子どもの手術は基本的に全身麻酔で行われます。意識が失われることで、からだを動かす危険や精神的な不安の防止にも役立っています。

 

その一方で、麻酔は少なからず副作用が発生するため、術中はもちろん、手術後のしっかりとした管理が必要になってきます。疼痛管理や合併症の予防だけでなく、精神的な援助も重要になってきますので、あらゆる角度から包括的に管理を行うことが大切です。

 

 

小児麻酔とは

 

麻酔には局所麻酔と全身麻酔の二つがあり、後者の全身麻酔は意識消失へと導きます。

 

■局所麻酔

局所麻酔法には、粘膜面に麻酔薬を塗布することで知覚を抑制する「表面麻酔」、局所への直接的に麻酔薬を注射する「局所浸潤麻酔」、神経ブロックによって痛みの伝達を抑制する「脊椎麻酔」「硬膜外麻酔」、「腕神経叢ブロック」などがあります。

 

■全身麻酔

一方、全身麻酔法には、口と鼻にマスクをあてたり、気管内にチューブを挿入(気管内挿管)することで麻酔薬を吸わせる「吸入麻酔法」や、手足の静脈などから麻酔薬を送り込む「静脈麻酔法」、そのほか「筋肉注射法」などがあります。

 

大人の場合は手術の部位や手術方法によって、手術部のみの痛みや知覚を抑える局所麻酔が施されることが多々ありますが、子どもの場合には、病気の種類や手術の難度に関わりなく、原則として全身麻酔が用いられ、穿刺やカテーテルの導入などを伴う検査でも、全身麻酔を行うケースがあります。

 

一般的に、麻酔は手術中の痛みを取り除くための医療処置と考えられがちですが、全身麻酔では、血圧、脈拍、呼吸、体温など、全身のあらゆる状態が変化するため、手術が安全に行われるように管理する必要が出てきます。

 

 

安全確保のための全身麻酔

 

子どもは大人と比べて痛みに対する抵抗力が少ないものです。ある程度の年齢になれば、局所的な処置の場合は我慢していられるようになりますが、小さな処置であっても年齢が低い子供は、意識して動かないでいるのは難しいものです。ですので、処置(手術)の安全を確保するためにも、全身麻酔は必要不可欠なものなのです。

 

全身麻酔によって痛みや動体の制御による安全確保はもちろん、手術が子どもに与える恐怖心や不安に対しても配慮する必要があります。見慣れない大人に囲まれた状態では心細く、また見知らぬ器具や身体にモニター機器などが貼り付けられる状態、切開など、これから起こりうる恐怖・不安というのは非常に大きなものです。

 

泣いたり、暴れたりする体験というのは、トラウマの引き金になりかねなく、手術が無事に終わったとしても、恐怖や不安という心の傷そのものは、今後長く心に刻み込まれる可能性がありますので、子どもに全身麻酔を行うのは、こういった危険を避けるためです。

 

全身麻酔は、麻酔の影響が特定の部位にとどまる局所麻酔より危険性が高いと思われがちですが、執刀医が麻酔も行う場合が多い局所麻酔と違って、全身麻酔の場合は専門の麻酔科医が必ずついて、手術前から、術中、術後まで子どもの状態を最善に保つよう、さまざまな管理と処置が行われます。そのため、全身麻酔が局所麻酔と比べて危険だということは全くありません。

 

 

小児麻酔の特異性

 

子どもの全身麻酔は主として、気道から麻酔ガスを送り、肺で吸収させる方法で行われます。その理由として子どもの場合、幼少であるほど静脈を確保しにくいことのほか、麻酔にかかりやすい、手術中に麻酔の深さと呼吸のコントロールがしやすい、麻酔が醒めやすい点などがあげられます。

 

また、手術中に気道を確保し、麻酔や呼吸をコントロールするため気道内にチューブを挿入します。子どもは気管が細かく、大人では内径が約10mmあるのに対し、乳児期には4mm前後しかありません。しかし子どもは体重当たりの酸素消費量が多いうえ、上気道が狭いために唾液や気管内分泌物による閉塞が起きやすいなどの理由で呼吸管理が難しくなります。

 

そのため、子どもの麻酔を行う麻酔医には経験と技術が必要とされます。現在は、各地の小児病院で小児麻酔の修練を積んだ麻酔科医が、各病院の麻酔科に少しずつ増えています。

 

 

麻酔法と薬(ガス麻酔薬と揮発性麻酔薬を併用)

 

代表的な麻酔薬はガス麻酔薬の笑気ガスや揮発性麻酔薬のハロセン、セボフルレン、イソフルレンなどで、肺から吸収され血液に入って中枢神経に作用し、知覚と意識を失わせ、自発性運動機能と反射を抑制します。笑気ガスは副作用が少なく即効性があるため、麻酔開始から用いられますが、手術を行うには麻酔の深さが不足するので、揮発性麻酔薬などが併用されます。麻酔の吸入に際しては、生命維持のための酸素と麻酔薬の濃度が、麻酔器によって正確に調整され、患者の肺へと送られます。

 

また、筋肉の緊張をゆるめて麻酔中の咳を抑制し、気管内挿管を容易にしたり、開腹をしやすくするために、筋肉弛緩薬を静脈注射します。

 

子どもの手術は全身麻酔が主体ですが、手術後の激しい痛みをとるために、手術中から硬膜外麻酔を併用したり、直径1mmの軟らかいチューブを硬膜外腔に入れておいて、術後に局所麻酔を施したりする例が増えてきています。

 

 

年齢に応じた麻酔

 

手術に際しては、子どもの身体的な状態とともに精神面への考慮も重視され、子どもの発達に応じた対処が行われます。

 

■低出生体重児・新生児麻酔

新生児の手術は主として、小児科医や麻酔科医のなかでも新生児の手術に経験を積んだ専門医のいるNICU(新生児集中治療室)のある病院や小児病院で実施されます。新生児期に手術が必要となるのは、何らかの重度の障害があって、緊急に手術を行わなければ生命にかかわるケースが多いものです。まだ胎外環境への適応も十分ではないうえに、合併症をもつ子どもも多く、特に低酸素血症、脱水、感染などを起こしやすいので、麻酔科医は細心の注意を払います。

手術中は体温維持のために室温を高くしたり、温水マットを使用する、吸入ガスや輸血も温めるといった処置をし、低体温状態になるのを防ぎます。出生体重が2,500g未満の低出生体重児では、低体温、低血糖、呼吸管理などに特別な注意を必要とします。

 

■乳児麻酔(生後11日から1歳未満)

一応、胎外の生活に適応できるようにはなっていますが、呼吸や循環などさまざまな機能はまだ未熟なため、手術や麻酔の影響を大きく受けます。また、言葉によるコミュニケーションが不可能な時期なので、麻酔科医は子どもが不快を感じているかどうかなどを、特に注意深く見守ります。

6ヶ月以下の乳児の場合は、家族から離されても泣いたり、暴れたりすることは少なく、看護師を母親代わりとして受け入れやすい時期です。心理学的には、大手術を行うにはこの時期が適しているといわれていますが、長期間親と離れることは、その後の親子の絆の形成に影響を残すと考えられています。

 

■幼児麻酔(6歳未満)

物心のつく年齢であり、注射や手術などによる痛みへの恐怖、行動を制限されるのを嫌がる傾向が強くなります。親から離される不安や入院そのものによる情緒不安定が生じやすい時期でもあるので、精神的な影響を残さないような配慮が必要となります。3歳を過ぎると言葉による理解が出来るようになるので、子どもにわかる範囲で麻酔や手術について話して聞かせ、納得させることも必要です。手術前に落ち着かせるため、鎮静剤を投与する場合もあります。

 

■年長児麻酔(6歳以上)

小児麻酔としての特異性がなくなり、体重により麻酔の量を調整すれば、基本的に成人と同じ麻酔が可能になります。入院や手術の必要性が理解できる年齢なので、病院で何をするのか、どんな手術か、傷が残るのかなどを気にするようになります。また、麻酔中に意識がなくなることへの不安も強くなります。医師や看護婦が麻酔時の状態や麻酔法などを説明すると、不安がやわらいでいきます。

 

 

術前に保護者・家族が行うこと

 

子どもの入院、手術が決まったら、主治医や麻酔科医から病気や手術について説明があります。言葉が理解できる年齢の子どもには、親は実際に行われることについてできるだけわかりやすく、やさしく話して聞かせ、子どもと話し合っておくと、入院や手術への抵抗が薄れる傾向にあります。

 

「おもちゃを買いに行こう」「ちょっと診てもらうだけ」などと子どもをだますと、入院後に親や医師に不信感を抱き、不安や恐怖が大きくなると思います。入院する前には爪を切り、からだを清潔にしておきましょう。

 

いつも寝るときに使っているタオルや抱いて寝るぬいぐるみなどを持っていくと、子どもは病院のベッドでも少しは安心できます。手術の説明をしてくれる医師や手術室の看護師、あるいは病棟の看護師に、子どもの呼び名や好きな物、嫌いな物、気にすることなどを話しておくと、子どもが病院になじむ手助けになります。

 

食べ物や飲みものについては、医師や看護師の指示を守りましょう。特に外来手術(日帰り手術)の場合は、かわいそうになってついお菓子などを与えたりしがちです。麻酔に危険が伴う場合がでてきますので、絶対にやめましょう。

 

 

麻酔の実際(術前~術後の安全を管理)

 

病気や怪我の状態に応じた手術法、子どものからだと精神の発達状況に合った麻酔法や麻酔薬を選択し、安全でスムーズな手術を行うために、主治医、手術を行う執刀医と麻酔科医が連携をとり、細かな対処法が検討されます。

 

検査と病歴チェック

手術が決まると、事前に血液検査や胸部のX線検査を行うほか、風邪による喉や鼻の炎症、咳がでる可能性などをチェックします。貧血があると、手術中に送り込まれる酸素が体内に十分行きわたらない場合がでてきますし、咳が出ると気道の確保が難しくなります。

発熱や貧血をはじめ、かぜなどからくる呼吸器疾患、さらに嘔吐や下痢のような消化器症状がみられる場合には、合併症を起こしやすいといった弊害が考えられ、手術が延期されることもあります。さらに、これまでの病歴、親近者に麻酔でショック症状を起こした人はいないか、服用中の薬、予防接種の時期、アレルギーの有無なども、保護者の協力を得て、丁寧な聞き取りが行われます。

 

手術の前に

麻酔中は胃に内容物があると嘔吐しやすく、肺に入ると窒息を起こしたり、肺炎になる危険があります。そのため。2歳未満の子どもには麻酔開始6時間前、2歳以上なら8時間前から食べ物は摂らさないようにします。しかし、水分は麻酔開始2時間前までは水やスポーツ飲料などは飲ませてもよいとされています。ミルクやオレンジジュースは避けます。手術中は静脈から点滴をし、水分補給を行います。

 

≪手術前の投薬≫

手術前の興奮を鎮静させるため、子どもの様子によっては投薬が行われる場合があります。催眠や鎮静のためのジアゼバム、気道の分泌物を減らしたり、手術の妨げとなる反射を抑えるためのアトロピンなどが、座薬やシロップの形で投与されます。いずれもスムーズな全身麻酔へと導くための手段です。

 

手術室に入って

手術室に入る時は、年齢に応じておもちゃを持たせたり、テレビ番組や友達の話をしたりして、できるだけ子どもがリラックスできるようにします。

 

①麻酔開始

一般に麻酔開始時には、マスク麻酔法が使われます。子どもが落ち着いた状態かみたうえで、麻酔用マスクから笑気ガスと酸素、揮発性麻酔薬を送ります。子どもの対話やまつげ反射から意識レベルを確認し、呼吸や舌の状態をみながら、麻酔薬の濃度を上げ、マスクを顔に密着させます。

麻酔が効いて意識を失った後は、血圧のチェックを行い、胸部や横隔膜の動き、舌の様子の観察、胸壁聴診器による呼吸音のモニターなどから呼吸の状態を確認します。点滴や緊急時の薬の投与、輸血の必要などに備えて、静脈を確保し、点滴を始めます。次に静脈から筋弛緩薬を投与し、全身の筋肉を弛緩させます。

 

②気管内挿管

呼吸麻酔で意識がなくなり、筋肉の緊張が緩んだところで、子どもの年齢に合わせた太さの気管内挿管用チューブを気管内に挿入します。この挿管はチューブは軟らかいビニールやシリコンでできているので、のどや気管に傷がついたりすることはありません。

手術中はこのチューブを通して、全身麻酔器から適度な濃度の酸素と麻酔薬が送り込まれ、全身麻酔が確保されます。手術中、麻酔科医は心電図、血圧計、酸素飽和度計などをモニターで確認して、全身状態を安全に管理します。

 

術後の管理

手術のすべての処置が終わった後、安全に麻酔から覚醒させ、手術後の痛みをとるのも麻酔科医の役割です。子どもの麻酔薬からの回復は比較的すみやかですが、麻酔から覚める過程で、いくつか合併症がみられることがあります。麻酔からの覚醒が遅い場合は、麻酔薬や筋弛緩剤が過剰だったり、薬剤の併用投与の影響が考えられます。薬の影響をとるための薬が投与され、自発呼吸ができるまで、人工呼吸を続けます。

 

体温の異常、吐き気や嘔吐なども比較的よくみられ、子どもは全身麻酔の影響が消え、全身状態が落ち着くまで回復室などで注意深く観察されます。気道閉塞や低酸素血症への対処は非常に重要です。

 

また、子どもが術後の痛みのため泣いて興奮すると、全身状態を悪化させることがあります。術後の激しい痛みへの対応としては、手術中から座薬や局所麻酔を併用して、全身麻酔が覚めても痛みを感じない処置がとられることがあります。幼児の場合は特に意識が回復したときに、親がついていると不安感を取り除くのに重要や役割です。普通は1時間程度で回復室から病棟に戻り、通常の看護が行われるようになります。

 

≪子どもの安全な手術のために≫

子どもの場合、より安全な手術を行い、手術への不安や痛みなどからくる精神面の影響を避けるために、全身麻酔という方法が選ばれます。親は子どもの手術というだけで動揺し、全身麻酔と聞くとなおさら不安に感じます。でも、親の不安は子どもに緊張を誘います。納得できるまで、主治医や麻酔科医に説明を求めて不安を解消し、親の不安が子どもにうつらないように、落ち着いて対処することが大切です。