アレルギー性腸炎とは、ある特定の食物の摂取が原因で、腸管粘膜を中心にアレルギー反応が起こり、下痢や嘔吐、腹痛、栄養障害などの消化器症状が出る病気です。

 

食事の後に、①激しい嘔吐、②水様性の下痢、③腹痛、④じんましん、などの症状が出れば、アレルギー性腸炎の可能性があります。場合によってはアナフィラキシーショックや呼吸困難などの重篤な症状になることもありますので、食後に上記の症状がでれば、迷わず病院へ受診してください。

 

 

アレルギー性腸炎とは

 

アレルギー性腸炎とは、アレルギー反応に基づく消化管の病気です、口から摂取された食物は主に消化酵素によって消化され、腸管の絨毛から体内に吸収されます。その過程で、消化しきれないたんぱく質の一種であるペプチドが抗原となって腸管粘膜に侵入し、消化管を中心にアレルギー反応を起こす病気がアレルギー性腸炎です。

 

下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状や全身性のアレルギー反応であるアナフィラキーショック、脱水、栄養不良などの症状を示します。

 

食物アレルギーは、本来はからだを守る働きの免疫反応が、からだに不利に働く反応です。その際多くの例で、免疫グロブリンE(IgE)が中心となって関係する体液性免疫反応によって肥満細胞からヒスタミンなどの化学物質が放出されていろいろな症状を現し、即時型として発症します。

 

一方、アレルギー性腸炎は、主にリンパ球からでるサイトカインによって種々の症状を引き起こす遅延型の細胞性免疫である点に違いがあります。ただし、アレルギー性腸炎にも、IgEを介する場合もあり、実際には両者が混在するケースも珍しくありません。

 

主として乳児にみられ、生まれてまもなく母乳が不足して粉ミルクに切り替えたり、生後2〜3ヶ月の早期に離乳食を始めたときなどに、アレルギー性腸炎を起こす例が少なくありません。病気の発見が遅れると症状が重くなり、治りにくくなることがあります。

 

アレルギー性腸炎を起こした赤ちゃんも、乳児期を過ぎると下痢などの症状が治まり、自然に治るケースが多くみられます。しかし、なかにはアトピー性皮膚炎、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎へと進む子どももいます。

 

 

アレルギー性腸炎の原因

 

アレルギー性腸炎の多くは、防御機構の破綻により発生します。私たちのからだには、健康を守るために、有害な物質を排除し、必要な物質を選択して取り入れる防御機構があります。アレルギーの原因となる抗原が消化管内に入ってくると、消化管の粘液層は、粘膜が有害物質に直接刺激されないように保護し、抗原の侵入を防ぎます(非免疫系防御機構)。

 

また、粘液層の中には、抗原を溶かしたり食べたりして処理する免疫グロブリンA(IgA)があり、侵入しようとする抗原と結びついて、腸管から吸収されるのを防ぐ働きをしています。

 

それでも抗原がこれらの防御機構を通り抜けて粘膜に入ってくると、血液中の白血球のうちリンパ球などが刺激を受けて抗体をつくります。一度つくられた抗体は記憶細胞という形で抗原を記憶し、再び抗原が侵襲してくると、それを全身の粘膜に伝え、さらにIgAを分泌させるなどして、抗原の侵入に備えます(免疫系防御機構)。これら非免疫系防御機構と免疫系防御機構の二つの防御機構によって、腸管粘膜は抗原の侵襲から守られています。

 

しかし乳児では、防御機構が十分に働きません。消化機能が未熟なため、食物が抗原になりやすい形で腸に入ってしまい、腸管では、分泌されるIgAの量が不足気味で、抗原の侵入を簡単に許す傾向があります。腸管の構造も未熟で、粘膜の免疫機構が壊れやすい不完全な状態にあるため、特にアレルギー反応が起こりがちになるとされます。

 

また、乳児はウイルス性腸炎などの感染症にかかりやすいので、感染症が原因で粘膜が傷ついて抗原にさらされたり、粘膜内の免疫を受け持つ細胞の働きのバランスが乱されて、免疫機構が破綻し、アレルギー性腸炎を起こすケースも少なくありません。

 

抗原となる食物では、粉ミルク、卵、大豆が三大原因とされ、粉ミルクアレルギーの子どもは、卵や大豆もアレルギーを起こす可能性が高くなります。粉ミルクに含まれるカゼイン、βーラクトグロブリン、αーラクトアルブミンといったたんぱく物質が抗原となります。卵白のオボアルブミン、オボトランスフェリン、オボムコイドというたんぱく物質やリゾチームという酵素、卵黄のリボビテリンもアレルギーを引き起こします。

 

大豆に含有されるグリニシン25、ピーナッツに含まれるアラチンなどのたんぱく物質なども原因成分です。そのほか、肉類や魚介類、小麦粉などのたんぱく物質、防腐剤、着色料や香料に含まれる低分子物質のハプテンが抗原になる例もあります。

 

 

アレルギー性腸炎の症状

 

アレルギー性腸炎には「即時型」と「遅延型」の2タイプがあります。

 

即時型(食後、数分から9時間前後に発症)

IgEを介して即時型アレルギー反応を示すタイプで、抗原となる食物を摂取した後、数分から9時間前後に発症します。抗原により粘膜の肥満細胞(マスト細胞)が刺激されて活性化すると、ヒスタミンなどの化学物質が放出されて、平滑筋の痙縮、粘液分泌の高まりなどの初期症状が現れます。さらに血液中の白血球の一つの好酸球から細胞に強い障害を与える化学物質が出て、症状を増強させます。

 

口内の違和感があるためにミルクを飲まない、離乳食を嫌がるなどの症状が最初にみられます。次いで吐いたり、水様性の下痢をしたり、まだ言葉を発せない乳児では泣いて足を丸め腹部の痛みを訴えます。おしりを見ると、肛門の粘膜がむくんでいたり充血しています。そのほか皮膚が赤くなったり、脈が速くなるケースもあります。

 

症状が重いと、ぜんそく発作が起きたり、喉頭がむくんで呼吸障害が現れたり、急に血圧が下がって意識を失うアナフィラキシーショックを呈することもあります。そのときの消化管を内視鏡で観察すると、粘膜がむくんでいたり、リンパ管が拡張しています。

 

遅延型(食後、24~48時間後に発症)

遅延型では、抗原となる食物を摂取して24〜48時間後から発症します。消化されなかった高分子物質の抗原が粘膜内に侵入し、刺激されたリンパ球から放出されたサイトカインなどの物質がアレルギー反応を起こし、腸粘膜細胞に炎症を生じさせたり、障害を与えたりします。

 

慢性の下痢、嘔吐、腹痛が主な症状ですが、ぜんそくやアトピー性皮膚炎を合併するケースもあります。症状は治りにくく、進行すると、粘膜の表面の栄養を吸収する繊毛組織などに損傷が起きて変化し、栄養分が吸収できずに便中にたんぱく質がもれ出て、栄養障害が生じるようになります。粘液性の血便が出たり、脱水症状を起こす例もみられます。

 

病気の発見が遅れ、適切な治療がなされなければ、体重増加不良や発育障害に陥ったり、免疫力が低下して敗血症などの感染症にかかりやすくなるケースもあり、生命をも脅かします。

 

複合型のケースも

これらのタイプの病態は単独に起こる場合よりも重なるケースが多く、抗原を摂取して1時間以内に即時型アレルギー反応が起こります。治まったと思ったら、24時間以降に、遅延型アレルギー反応が出現するようなこともめずらしくありません。

 

二つのタイプのアレルギー反応による症状は似通っているので、症状だけではどのタイプか判断できません。しかし、症状の出方や時間の経過から区別がつくことがあります。なお、乳児では、乳児下痢症といって細菌やウイルスが直接腸に感染したり、かぜに伴って二次的に起こる下痢があります。

 

特に冬に多くみられるロタウイルス性下痢(白色便性下痢症)は、嘔吐が激しく、水様性の下痢が1日に十数回も出て、ときに脱水症状を起こす病気ですが、初期段階ではアレルギー性腸炎の症状と似ていることもあります。しかし、ロタウイルス性下痢をはじめとする乳児下痢症の多くは、下痢は長くても1週間から10日で治ります。1週間を過ぎても下痢が続くようなときや、かぜの症状がなく急に下痢が始まった場合、また下痢をしばしば繰り返す状態では、アレルギー性下痢が疑われます。

 

≪アナフィラキシーショック≫

アナフィラキシーショックは、命にかかわる全身性のアレルギー反応です。子どもでは、IgE抗体ができやすいアトピーの素因をもっている男子に多くみられ、食物が主な原因です。大人では年配の女性に多く、アトピーとは関係なく、薬剤や蜂毒などが原因となります。

いずれの場合も抗原が体内に入ると、通常、数秒から30分以内に、血管浮腫などの皮膚症状が現れて、のどが腫れて呼吸困難を起こし、血圧が低下し、意識を失うなどの症状を示します。早期に症状が出るほど重症化しやすいとされています。気道を確保してただちに救急車を呼びます。

 

 

アレルギー性腸炎の検査

 

アレルギー性腸炎の診断には、病歴のチェックが重要です。問診と血液検査によって抗原をある程度選別し、即時型か遅延型あるいは混在型かを確定し、プリックテスト、スクラッチテスト、負荷試験で抗原を特定します。症状によっては、内視鏡による十二指腸生検を行い、粘膜障害をチェックします。

 

■問診

アレルギー性腸炎の診断で最も大切なことは病歴のチェックです。どの食物を摂取したら、どのような症状が現れたのかを医師に詳しく伝えましょう。問診によって、疑われる抗原が選別されます。

 

■血液検査

末梢血液を採取して、好酸球や好塩基球数、IgEの量をアイソトープや放射線を使って調べるRIST値やRAST値の測定、疑われる食物のリンパ球刺激試験などが行われます。しかし、アレルギー性腸炎では、即時型アレルギーを合併していないとIgEの上昇がみられません。この場合、リンパ球刺激試験の結果が重視されます。

 

■便の検査

便の中の好酸球数や好塩基球数、出血の有無、たんぱく量などを調べます。即時型では好酸球数、好塩基球数が増加しており、遅延型では血便がみられたり、たんぱく量が増加しています。

 

■プリックテスト、スクラッチテスト

即時型ではプリックテスト、遅延型ではスクラッチテストが行われます。プリックテストはIgEの存在を皮内で確認する方法です。スクラッチテストでは皮膚の表面に抗原と疑われる食物のエキスを塗って、アレルギー反応が起こるか、また抗原侵入にリンパ球が集まってくるかを調べ、抗原を特定します。

 

■負荷試験

プリックテストやスクラッチテストで抗原が確認できないケースに行います。抗原と疑われる食物を与え症状が出るかどうか、ついでそれを除去したら症状が鎮静化するかどうかを調べて、抗原を確かめます。アナフィキシーショックを伴うことがあるので、明らかに抗原と認められる食物につては負荷試験を行いません。

 

■十二指腸あるいは空腸生検

内視鏡で十二指腸の組織を採取し、細胞をチェックします。即時型では肥満細胞が侵されているのが認められ、遅延型では栄養分を吸収する繊毛の変化など粘膜障害が確認できます。

 

 

アレルギー性腸炎の治療

 

アレルギー性腸炎の治療では、消化器症状と全身症状の改善が急務となります。下痢や嘔吐などの消化器症状に対する治療のほか、脱水や栄養不良、アナフィキシーショックといった全身症状の改善がまず行われます。

 

脱水症状には、少量のイオン飲料などの水分を回数多く与えたり、点滴して水電解質を補給します。下痢や嘔吐に対しては、症状の程度によって下痢止めや吐き気止めが投与されます。栄養状態が悪く低たんぱく血症に陥っている場合は、アルブミンを注射します。腸粘膜障害が強いときは下痢が止まるまで点滴で中心静脈栄養を行って、口からの栄養摂取を中止することがあります。

 

アナフィラキシーショックを起こした場合は、呼吸困難が起きないように気道を確保し、血圧の低下を防ぐなど、救命治療を行います。アレルギーの治療はこうした危険を脱した後に行います。治療は、抗原となる食物を摂取しないように除去食を行うのが基本です。例えば卵白や大豆が抗原ならこれらの食品や含有食品の摂取を控え、人工乳(牛乳たんぱく質)が抗原となっている場合は、加水分解乳やアミノ酸乳(エレメンタールフォーミュラ)などの低アレルギー化処理食品を用います。 除去食を行うときは、赤ちゃんの発育に影響を与えないように、抗原とならない食品を使って栄養価を配慮します。

 

抗原となる食品の種類が多いケースでは、完全に除去するのは難しいので、抗原性の強い2〜3食品を除去し、弱い抗原性食品は周期的ないしは交互に回転させて与えたうえで、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、時にステロイド剤などを用いて、アレルギーを起こす物質の働きを抑制することがあります。

 

 

さいごに

 

アレルギー性腸炎のなかでも即時型アレルギー反応は、食物を摂取してあまり時間がたたないうちに発症しますので、病歴とRASTの検査をすればアレルギーと診断できます。しかし、遅延型アレルギー反応は、診断に手間取ることがあります。これは細胞性免疫を介して、腸の粘膜にアレルギー反応が起きているため、IgEやRASTなどの一般のアレルギー検査では発見しにくいためです。

 

治りにくい乳児下痢症と診断されて、治療が遅れるケースが少なくありません。腸の粘膜の繊毛が変形し栄養の摂取ができなくなると、生命にもかかわってきます。このような危険を避けるためには、早く専門医を訪ねることが重要です。

 

正しい診断がつき、水分や電解質、栄養分の静脈から補給といった対症療法や、除去食、投薬などが行われれば徐々に回復し、3〜4ヶ月もすると、通常のミルクや離乳食をとれるようになる赤ちゃんもいます。治療で腸の組織が回復し、また成長によって腸の免疫力がついてくるからです。3歳ごろまでには、およそ90%の子どもが治ります。

 

アレルギー性腸炎を予防するためには、少なくても生後3カ月までは母乳で育てることです。母乳が出ない場合は、粉ミルクに変更します。アレルギー素因の強い親や兄、姉がいる乳児の場合、小児アレルギーの専門医に相談し、低アレルギー化処理をした粉ミルクを与えるようにすることも一つの方法です。離乳食も5〜6ヶ月からスタートし、炭水化物に十分に慣れさせてから徐々にたんぱく質を与えます。卵など抗原になりやすい食物を与えるのは、月齢がたってからにしましょう。