子宮内膜症の症状は、病巣の発生部位と進行度によって異なってきますが、おおむね、疼痛や不正出血、不妊などの症状がみられます。疼痛とは月経痛、下腹痛(慢性骨盤痛)、性交痛、腰痛、肛門痛、排便痛などのことを言います。

 

これらの疼痛は初期には月経時のみですが、進行すると月経とは関係なく認められ、日常生活に支障をきたすことが多いのが実情です。それぞれの疼痛を詳述すると同時に、プロスタグランジンなどの疼痛の発生機序についての最近の知見を以下に示します。

 

 

子宮内膜症の症状

 

子宮内膜症の症状は、病変部位や進行度によって異なり、まれな症状も含めれば以下に示すように極めて多岐にわたります。

 

子宮内膜症は一般的には骨盤内に病変がほとんどですが、まれに骨盤腔外臓器にも広がることがあり、この場合には以下に示すように消化器、尿路、あるいは呼吸器症状などが現れることもあります。

 

骨盤痛月経痛(月経困難症)、性交痛、下腹部痛、腰痛
月経異常過多月経、月経不順、不正出血
消化器症状腹痛、排便痛、下血、便秘、下痢
尿路症状頻尿、排尿痛、血尿
呼吸器症状気胸、血痰、胸痛
そのほか不妊、皮膚腫瘤・臍、(膣・外陰部、筋・骨格系、神経、リンパ節など)

 

 

子宮内膜症の随伴症状

 

子宮内膜症の随伴症状を以下に示しますが、最も頻度が高いのは月経困難症(月経痛)です。毎月、激しい月経痛だけでも耐え難いですが、さらには月経時以外にも性交痛、排便痛、下腹部痛、腰痛、などの痛みを訴え、子宮内膜症の患者さんを悩ませています。

 

症状子宮腺筋症(%)子宮内膜症(%)両者の合併(%)
月経痛41.251.962.3
月経過多49.423.447.2
下腹部痛34.130.537.7
不妊5.953.926.4
不正出血27.113.017.0
腰痛8.213.013.2
性交痛1.25.20

日本産婦人科医会 日母研修ノートNo44より引用・一部改変

 

症状①「月経困難症(月経痛)」

月経困難症(月経痛)は子宮内膜症の代表的な症状で、月経期間中に、月経に随伴して起こる病的な症状を言います。下腹痛、腰痛などの疼痛が主な症状ですが、その他に吐き気や下痢、脱力感、イライラ、憂鬱、などの多彩な症状が認められる場合もあります。

 

■原発性(機能性)月経困難症と続発性(器質性)月経困難症

月経困難症は原発性(機能性)月経困難症と、続発性(器質性)月経困難症に分類されます。

原発性月経困難症とは、子宮をはじめとする骨盤腔内臓器に疼痛の原因となる器質的病変が認められない月経困難症を言います。続発性月経困難症とは、器質性月経困難症とも呼ばれ、疼痛の原因となる器質性病変が骨盤腔内に存在する月経困難症を言います。

続発性月経困難症の原因となる器質性疾患を以下に示しますが、このうちで月経困難症の激しいのは子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫です。

 

続発性(器質性)月経困難症の原因
腹膜
  • 子宮内膜症
  • アレン・マスターズ症候群
  • 骨盤うっ血症候群
卵巣
  • 卵巣嚢腫または腫瘍
卵管
  • 骨盤内炎症性疾患(悪性・慢性)
子宮
  • 子宮腺筋症
  • 子宮内膜症
  • 子宮筋腫
  • 子宮ポリープ
  • 子宮内癒着(アッシャーマン症候群)
  • 先天奇形(双角子宮、中隔子宮)
  • 子宮内避妊器具
子宮頸管
  • 狭窄
  • 無孔処女膜(処女膜閉鎖)
  • 腟中隔

 

■子宮内膜症による月経困難症(月経痛)の特徴

  • 子宮内膜症による月経痛は通常の月経痛と比較して持続期間が長く、疼痛程度も激しいことが一般です。しかし、必ずしも激しい月経痛を伴わない症例もあります。
  • 子宮内膜症は慢性進行性病変であるために、月経痛は初経後数年は認められず、少なくても5年以上経過してから発症し、年齢とともに増悪する傾向を示す。
  • 子宮内膜症においては、内診時に癒着のために子宮の可動性が制限されたり、圧痛を伴う硬結を触知することもある。
  • 子宮内膜症による疼痛は通常片側性あるいは両側性で深い部分にあり、大腿全面に放散する腰痛を訴えることもある。
  • 疼痛は月経時のみ認められるのが一般的。しかし、子宮内膜症が進行すると、月経とは無関係に疼痛が認められ、常に痛みを感じ特に月経時に疼痛が増強する症例もある。
  • 子宮内膜症の進行程度と疼痛は必ずしも相関しないとの報告がある。初期であるのに激しい月経痛を呈することもあれば、癒着の強い症例でもその割に月経痛がひどくない場合も。病気の進行度と自覚症状が一致しないことがある不可解な疾患である。

 

症状②「性交痛」

性交痛は円滑な性生活を妨げ、子宮内膜症に対する理解が無ければ、夫婦不和の一因ともなりえます。痛みに対する理解が重要です。性交痛は、子宮内膜症病変がダグラス窩や仙骨子宮靱帯(子宮後面の子宮を支える靱帯)に存在する場合に発生します。しかも、後屈子宮に起こりやすいとされています。

 

癒着によってダグラス窩が完全に閉鎖された、いわゆる凍結骨盤(骨盤内臓器が癒着によって一塊となっている状態)となっている場合などは、瘢痕化した骨盤腹膜の伸展や牽引も性交痛の原因の一つとなります。

 

このようなダグラス窩などの病変部位に男性性器によって直接圧迫刺激が加わることによって痛みが発生します。したがって、刺激が加わらなければ痛みは起こりません。つまり、性交時の体位に関連し、ダグラス窩などの病変部位が刺激されないような体位(浅い挿入)の場合には痛みを感じません。

 

深く挿入しダグラス窩などが刺激されると激しい痛みを感じます。特定の体位によってのみ痛みを感じるために軽度の性交痛は看過されやすいのが実情です。このような痛みは内診時にも認められ、診断の一助になります。

 

性交痛は黄体期、特に月経前に最も強くなります。性交痛は単独で認められることはほとんど無く、多くは月経痛を合併します。また、性交痛のある患者さんでは月経時の排便痛を訴えることもあります。

 

症状③「排便痛」

子宮内膜症病変が大腸および直腸、あるいは直腸腟中隔に存在すると、月経前から月経時期に排便痛が認められます。排便痛は性交痛とともに子宮内膜症特有な症状とも考えられるために問診が重要になります。以下に示す腸管子宮内膜症も参照して下さい。

 

症状④「骨盤腔外の子宮内膜症の症状」

子宮内膜症は骨盤腔内病変が主ですが、まれには骨盤腔外にも発症し、実際に身体のほとんどの部位での子宮内膜症の発症が報告されています。これらの骨盤腔外の子宮内膜症の症状は月経周期と関連した疼痛、出血、臓器障害であり、それぞれの病変部位特有な症状を呈します。

 

以下の疾患は極めてまれな疾患で、まず最初に考えなければならないものではありませんが、月経周期との関連が診断のポイントで問診が重要になります。

 

■胸郭内の子宮内膜症

胸郭内の発生場所により胸膜・横隔膜子宮内膜症と肺実質の子宮内膜症に分類されます。胸膜・横隔膜子宮内膜症は気胸を起こすために胸痛、呼吸困難が主症状です。

月経に関連して気胸が発生するため、月経随伴性気胸と呼ばれています。気胸はほとんど右肺に起こるのが特徴で30〜40歳代に多く認められます。排卵を抑制することによって予防できるとの報告もあります。

気胸の原因としては先天的あるいは子宮内膜症病変によって横隔膜、胸膜に欠損孔が生じるためと考えられています。また子宮、卵管を経由して腹腔内に空気が取り込まれることもあります。この腹腔内の空気が横隔膜の欠損孔から胸腔内に取り込まれることによって気胸が発生すると推察されています。

一方、肺実質におこる肺子宮内膜症は月経に一致して、血痰、喀血、咳嗽が出現し、月経が終了すると自然消失するのが特徴です。

 

■腸管子宮内膜症

腸管子宮内膜症の好発部位はS状結腸、直腸です。その他に回腸、盲腸、虫垂および空腸などにも発生します。

子宮内膜症病変は腸管の外側すなわち漿膜面に発生します。次第に漿膜面から腸管筋層さらに粘膜面まで病変が浸潤すると、月経に一致して、腹痛、便秘、下痢、下血、粘血便、排便痛などが認められます。

まれながら腸管壁内の子宮内膜症病変が進行すると、腸管壁の肥厚、瘢痕化が進み、次第に腸管腔の狭窄をきたし、ついには腸閉塞にいたることもあります。このような場合には腸管を切除しなければなりません。

 

■尿路系の子宮内膜症

尿路系の子宮内膜症は膀胱と尿管が主で、腎臓や尿道には少数です。膀胱子宮内膜症も月経に一致して、頻尿、恥骨上部痛、排尿痛、血尿などがみられます。

尿管子宮内膜症も同様に、血尿、側腹部痛、背部痛、腹痛、排尿障害などの症状を呈します。尿管が子宮内膜症病変によって閉鎖されると、尿路結石様の症状を呈し水腎症をきたすこともあります。

 

■その他の部位の子宮内膜症

腟、外陰、会陰部の子宮内膜症は会陰切開の瘢痕から発生することが多く、疼痛、性交時痛を伴います。

皮膚子宮内膜症は臍部より下の前壁に限局し、手術瘢痕創に一致して子宮内膜症が発生することがあります。その際の手術術式としては帝王切開術が大部分を占めます。病巣は赤褐色調の隆起性結節を呈し、皮下に黒色の圧痛のある腫瘤を触知し、月経に一致して出血・血性分泌物や疼痛がみられます。

臍にも子宮内膜症が認められることもあります。臨床症状としては月経時にみられる局所の腫脹、疼痛および血性分泌物の分泌などです。極めてまれな子宮内膜症は、肩、大腿、膝などの筋、骨格系にもみられます。さらには座骨神経や閉鎖神経の部位での子宮内膜症の報告もあります。

 

 

子宮内膜症における疼痛の発生機序

 

子宮内膜症における疼痛発生のメカニズムについては完全に解明されているわけではありません。現時点で推定されている考え方について説明します。

 

■子宮内膜症病巣によるもの

  1. 腹膜病変が炎症反応を起こし、プロスタグランジン、ヒスタミン、キニンなどの化学物質を放出する。
  2. 深在性子宮内膜症が組織や神経を損傷する。
  3. チョコレート嚢胞が破裂し腹膜刺激症状を起こす。

 

■二次的に生じる瘢痕や繊維化によるもの

  1. 瘢痕、ひきつれ、繊維化、癒着による組織の可動性制限が起こり、運動・起立・排卵時に疼痛を起こす。
  2. 腸管の癒着による排便痛や性交痛。
  3. 癒着性の子宮後屈、卵巣のダグラス窩への固着、仙骨子宮靱帯の硬結による性交痛。

 

 

子宮内膜症における疼痛の発生とプロスタグランジン

 

プロスタグランジンは月経困難症で主要な役割を示しています。子宮内膜はプロゲステロン(黄体ホルモン)からプロスタグランジンの合成の場として重要であり、プロスタグランジンは平滑筋収縮や血管拡張の他、発痛増強作用を有しています。

 

子宮内膜症組織は正常な子宮内膜に比べて多量のプロスタグランジンを分泌しています。このようにプロスタグランジンが増量すると子宮の過度の収縮をきたし、さらに子宮内圧を上昇させ、結果的に子宮血流量の減少(虚血)をきたし疼痛を引き起こします。

 

プロスタグランジン合成阻害剤が子宮内膜症の疼痛にも有効であることも、プロスタグランジンが疼痛に関与していることを示唆しています。しかし、プロスタグランジン合成阻害剤は時には疼痛に有効ではないことから、プロスタグランジンが全てではなく、他の因子、たとえばロイコトルエンなども疼痛に関与していると推察されます。

 

子宮内膜症組織の癒着と疼痛

子宮内膜症の特徴の一つは、病巣と周囲組織の癒着です。この癒着が疼痛の発生と深く関係していると考えられています。

 

癒着によってその部位の組織が破壊されたり、あるいは瘢痕が形成されたりするために、その部位の神経が直接影響を受けて疼痛の原因になることもあります。疼痛と仙骨子宮靱帯(子宮後面の子宮をささえる靱帯)病変との関連が指摘されていますが、これは同靱帯が神経線維の通路となっているためとされています。

 

また、癒着によって正常の骨盤内臓器に偏りが生じ、二次的に血液供給が障害され虚血状態に陥ることによって疼痛が引き起こされるとも考えられています。また、組織の可動性制限が起こり、運動・起立・排卵時に疼痛を起こしたり、性行為によって病変部が直接圧迫刺激され痛みを生じることもあります。