因として、かぜ、便秘、胃腸炎などもあげられます。

 

腸には、大腸菌やブドウ球菌などが常在していますが、炎症が起こることはほとんどありません。腸の働きが活発で腸管の断面積が広く、細菌の繁殖が起きにくいからです。虫垂はもともとリンパ組織がよく発達した部分で、ウイルスなどに感染すると、腸内細菌が侵入して、炎症を起こしやすくなります。

 

虫垂口がふさがると虫垂は密閉された状態になり、虫垂内壁の血液の流れが悪くなります。その結果、虫垂内壁の粘膜が酸素不足になり、大腸菌などが繁殖するため、炎症はますます激しくなり、虫垂にむくみも生じます。この状態が、カタル性虫垂炎といわれる初期の虫垂炎です。

 

むくみはさらに血液の流れを妨げるので化膿性の炎症が起き、虫垂の内部組織に壊死や壊疽が起きます。この状態が蜂窩織(ほうかしき)性虫垂炎です。

 

子どもの虫垂炎は、受診したときにはすでに病状が進行していることが多くなっています。子どもに最も多い穿孔性虫垂炎は、虫垂壁の全層に炎症が波及して孔があき、内容物や膿が外に漏れ出すようになります。

 

穿孔性虫垂炎になると、膿がおなかの中にあふれ出さないように自然治癒力が働いて、穿孔した部位のまわりに膿瘍膜ができます。この状態を壊疽性虫垂炎とよびます。

 

膿瘍膜の中に膿がたまると腸膿瘍ができます。放置すると、腸管の癒着や腸閉塞を起こすだけでなく、周囲の腹膜を刺激して、激しく痛む限局性腹膜炎を併発します。さらに腸膿瘍が大きくなったり、膿瘍の近くで起きた腹膜の炎症が腹部全体に広がると、汎発性腹膜炎になります。

 

汎発性腹膜炎は、ほとんどの場合、腹壁が板のように硬くなり、手遅れになると敗血症などを起こして生命の危険をもたらします。そのため、症状が増悪しないうちに適切な治療を受けることが非常に大切です。

 

 

虫垂炎(盲腸)の症状

 

一般に虫垂炎は、みずおちのやや下や、へそのあたりから痛みが出現し、6〜10時間ほど続きます。やがて右下腹部に痛みが集中するようになり、吐き気や嘔吐、微熱を伴います。

 

幼児の場合は、痛みを上手に表現することができず、親でも最も痛いのはどこなのか、どんな痛みなのかを知ることが難しいものです。

 

激しい痛み

虫垂炎の典型的な痛みは、胃のあたりから始まり最終的に右下腹部に集中します。いきなり右下腹部から始まるわけではありません。痛みが長く続き、途中で治まることがないのが特徴です。しかし、子どもの虫垂炎の場合は、痛みはじめる部位はいろいろで、おなかの左側であったり、真中であったりします。

 

しばらくして、おなかの右下が痛くなるころには病状は進行し、虫垂の内部組織に壊死や壊疽が起こっていることが多い傾向にあります。虫垂炎は右下腹部が痛いはずだと考えて対処していると、思わぬ判断違いをすることになります。

 

痛みが激しいときは、子どもは歩くことができず、からだを前屈したり、右足を上にして横を向いて寝ています。X線写真を撮ると、おなかを曲げて右腹の痛みを我慢している為に、背骨が曲がっているのがわかります。

 

吐き気、嘔吐

腹痛が強くなるにつれて、吐き気や嘔吐も激しくなります。特に嘔吐は、虫垂炎が化膿状態になって腸膿瘍ができ、腹膜が刺激を受けていることを示しています。

 

発熱(微熱~高熱)

初期の虫垂炎の場合、体温は37℃台になることが多い傾向にありますが、膿瘍や腹膜炎を起こしている場合は39〜40℃に上がります。嘔吐も発熱のない場合は、虫垂炎でも初期と考えてよいでしょう。

 

そのほか(食欲不振・便秘・下痢)

食欲がなくなり、炎症で腸が麻痺するので、初期の段階では便秘気味になります。炎症がほかの腸に波及すると、急性胃腸炎のように下痢を起こすこともあります。

 

 

虫垂炎(盲腸)の診断・検査

 

一般に虫垂炎の診断は、問診、触診、X線検査、血液検査結果などを参考にします。症状を正確に伝えることのできない幼児の場合は、保護者に対する問診が重要になります。

 

問診(質問)

痛みの程度や部位、痛みだした時期のほか、食欲、吐き気や嘔吐、発熱の有無などを尋ねられます。保護者の注意深い観察が診断に大いに役立ちます。

 

5〜6歳くらいの子どもは、手術が嫌で痛みを我慢しているケースもあり、医師は、歩けるかどうかを保護者に尋ねることがあります。痛みが激しいと歩けなくなるからです。痛みの程度を知るために、子どもにつま先立ちやジャンプをさせて、おなかの痛みを診ることもあります。

 

また、痛みをあまり感じない場合は、虫垂が大腸の後ろ側にまわり込んで、大きな膿瘍ができていたり、骨盤の中にあるすき間に腹膜炎が進行していることも考えられます。この場合は、肛門から指を挿入して、回盲部に腫瘤がないかを指診することもあります。

 

内診(触診)

一般に、成人では、腹膜に炎症があると腹筋が緊張して腹壁が硬くなる筋性防御という反応を調べたり、圧迫すると痛みが出る圧痛点を確認することで虫垂炎を診断することができます。しかし、子どもの場合はこわがって緊張したり、泣いておなかが硬くなってしまうことが多く、触診はかなり難しいのが実情です。

 

また、子どもでは筋性防御もとらえにくく、まれにですが腹膜炎になっていても、おなかが軟らかく膨らんでいることがあります。そのため、子どもの虫垂炎の触診は、ゆっくりと時間をかけて、顔の表情なども参考にしながら進めていきます。

 

X線検査

あおむけの姿勢と立った姿勢で撮影して、病状をチェックします。右腹部の回盲部にガスがたまっていないか、虫垂に糞石はないか、右腸腰筋に異常がないか、痛みのために右側をかばうように腰椎が曲がっていないかなどを診察します。

 

血液検査

4歳以上の子どもの白血球の正常値は10,000/ml以下といわれ、診断にあたって白血球数を参考にする場合もあります。白血球が12,000〜15,000/mlに増加すれば、虫垂炎と診断する一つの目安になります。しかし、溶連菌が原因となる腹部症状や扁桃炎でもおなかが痛くなることがあり、白血球数も増加します。

 

一方で、汎発性腹膜炎という重症なケースの20%に、白血球数が10,000/ml以下の場合があるので、白血球の増加を虫垂炎の絶対的な診断基準とすることはできません。

 

虫垂炎の診断は、腸重積、急性胃腸炎、ダグラス窩膿瘍などの病気との鑑別が重要です。虫垂炎の病状が進行すると下痢症状になるために、急性胃腸炎や腸間膜リンパ節炎の症状とまぎらわしいことがあります。そのため、腹部診察や検査結果で診断が困難な場合は入院させ、数時間ごとに経過を観察します。

 

子宮や膀胱と直腸の間にあるダグラス窩というくぼみは、腹腔最下部にあって余分な腹水や血液をためる役割があります。ほかの病気で膿瘍がたまっている疑いのある場合は、針で小さな孔をあけてダグラス窩の膿を取り出して検査し、鑑別診断します。

 

 

虫垂炎(盲腸)の治療

 

手術前の準備

虫垂炎と診断されると、小児外科のある病院へ移され、ほかの病気を併発していなくて体力も十分であれば、ただちに手術が行われます。発病してから長期間たっていたり、重症の場合は、脱水症状を改善するために3時間から半日は点滴などで十分に水分を補給して、全身状態を管理します。病状の正確な判断が難しくなるため、手術前には、抗生物質や鎮痛剤は原則として使いません。

 

手術(開腹・ドレナージ)

手術後のリスクを考慮して、全身麻酔で手術します。手術は膿瘍や腹膜炎を起こしていなければ30〜40分、麻酔の時間を含めても1時間内で終わり、開腹の長さも3〜4cmです。膿瘍を伴う場合は、手術後にその部位にチューブをさし込んで膿を出し、膿がなくなるのを確認するドレナージ治療を行います。

 

手術後の養生

ドレナージ治療が必要な重症の場合以外は、手術の翌日から歩くことができます。ガスが出たら水が飲め、様子をみながら少しずつ普通の食事に戻していきます。退院までは約1週間が目安で、手術後の後遺症はほとんど心配ありません。ごくまれに、術後感染で皮下に膿瘍ができたり、手術後しばらくしてから癒着性の腸閉塞を起こすことがあります。

 

手術でできた皮膚の傷が化膿したり、切除した部位の腸が、ほかの腸をまき込んでしまうために起こるもので、再手術が必要ですが、すぐに治ります。いずれの場合も、早い段階で手術をすれば、心配はいりません。

 

 

早めの診察が大切

 

子どもの虫垂炎は診断が遅れることが多いために、6歳以下の子どもが虫垂炎になった場合は、腸に孔があいてしまうケースが多くなります。

 

子どもの虫垂炎は、できるだけ早く診察を受けて、手術で虫垂を切除することが原則です。おなかが何時間も痛んだり、嘔吐がある場合には早めに医師の診察を受けましょう。