緊張や対人恐怖(笑顔恐怖)による顔のひきつりではなく、常に顔がひきつる場合、顔の筋肉が動かない(一部含む)場合は「顔面神経麻痺」の疑いがあります。

 

特に30や40代以降の方に、以下のような症状があれば「顔面神経麻痺」の可能性が高く、場合によっては完治に長い年月がかかることもあります。

 

■ヘルスチェック~こんな症状に注意!

・耳の後に痛みがありますか?
・顔にしびれがありますか?
・洗顔のときに、石鹸が目にしみませんか?
・まぶたをしっかりと閉じられますか?
・口笛をうまく吹けますか?
・聴覚が過敏になっていませんか?
・口から食べ物がこぼれ落ちませんか?

 

顔面神経麻痺とは

 

顔面神経の支配領域に麻痺が現れる

 

神経系は、脳や脊髄の中枢神経と、そこから出ている末梢神経に分類されます。顔面神経麻痺は、顔の表情筋を支配している末梢神経である顔面神経が支障をきたし、その支配領域の運動がきちんとできなくなるケースを指しています。

 

末梢神経はその役目から、遠心性の運動神経と、求心性の感覚神経に分かれます。中枢からの指令を筋肉に伝えるのが運動神経です。私たちが自分の意思でさまざまな動作を行うことができるのは、運動神経がきちんと作動して筋肉が動くからです。

 

顔の表情をつくりあげているのも、運動神経と筋肉です。顔面や頭部には多数の筋肉が分布し、表情を豊かにして、また咀嚼やまぶたの開閉などを可能にしています。

 

顔面の筋肉などを支配しているのが、脳から出ている12対の末梢神経で、脳神経とよばれています。脳神経のうち、例えば動眼神経は眼球の動きにかかわり、三叉神経は咀嚼を行うこう筋を支配しています。

 

嗅神経、視神経、聴神経は、それぞれ嗅覚、視覚、聴覚の伝達路として働いています。表情筋は、脳神経のなかの顔面神経に支配されています。脳の指令を受けて、顔面神経を介して筋肉が収縮・弛緩し、顔の表情をつくりあげます。

 

この顔面神経の運動線維が、圧力や切断など何らかの障害を受けると、運動神経としての働きが低下したり、あるいは脱落してしまいます。筋肉の緊張が失われると、顔面の筋肉の随意運動ができなくなります。つまり、自分の意思で表情をつくることができなくなるのです。これが末梢性顔面神経麻痺です。

 

 

種類と原因

 

中枢性と末梢性に分けられる

 

顔面神経麻痺を引き起こす要因は、実にさまざまです。原因となる外傷や基礎疾患があって麻痺を生じているケースと、特に原因となる病気がないのに、麻痺が単独で現れる特発性のケースがあります。

 

また、中枢神経である脳や脳幹に何らかの病変がある場合と、そこから出ている末梢神経に障害がある場合とに分けられて考えられています。

 

中枢性の神経麻痺

脳や脳幹の病気、あるいは顔面神経核よりも上方に障害が起こったときに現れるケースを中枢性顔面神経麻痺といいます。

 

大脳の運動野から脳幹の延髄に至り、錐体交差をして反対側に向かう中枢ニューロンに、腫瘍や炎症などの病気がダメージを与えるのです。具体的には、脳卒中、脳腫瘍、脳炎などの病気や、そのほかの脳内の病変があると、中枢性顔面神経麻痺が引き起こされます。

 

脳卒中は、脳の血管に起こる発作の総称です。脳の血管が破れて出血する脳出血と、脳に血栓がつまって虚血を招く脳梗塞とに大別されます。脳卒中の発作後、または後遺症として、しばしばからだに運動麻痺が起こるのは、大脳皮質に局在する運動中枢が障害を受けるためです。

 

運動の司令塔が支障をきたしてしまうと、障害を受けた反対側が運動麻痺(片麻痺)になってしまうのです。脳腫瘍は、頭蓋内に生じた腫瘤の総症です。

 

良性のものと悪性のものとに分類できますが、どちらにしても、脳に大きなダメージを与えるので、原則として外科的治療が行われます。脳に腫瘍があると、脳卒中と同じように片麻痺を招くケースがあります。

 

脳炎は、多くはウイルス感染によって脳が炎症を起こす病気です。片麻痺を招くケースがみられます。中枢性顔面神経麻痺は、中枢性麻痺の一症状で、単麻痺、片麻痺、交代制片麻痺といったかたちで現れます。

 

単麻痺というのは、大脳皮質の運動中枢、またはその近くに小さな障害があるとき、顔面、上肢、あるいは下肢の一局部にだけ麻痺が起こるものです。

 

片麻痺は、脳出血、脳梗塞、脳腫瘍、髄膜炎、脳炎などによってからだの片側だけに麻痺が現れる状態です。顔面、上肢、下肢とも同じ側に麻痺が現れます。いわゆる半身不随の状態です。

 

交代性片麻痺は、脳幹に障害があって現れるもので、頭部の片側の脳神経麻痺と、反対側の上肢、下肢の麻痺が起こるものです。

末梢性の神経麻痺

末梢神経性麻痺は、脳・脊髄から出て、からだのすみずみにまで張りめぐらされている末梢神経が障害を受けて起こる運動麻痺の総称です。

 

末梢神経には、それぞれに支配している領域があります。ある末梢神経が障害を受けると、その支配領域の筋肉に運動麻痺が生じます。

 

一般に、末梢神経に障害をきたして、麻痺やしびれ、痛み、筋力低下などの神経症状が引き起こされるケースを、末梢神経障害(ニューロパチー)と総称しています。

 

特発性の顔面神経麻痺は、ニューロパチーの一病態としてとらえられます。ニューロパチーを障害の分布で分類すると、単発性末梢神経炎と多発性単神経炎、多発性神経炎に分けられます。

 

末梢性顔面神経麻痺の原因疾患としては、帯状ヘルペス感染、ギラン・バレー症候群、糖尿病、頭蓋底部の病変、サルコイドーシス、ライム病、耳炎、乳様突起炎、骨折などがあげられます。

 

帯状ヘルペスは、水疱(水ぼうそう)にかかったときに感染したウイルスが長い期間潜伏していて、末梢神経に沿って再び活性化したものです。

 

サルコイドーシスは、リンパ節や肺、心臓、目、皮膚などに良性腫瘍ができる病気で、原因は不明です。原因で分類すると、次のように分けられます。

 

[捕捉性ニューロパチー]

末梢神経自体が機械的に損傷を受けたり、圧迫されたりして起こる神経障害です。主症状は麻痺で、機械的神経障害ともよばれます。障害を受けた神経によって、さまざまな部位に麻痺を引き起こします。

 

腕を走る”とうこつ神経”が障害を受けると、手首の筋肉の麻痺を生じます。正中神経では、主に母指の運動麻痺を招きます。また、尺骨神経麻痺では、手指の運動が困難になります。足を走る”ひこつ神経”や”けいこつ神経”が障害を受けると、歩行に支障をきたします。

 

顔面神経の障害によって、顔面に運動麻痺が現れるのが末梢性顔面神経麻痺です。これは脳神経の領域で現れる麻痺のなかでも、最も頻度が高いものです。末梢性顔面神経麻痺の大半は、原因不明の特発性のものです。イギリスの神経学者の名前に由来してベル麻痺ともよばれています。

 

ベル麻痺の引き金になるのは、寒冷刺激、過度の飲酒、精神的ストレス、過労などです。顔面神経に酸素と栄養を供給する血管が細くなって、筋肉が十分な酸素と栄養を受け取ることができなくなり、障害が起こるとする説もありますが、まだ不明な点が多いようです。

 

[代謝性ニューロパチー]

代謝内分泌異常が原因で起こる末梢神経障害で、顔面神経麻痺を招くことも少なくありません。代表的なものは、糖尿病性末梢神経障害です。

 

糖尿病は、インスリンの作用不足によって血液中のブドウ糖をうまく利用することができず、血液中にブドウ糖が余ってあふれてしまう病気です。インスリン非依存型糖尿病は、生活習慣病の典型といえるでしょう。

 

血糖コントロールをしないと、さまざまな合併症を引き起こします。多発性神経炎も合併症の一つです。両手足の先、特に下肢の末端部に麻痺や痛みなどが現れます。麻痺が顔面に現れるケースもみられます。

 

代謝性ニューロパチーを招く疾患としては、ほかに尿毒症、ビタミン欠乏症、甲状腺機能低下症、末端肥大症などがあげられます。まれにですが、これらが顔面神経麻痺を引き起こすことがあります。

 

[感染症・感染後ニューロパチー]

感染症にかかったとき、あるいは感染症が治った後に現れる末梢神経障害です。顔面神経麻痺を引き起こすのもとしては、ギラン・バレー症候群があります。感染後多発性神経炎ともいわれ、免疫がかかわる遅延型の過敏症と考えられていますが、はっきりとした原因は今のところ不明です。

 

手足のしびれや下肢の脱力、筋力や感覚の低下などの症状に加えて、目が動かしづらくなったり(動眼神経麻痺)まぶたを閉じる力が弱まるといった顔面筋の麻痺症状を併発することがあります。

 

この病気は、急に発症して2週間ほどで、神経症状がピークに達し、その後数週間から数ヶ月の間に、たいていは自然に回復します。対処療法を続けながら、回復を待ちます。

 

このほかに慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデスといった膠原病などに伴う血管性ニューロパチー、悪性腫瘍に伴うニューロパチー、中毒性ニューロパチー、遺伝性のニューロパチーなどがあります。

 

 

顔面神経麻痺の症状

 

 

末梢性顔面神経麻痺に特徴的な現象

 

特発性の末梢性顔面神経麻痺であるベル麻痺の症状と経過は次のようなものです。ベル麻痺は、突発的に顔の左右どちらかに現れるのが特徴です。

 

前駆症状として、麻痺が現れる側の耳の後ろの痛みを覚えることがありますが、たいていは何の前兆もなく、突然に顔面の片側の筋力が低下し、運動麻痺が起こります。

 

目を閉じても上まぶたが十分に下がらず、下まぶたが上がらないため、眼球結膜(白目)が見えたままになり、兎眼(とがん)とよばれています。顔を洗う時に、目の中に水が入ってしまいます。

 

まぶたを無理に閉じようとすると眼球が上方に回転し、白目だけになってしまいます。黒目が上まぶたに隠れてしまい、ベル現象とよばれています。

 

麻痺した側の口角がただれた状態になるために、よだれが出たり、食べ物や飲み物がこぼれやすくなります。麻痺側では口を閉じる力も弱くなり、パ行やマ行の発音が、息がもれてしまってうまくできなくなります。

 

額にしわをつくろうとしても、麻痺側にはしわがつくれません。麻痺側の舌の前方3分の2に、味覚障害が起こるケースもあります。また、聴覚敏感、唾液分泌障害、涙腺分泌障害を伴うこともあります。

 

これらの症状は、脳神経の一つである顔面神経が、顔面の筋肉だけでなく、涙腺や内耳の筋肉、顎下腺(がくかせん)、舌下腺にも関わっているために現れるものです。中枢性顔面神経麻痺の場合、前額部の運動麻痺はほとんど起こらないのが末梢性との大きな相違点です。

 

 

顔面神経麻痺の検査と診断

 

電気生理学的検査で麻痺を判別

 

口をとがらせたり口笛を吹くこともできなくなり、目をしっかりと閉じることも困難になるので、視診である程度の察しはつきます。

 

まず、顔面神経麻痺が末梢性のものか中枢性のものか、さらには捕捉性ニューロパチーによるものか、ほかの病気によって引き起こされているものかを診断します。

 

運動麻痺症状が顔面だけに現れていて、ほかに神経症状がみられないときは、ベル麻痺が疑われます。前額部筋に麻痺がないときは、中枢性顔面神経麻痺の可能性があります。

 

症状を分析することで、顔面神経のどのあたりに障害があるのか推察されます。例えば、舌の前方で味覚障害が起こっている時は、鼓索神経と膝状神経節との間にトラブルが生じていることを示唆しています。

 

検査としては、まず電気生理学的検査があり、筋電図検査と末梢神経伝達速度測定があげられます。ベル麻痺では、電気生理学的検査によって、病気の程度や予後の判定を行います。ウイルスに対する抗体価や血液生化学検査、涙の分泌や味覚の検査なども、必要に応じて行われます。

 

基礎疾患がある場合には、まず病気の治療方針をたてることが先決です。中枢性顔面神経麻痺が疑われるときは、さらに脳や脳幹のさまざまな検査が行われます。

 

 

顔面神経麻痺の治療

 

無治療でも改善するケースがある

 

特発性の末梢性顔面神経麻痺の治療は急性期に短期間、副腎皮質ホルモン剤を投与する薬物療法が効果を上げます。ただし、まったく治療をしなくても改善されるケースがあるので、副作用を考慮すると、ステロイド治療については意見が分かれています。

 

しかし、副腎皮質ホルモン剤を用いることによって症状をより早く取り除くことができるので、社会生活の面からみれば有効な治療法といえるでしょう。発症後、出来るだけ早く投与を開始する方が効果的です。

 

軽度の時には、ビタミン剤や血管拡張剤の投与で完治するケースもあります。兎眼がある場合には、角膜が乾燥しないように眼帯を着用します。また、点眼薬が併用されることもあります。

 

理学療法は、初診時から開始されます。これは顔面マッサージで、家庭でも続けることができるので、積極的に行うようにしましょう。

 

こうした治療によって、末梢性顔面神経麻痺の70%くらいは完治します。14〜15%に軽い麻痺が残り、あとは慢性型に移行するとされています。

 

慢性期の治療は、ビタミンB複合剤の投与と理学療法が中心となります。中枢性顔面神経麻痺の場合は、原因となっている疾患の治療を行うことが第一です。特に脳の疾患は非常に危険な事態を招くことがあるので、すみやかに医療機関で適切な処置を受ける必要があります。

 

 

顔面神経麻痺の予防

 

生活習慣の見直しも大切

 

ベル麻痺の原因については、まだ不明の点も多く、しかも突発的に起こるのが特徴なので、予防はなかなか難しいといえます。ただし、誘因を遠ざけることで、結果として発症を遠ざけることはできます。

 

ベル麻痺の大きな誘因としては、まず寒冷刺激があげられます。例えば、クーラーの冷気が顔の半分にあたっていたり、車の窓を開けて顔に風を受けて走っていたといったことでも麻痺が引き起こされます。

 

前兆がほとんどないので、なかなかやっかいです。飲酒や過労が引き金になることもあります。顔面に運動麻痺症状が現れたら、なるべく早く神経内科を受診しましょう。近くに神経内科がみつからない場合は、耳鼻咽喉科、脳神経外科、あるいは一般内科でも結構です。

 

 

ストレスをためないことが大切

 

神経系の病気には、ストレスの関与も見逃せません。特に原因がよくわからないベル麻痺の場合、肉体的・精神的ストレスが誘因の一つとなっている可能性が十分に考えられます。

 

ストレスは、自律神経をはじめ、神経系に負担をかけ、からだのさまざまな機能が影響を受けます。

 

ベル麻痺は、治りにくい病気ではありません。適切な処置を受け、積極的に理学療法に取り組む姿勢が大切です。日常生活の中から、ストレスや不規則な生活習慣などの誘因を遠ざけて、再発を防ぎましょう。