喉がイガイガする程度では、食道の病気は考えにくく、風邪などの他の病気の併発症状であることが多いものの、①朝起きた時に胸やけする、②食事のときに飲食物が胸につかえるような感じがする、③胸のあたりが痛む、④たくさん食べようとすると吐いてしまう(逆流する)、⑤つかえ感や胸やけ、⑥しみる感じ、⑦胸痛、などの症状がある場合には、食道の病気かもしれません。

 

食べたものは必ず食道を通るものなので、食道の病気になると日常生活、特に食生活に大きく影響してきます。早期発見によって治療期間は大きく短縮し、すぐにこれまでの日常生活・食生活に戻ることができますので、何かしらの異常がみられる場合には、できるだけ早く病院へ受診しましょう。

 

 

食道の病気の概要

 

食道の内腔は、通常は閉じた状態にありますが、食物がはいってくると直径3cmくらいまで広がり、食物が通過した後は再び元の状態に戻ります。このような、食物を口から胃へ送る働きを食道の蠕動運動といいます。

 

食道の蠕動には、第一次蠕動波、第二次蠕動波、第三次蠕動波があり、食物は主として第一次蠕動波によってさらに奥へと運ばれます。第三次蠕動波は、正常な食道にはみられない異常な蠕動運動で、逆流性食道炎などで生じます。

 

食道の入り口にあたる食道入り口部と、食道と胃の境目である食道胃接合部の2ヶ所は食道高圧帯(食道括約帯)とよばれ、ほかの部位よりも強くしまっていて、食物や胃液の逆流を防いでいます。また、食道の粘膜には食道粘液腺があり、分泌された粘液は、飲み込んだ物等から粘膜を保護する働きをしています。

 

食物の通り道である食道には、さまざまな病気が起こります。蠕動運動に異常が起こったり、食道が狭窄して蠕動運動が妨げられると、つかえ感が現れます。また、食道粘膜にただれや潰瘍が生じた場合は、胸やけが起こったり、物を飲み込んだときにしみるような感じがします。

 

食道アカラシア、食道裂孔ヘルニア、逆流性食道炎、食道憩室、平滑筋腫といった食道の良性疾患による症状は、食道がんと区別しにくいことが多いものです。また、食道がんを合併するケースもみられるので、つかえ感、胸やけなどの症状が現れたら、早めに消化器の専門医の診察を受けてください。

 

 

食道の病気の種類と原因・症状

 

食道の病気には、運動の異常によって起こるものや、形態の異常によるものなどがあり、原因や病態がさまざまで、治療法や予防法も異なります。

 

食道アカラシア

食道アカラシアは、第一次蠕動波が消失して、下部食道括約帯が開かなくなる病気です。下部食道括約帯は、食物が送られてくると自然に広がって、食物を胃に通す働きをしています。しかし、括約帯が十分に開かなくなると食物が胃に送り込まれず、食道にたまっていきます。そのため、通常は最も太い部分で直径3cmほどの内腔が、5〜6cmくらいに拡張します。

 

食道アカラシアは、食道の蠕動運動を支配している神経が損傷されることで起こると考えられています。損傷の原因にウイルスの感染やストレスなどが推測されていますが、まだはっきりと原因が分かっているわけではありません。

 

食道アカラシアの最も一般的な症状はつかえ感で、ほとんどのケースに現れます。拡張した食道内にたまった食物が、食事中や食後に口へ逆流したり、睡眠中に気管内へ入って気管支炎や肺炎を繰り返します。約3分の2の患者は、主に発症初期に、胸骨の裏側に痛みを感じることもあります。

 

食事が十分にとれないためにやせてきたり、栄養障害を招くケースもみられます。食道の運動異常による病気としては、このほか、食道が痙攣を起して食べたものを吐いてしまうびまん性食道けいれんなどがあげられますが、まれにしかみられません。

 

食道裂孔ヘルニア

食道は、食道裂孔という横隔膜の穴を通って腹腔内に入り、胃につながっています。食道裂孔ヘルニアは、食道裂孔から胃の一部が食道のほうにはみ出した状態を指します。肥満のために腹圧が高くなったり、加齢によって筋肉が衰えてくると、食道裂孔が広がって発症しやすくなるとされています。

 

食道裂孔ヘルニアは滑脱型と傍食道型、両方の混合型の3つのタイプに分けられます。最も多くみられるのが滑脱型で、食道裂孔ヘルニアの約80%を占めています。

 

滑脱型ヘルニアを起すと、下部食道括約帯が横隔膜の上に移動して、食堂の逆流防止機能が機能しなくなり、逆流を招きやすくなります。約半数のケースは特に症状が現れず、治療の必要もありませんが、胸やけが生じたり、胃液がこみあげる場合は、薬物療法や手術が行われます。

 

傍食道型ヘルニアでは、食物の通過障害を招いたり、胸腔内にはみ出した胃の部分が血行障害を起すことがあるので、ほとんどの場合、手術が必要になります。

 

逆流性食道炎

胃や十二指腸の内容物が食道へ逆流するために起こる病気で、食道逆流症とよばれることもあります。食生活の変化や高齢化の進展に伴って、近年増加傾向がみられます。

 

胃や十二指腸の内容物の逆流は、食道裂孔ヘルニアや肥満、便秘などによって、下部食道括約帯の逆流防止機能がきちんと働かなくなったり、胃の内容物を十二指腸へ送り出す運動が低下したときに起こりやすいとされています。また、胃の切除手術の後にも生じやすいものです。

 

正常な食道には、逆流した消化液や内容物を胃のほうへ送り返す機能が備わっています。しかし、逆流性食道炎を起すケースではこの機能が低下しており、消化液などが長時間食道粘膜に接触するため、粘膜が損傷されると考えられています。さらに、食道粘膜から分泌される粘液の量が少なくなると、逆流した消化液による障害が起こりやすくなります。

 

食道炎には、このほか、強い酸やアルカリを含んだ薬品の誤飲によって食道がただれる腐食性食道炎や、食道粘膜に細菌が感染する細菌性食道炎があります。薬を服用する際、十分に水分を飲まなかったために、薬が食道にとどまったまま溶けて粘膜の炎症を招く薬剤性食道炎も少なくありません。

 

パレット食道

扁平上皮という組織でできている食道下部の粘膜が、胃や腸管に類似した円柱上皮といわれる組織に変化した状態をパレット食道といいます。胃・十二指腸の内容物の逆流を繰り返すうちに発症すると考えられており、逆流を起すケースの10%程度にみられます。従来、日本人には少ない病気でしたが、逆流性食道炎の増加に伴って、今後患者数が増えてくることも考えられます。

 

食道憩室

食道壁の一部が半球状や袋状に、外に向かって突出した状態をいいます。発生部位によって、のどのすぐ下に生じる咽頭食道憩室(ゼンガー憩室)、食道の真ん中あたりに生じる傍気管憩室、および横隔膜のすぐ上にできる横隔膜上憩室の3タイプに大別されます。

 

また、発生の仕方で、食道の内圧が高まった時に食道壁の弱い部分が突出する圧出性憩室と、食道の周囲で起こったリンパ節炎などが治る際に、炎症部位と食道壁がくっついて外側へ引っ張られて、突出が生じる牽引性憩室に分けられますが、詳しい原因はわかっていません。

 

突発性食道破裂

食道の内圧が急激に上昇して、食道壁が破裂する病気です。多くの場合、暴飲暴食後の激しい嘔吐によって引き起こされます。まれに重いものを持ち上げたり、出産や排便によって腹圧が高まったときなどにも生じます。激しく嘔吐した後に胸痛や腹痛が現れたときは、突発性食道破裂の可能性があります。ほとんどの場合、破裂が胸腔にも達し、呼吸困難や頻脈を起したり、ショック状態に陥るケースもみられます。

 

食道の良性腫瘍

食道の良性腫瘍の大部分は平滑筋腫ですが、ほかにもポリープやのう腫などがあります。平滑筋腫は、食道の壁や血管壁を構成する平滑筋に発症する良性腫瘍です。球状あるいは塊状をした硬いしこりのような腫れもので、断面は灰白色をしている点が特徴です。進行は遅いものの、多発する傾向がみられ、ときに巨大化することもあります。

 

 

食道の病気の検査と診断

 

食道の病気が疑われるときは、上部消化管X線造影検査や上部消化管内視鏡検査が行われます。X線造影検査では、造影剤のバリウムを飲みながら、同時にX線撮影を行います。X線造影では、食道の運動の状態、胃の内容物の逆流の有無、狭窄の有無や部位などがわかります。

 

食道炎の重症度の判定、食道がんとの鑑別、がんの早期発見のためには内視鏡検査が必要です。内視鏡検査は食道粘膜の状態を調べるのに適しています。食道炎による粘膜の変化、潰瘍や狭窄の有無とその程度のほか、病変が悪性か良性であるかといったことが明らかになります。

 

がんとの鑑別のために、食道粘膜の組織の一部を採取して顕微鏡で調べる生検が行われる場合もあります。このほか、必要に応じて食道内圧測定、PH(水素イオン指数)測定が行われることがあります。

 

食道内圧測定は、下部食道括約帯のしまり具合や食道の運動を調べる検査で、食道アカラシアの診断に不可欠です。PH測定では、胃液の逆流の間隔や回数のほか、十二指腸から消化液が逆流しているかどうかを確認することができます。

 

 

食道の病気の治療

 

主に薬物療法ですが手術が必要なことも治療法はそれぞれの病気によって異なります。

 

食道アカラシア

食道アカラシアの治療の主眼は、下部食道括約帯の通過状態の改善です。治療法は症状によって選択されますが、最も確実な方法は手術です。薬物療法やバルーン拡張法が行われることもあります。

 

薬物療法では、カルシウム拮抗薬などが処方されますが、あまり高い治療効果は得られません。バルーン拡張法は、バルーンを膨らませて、下部食道括約帯の筋肉を伸展させることで、食道の通りをよくします。拡張術を3〜4回繰り返すと症状が改善しますが、約半数のケースでは手術が必要となります。

 

手術では、下部食道括約帯の筋肉を縦に切開し、通過障害を解消する方法がとられます。胸腔鏡や腹腔鏡を利用して、開胸や開腹をせずに、体表に手術器具を挿入するための小さな孔をあけるだけですむ方法も普及してきました。

 

食道裂孔ヘルニア

無症状の場合は、特に治療の必要はありません。ただし、食道裂孔ヘルニアの人は逆流性食道炎を起しやすいので、食後すぐに横にならない、就寝前に物を食べない、就寝時は背中の下に枕などを入れて上半身を20cmほど高くする、低脂肪で高たんぱくの食事をとるといったことを心がけましょう。

 

逆流性食道炎

重症の場合は、食道狭窄や出血、パレット食道といった合併症を招きます。食道裂孔ヘルニアと同様生活上の注意を守り、薬物療法を行えば、ほとんどのケースは軽快します。薬物療法では、制酸剤や粘膜保護剤、消化管運動改善剤、消化性潰瘍治療剤などが使用され、特にプロトンポンプ阻害剤は高い治療効果を上げています。ただし、薬物療法を中止すると半年以内に約8割の人に再発がみられるので、若い人や全身症状のよい高齢者などでは、早期に手術による根本的な治療の検討が行われます。

 

パレット食道

しばしば食道がんを合併しているため、食道の組織を採取して顕微鏡で調べる生検を行い、がんの前駆症状が現れていたら、定期的な経過観察が必要となります。

 

食道憩室

食道憩室ができていても。多くは無症状で、特に治療の必要はありません。憩室が大きくなって、飲み込んだ飲食物がつかえたり、炎症を起こして食道壁に孔があく危険が考えられるケースでは、合併する運動機能の異常への対応も含めた治療が必要となり、手術が適応されることもあります。

 

特発性食道破裂

診断や治療が遅れると、生命にかかわる危険があるので、早期に破裂部位の縫合手術が行われます。

 

食道の良性腫瘍

症状が現れないうちは、定期的な検査によって経過の観察が行われます。通過障害を起すようになったり、腫瘍の悪性化が疑われる場合は、切除手術が適応されます。

 

 

食べ物の逆流を防ぐように注意する

 

胃液が食道に逆流すると、病気の発症や悪化を招くので、胃液の逆流を起さないように工夫することが大切です。睡眠時は、上半身を高くした姿勢で寝るようにすると逆流を防ぐことができます。食後すぐに横になると逆流を起しやすいので、食後2〜3時間以降に就寝するようにしましょう。

 

また、肥満ぎみの人は腹圧が上がり、逆流が起こりやすくなるので減量が必要です。栄養価の高い食品を、のどごしのよい調理法でとるようにするなど、食事内容に気を配ることも大切です。