肛門周辺の静脈がうっ血すると、痔核ができます。食生活をはじめ、生活全般を見直して血行をよくし、清潔を保つようにすれば痔を予防することができます。また、痔ができたとしても改善させることができます。

 

重度の場合には、外科的治療が必要になることがありますが、基本的には各種薬剤の服用や塗布、生活の見直しによって改善を図っていきます。

 

 

痔について

 

痔は肛門病の総称で、成人の3人の1人は痔ではないかともいわれ、場所が場所だけに人知れず悩んでいる人も少なくありません。便秘がちな人、排便時に強くいきむくせのある人、妊婦などは、特に痔になりやすいといえます。

 

痔には大きく分けて3つのタイプがあります。肛門の周囲には静脈の密集している部分(静脈叢)がありますが、ここがうっ血してふくれ上がったものが「痔核」です。痔核はイボのような形をしていることから、「イボ痔」ともよばれています。

 

肛門の粘膜が硬い便なおによって切れてしまったものを「裂肛」(切れ痔)、肛門に膿のでるトンネル(ろう管)ができてしまうものを「痔ろう」(あな痔)といいます。これら3種類のうち、最も患者の多いのが痔核で、痔のうち5〜6割が痔核と考えられています。ここでは、痔核にいついて詳しく取り上げることにします。

 

 

痔の原因

 

人間は痔に悩まされることもありますが、動物は痔になりません。これは陸生の哺乳動物はほとんど4足歩行で生活しているのに対し、人間は2足歩行で暮らしていることと関係があります。立って暮らしていると、肛門は常に心臓より下に位置するため、静脈によって心臓に血液を送り返す際、下から上へ向かうことになり、下に血液がよどみやすいのです。血液がスムーズに流れないと、うっ血して粘膜が膨らみ、切れたり炎症を起こしたりしやすくなります。

 

長時間立ちっぱなしで仕事をしている人や、逆に車の運転やデスクワークなどで、長時間座りっぱなしの仕事をしている人などは、肛門付近にうっ血を起こしやすく痔になりやすいので、特に注意しなければなりません。また、排便時に強くいきむと、静脈が圧迫されて肛門部の静脈がうっ血します。

 

長年こうした習慣を続けていると、うっ血した部分が静脈瘤、すなわち痔核になるのです。からだが冷えるのも、血液の流れを悪くするので痔にはよくありません。長時間プールに浸かったり、クーラーのきいたオフィスなどで過ごす時間が長いと、痔になりやすいので注意が必要です。

 

 

痔の種類と症状

 

痔は、痛まない「内痔核」と、痛む「外痔核」の二つに分類されます。

 

内痔核

肛門は皮膚と直腸がドッキングした場所ですが、その境目を歯状線といいます。歯状線の上、すなわち直腸側にできた痔核を内痔核といいます。直腸側は自律神経の支配下にあるため、内痔核ができても痛みません。直腸静脈叢(ちょくちょうじょうみゃくそう)は直腸の動脈から分岐し、右側に2本、左側に1本あるため、内痔核もその3ヶ所によくできます。ただし、人によって場所が多少違い、うっ血の程度もそれぞれ異なるので、なかには5個も6個も内痔核が出来る人もいます。

 

内痔核はその症状によって、次の4段階に分けられています。

 

第1度痔核は脱出しませんが、出血することはあります。
第2度排便時などに痔核が脱出することはありますが、自然に元にもどります。
第3度排便やスポーツなどで、少しいきむと痔核が脱出し、指で押し込まないと元にもどりません。
第4度痔核が常に脱出したままの状態です。

 

痔核の根元まで肛門の外へと脱出したときに、強くいきんで肛門括約筋を締めると、痔核が元にもどらなくなることがあります。すると、痔核の大きく腫れて激痛を起こします。こうした状態を「かんとん痔核」といいます。

 

外痔核

一方、歯状線より下、すなわち肛門側にできた痔核を外痔核といいます。外痔核はうっ血した肛門静脈叢内に血栓ができ、一種の血豆になったもので、血栓性外痔核ともいい、出血はしません。ただし、この部分は皮膚と同じような性質の場所で、知覚神経も走っているので、ここに痔核ができると、とても痛みます。また、外痔核は内痔核に合併することが多く、内痔核の脱出とともに大きくなるため、内外痔核とよばれることもあります。外痔核も1個だけとは限らず、複数でできることも珍しくありません。

 

痔の種類

痔核(イボ痔)肛門周辺の血液循環が悪くなってできる一種の静脈瘤。肛門の外へ飛び出す(脱出)と不快。疼痛を感じたり、出血することもある。内痔核と外痔核があり、内痔核の場合はあまり痛まないが、外痔核の場合は激痛が走ることも多い。
裂肛(切れ痔)20〜30代の女性に比較的多い。便秘などで便が硬くなると、肛門の上皮が切れて傷になる。数滴の出血をみることもあります。慢性化すると炎症を起こし潰瘍になって激しく痛む。排便が苦痛になるため、ますます便秘になるという悪循環に陥ることがある。
痔ろう(あな痔)男性に多い。肛門腺の出口に便の中の細菌が感染して、肛門周囲膿瘍を起こすと、膿がたまる。この膿を排出しようとして、膿のたまっている場所から肛門周囲の皮膚や肛門粘膜へ、バイパスができる。座るのが苦痛なほど痛み、38〜39℃の熱が出ることもある。

 

痔の疾患をもつ患者は、女性よりも男性に多く、男性は女性の2倍近くにのぼります。痔には大きく分けて上記の3つのタイプがありますが、男女とも痔核が圧倒的に多く、患者の5〜6割を占めています。2位は男性では痔ろう、女性では裂肛となっています。

 

 

痔の検査と診断

 

痔の種類は、問診、触診、視診でほぼ判断がつきます。したがって、初診のときに、症状について自分なりにまとめ、医師に告げるとよいでしょう。ポイントは、痛みの有無、痛む場合はどの程度、出血する場合はどんなときにどの程度出血するのか、痔核が飛び出すことがあるか、腫れやかゆみ、分泌物、便通の状況、職業を含む生活スタイルなどです。

 

  • 痛みの有無
  • 痛む場合はどの程度
  • 出血する場合はどんなときにどの程度出血するのか
  • 痔核が飛び出すことがあるか
  • 腫れやかゆみの有無
  • 分泌物の有無
  • 便通の状況
  • 職業を含む生活スタイル

 

診察の際は、肛門部を医師にみてもらう必要があります。いくつかの体位がありますが、いずれにしても、あまり格好のよいものではありません。しかし、医師も看護婦も毎日たくさんの患者を診察していますから、よけいな心配はしないことです。男性の場合は仰向けになって両足を高く開く”砕石位(さいせきい)”、女性の場合は横向きに寝て膝を曲げて交差する”シムス体位がよく使われています。

 

痔の種類や程度の診断はあまり難しくありませんが、痔とまぎらわしい病気との鑑別は慎重にする必要があります。なかでも大腸がん(特にS状結腸や直腸など肛門に近い部分にがんがある場合)と痔は、どちらも排便時に出血することから、注意しなければいけません。

 

一般に痔では便とは別に血がポタポタと落ちたり、ふいた紙に血がつきますが、大腸がんの場合は、便そのものに血が混じっています。ただし、素人では判別がつきにくいので、医師の診察を受けるようにしてください。

 

 

痔の治療

 

痔の治療には、「保存療法」や「硬化療法」、「手術療法」などがありますが、現在では手術をすることなく治していく方針がとられています。

 

■保存療法

内痔核の第1度、第2度の場合は、手術など外科的治療は必要ありません。生活習慣に気をつけ、抗炎症作用や止血作用のある軟膏または坐薬を使うことで、悪化をくい止めることができます。肛門部を清潔に保ち、決行をよくするために、毎日入浴するようにしてください。食生活に配慮し、適度な運動を心がけて、便通を整えるようにすることも忘れてはなりません。

内痔核で第3度の場合は、まず保存療法を試みて、症状が思わしくないようなら、外科的治療を考えることになります。軟膏、坐薬の外用薬に加え、便を軟らかくする薬(緩下剤)を内服する場合もあります。外痔核の場合も、内服薬や外用薬で炎症を抑え、生活習慣に気をつければ、たいていは痔核が小さくなり、痛みも治まります。外科的手術を考えるのは、それでも痛みがおさまらない場合です。

 

■硬化療法

出血している内痔核の場合、5%のフェノールアーモンド油を粘膜下に注射すると、出血が止まり、また痔核もしだいに硬く萎縮していきます。外来で行うことのできる簡便な治療法で、第1度、第2度の内痔核に有効ですが、第2度の場合は、数年後に再発するケースが少なくありません。

 

■手術療法

かつて、痔の手術は術後に大変痛んだため、「手術だけはいやだ」という人が今でも少なくありません。しかし、最近は手術法が進歩したので、かつてほどの痛みはなく、治りも早くなりました。痔核とつながっている静脈を縛り、痔核を舟形に切り取る結さつ切除術が一般的です。術後の傷を溶ける糸で縫う”半閉鎖術”を行うと、術後の痛みも少なく、傷もきれいに治ります。

 

 

痔の予防法

 

痔核は肛門付近の血行をよくすることで予防できます。まず、長時間同じ姿勢をとり続けないようにすることが大事です。仕事がら立ちっぱなし、座りっぱなしになりがちな人は、ときどき軽い体操をするなど工夫してください。腰の冷える状況も痔にはよくありません。クーラーのきいたオフィスで仕事をしている人は、直接クーラーの風が当たらないように工夫したり、下着を重ねるなど工夫が必要です。

 

入浴は血行をよくするとともに、肛門の清潔を保つためにも必要です。お風呂はできるだけ毎日入るようにしましょう。洗面器にお湯をため、お尻だけつかる座浴も悪化防止に効果的です。食生活に配慮し、便通を整えることも予防には欠かせません。特に痔核に悩む人は、便秘がちな人がとても多くなっています。野菜、果物、海藻類など食物繊維の豊富な食べ物を意識して積極的に食べるようにするとよいでしょう。

 

便が硬いとき、トイレで強くいきむのもよくありません。和式のトイレよりも洋式のトイレのほが、いきまずに排便できます。また、温水で肛門部を洗浄するシャワー式トイレは、清潔を保つのに有効です。

 

  1. 座りっぱなし、立ちっぱなしなど、同じ姿勢を続けない。
  2. 硬い椅子には座布団を敷く。
  3. 腰を冷やさないようにする。
  4. 毎日の入浴を欠かさない。
  5. アルコールや香辛料のきいた刺激物は控えめにする。
  6. 食物繊維の多い食事をとる。
  7. 規則正しい生活で、同じ時刻に排便する習慣をつける。
  8. なるべく洋式のトイレを使う。
  9. トイレでは強くいきまない。
  10. 肛門付近を清潔に保つ。ただし、排便後、紙で強くふきすぎないようにする。

 

痔核はよくみられる病気ですが、軽度なら生活上の注意だけで治療することができます。内痔核はほとんど痛みませんが、生活習慣を改めることなく放置すると、症状は悪化し治療も難しくなり、手術が避けられなくなります。恥ずかしがらずに相談し、一番適した治療を早めに行いましょう。