子宮内膜症の病因・発生機序に関してはいくつかの説がありますが、はっきりと解明されているわけではありません。

 

そのうち発生機序として最も支持されているのは、月経血の卵管逆流による移植説と腹膜中皮細胞などの化生説です。それぞれについて以下に詳述します。

 

 

子宮内膜症の病因・発生機序

 

子宮内膜症の病変部の組織が子宮内膜そのものに由来するのか、あるいは子宮内膜以外の組織に由来するのかによって二つに大別出来ます。以下に子宮内膜症の発生に関する学説を示します。

 

子宮内膜組織に由来
  • 子宮内膜腹腔内逆流移植説
  • 子宮内膜機械的移植説
  • 子宮内膜リンパ行性血行性転移説
  • 子宮内膜直接浸潤説
子宮内膜以外の組織に由来
  • 体腔上皮化生説
  • 誘導説
  • 胎生期組織遺残説
複数の説を組み合わせたもの
  • 複合説

 

 

子宮内膜組織由来とするもの

 

子宮内膜症の病変部の細胞が子宮内膜そのものに由来するとの説です。子宮内膜の組織片が異所性に転移して生着するというもので、いろいろな転移経路が考えられます。月経血が子宮腔内より卵管を経由して腹腔内に逆流し、ダグラス窩などの腹腔内に生着するという逆流説で、代表的な学説です。

 

子宮内膜の転移経路として、①子宮内膜腹腔内逆流移植説、②子宮内膜機械的移植説、③子宮内膜リンパ行性血行性転移説、④子宮内膜直接浸潤説があります。

 

①子宮内膜腹腔内逆流移植説

月経時には、月経血が子宮腔内より膣内に流出しますが、そのうちの一部は卵管を逆流して腹腔内に流出します。その後、月経血中に含まれる子宮内膜の組織片が骨盤腹膜に生着するという説です。これがSampsonの月経血の逆流説で、現時点で最も支持されている説です。しかし、確定した説ではなく、この説を支持する点と、矛盾する点を以下に列記します。

子宮内膜腹腔内逆流移植説を支持する点

 

  • 月経血(子宮内膜組織片を含む)の逆流は生理的にみられ、卵管を経由して腹腔へも流出します。子宮内膜症は月経のある性成熟期の女性に多い。
  • 多くの子宮内膜症では、卵管の疎通性は保存されている。
  • 子宮内膜症は、初潮が早く、過多月経過長月経、頻発月経の者に発生しやすい。すなわち、月経血の時間的、量的な刺激が大きいほど子宮内膜症になりやすい。
  • 月経血の排出障害は子宮内膜症の発生を助長する。たとえば、膣閉鎖など先天的に月経血の自然な流れが阻止された女性に多い。
  • 子宮内膜症の初期は月経血の貯留しやすいダグラス窩周辺に多い。また、卵管の腹腔口の周辺も月経血にさらされやすいために子宮内膜症の好発部位と推察される。
  • 月経血中の子宮内膜組織に増殖能のあることが組織培養で確認され、移植すると生着する。
  • 卵管結紮術後に発生する子宮内膜症は卵管に認められ、骨盤腹膜には認められない。

 

子宮内膜腹腔内逆流移植説の矛盾する点

 

  • 組織学的に子宮内膜症の生着過程が証明できていない。すなわち、子宮内膜が腹膜に生着して発育していく初期の発生過程の組織像がいまだに捉えられていない。
  • 月経のある全ての女性に子宮内膜症が発症するのではなく、一部の女性に限られている。
  • 男性の子宮内膜症やターナー症候群、ロキタンスキー症候群などの月経現象がない症例でも子宮内膜症がまれに発生するが、その機序を説明できない。

 

 

②子宮内膜機械的移植説

会陰切開部位や帝王切開術の皮膚切開創に子宮内膜症が発生したことから考えられた学説です。分娩や帝王切開のように子宮腔の子宮内膜組織に物理的な作用が加わる操作が誘因と考えられています。

しかし、このような手術操作によって実際に子宮内膜症が発症したとしても、この学説で全ての子宮内膜症の発症を説明することはできません。

 

③子宮内膜リンパ行性血行性転移説

子宮内腔より剥離した内膜片が子宮腔に開口するリンパ管や血管に入り込み、リンパ流や血流にのって遠隔部に運ばれ生着し、子宮内膜症組織となるという説です。肺、横隔膜、皮膚、臍、四肢、脳などの骨盤外の子宮内膜症の発生機序として考えられている学説です。

 

④子宮内膜直接浸潤説

子宮内膜組織が子宮内腔から子宮筋層内に侵入し、さらに連続的に子宮外へと増殖拡散し、子宮内膜症病変を生じるという学説です。

 

 

子宮内膜以外の組織に求めるもの

 

子宮内膜症の組織の起源を子宮内膜以外の組織に由来すると考える学説ですが、その根拠を以下に示します。

 

①子宮内膜症は子宮内膜のない症例にも発生

子宮内膜症は、子宮の低形成や機能性子宮内膜のないターナー症候群など、あるいは男性の膀胱、前立腺、精巣上体にも発生することが報告されています。このような子宮内膜を有せず、月経の発来をみない症例に発生した子宮内膜症では、子宮内膜症組織の発生起源を子宮内膜に求めることはできず、子宮内膜以外の組織に求めることが必須になります。

このような子宮内膜を持たない症例の子宮内膜症の発生は、上記の移植説では説明は出来ませんが、以下に示す体腔上皮化生説によって説明可能となります。

 

②子宮内膜症組織と子宮内膜の生化学的性質が異なる

従って、両者の組織起源は異なると示唆されます。子宮内膜は卵巣から女性ホルモンが周期的に分泌されるに反応して、増殖期、分泌期、剥離を繰り返し、閉経期以降は萎縮像を示します。ところが子宮内膜症病変組織はこのような明瞭な変化は呈しません。

当然両者のエストロゲン(卵胞ホルモン)、黄体ホルモン(プロゲステロン)の受容体の発現が異なります。このように子宮内膜症病変は子宮内膜と形態的には類似していても、生化学的には異なっていると考えられます。従って、両者の組織起源は異なると示唆されます。

 

③子宮内膜症の病変部に腹膜中皮の陥入像を認める

組織学的に子宮内膜症の病変部およびその周囲で腹膜中皮の陥入像が認められることがあります。これは体腔上皮が腹膜中皮となり、さらに化生によって子宮内膜症病変に変化する過程を示唆しています。すなわち、子宮内膜症の組織起源は腹膜中皮、体腔上皮であるとする学説です。

 

子宮内膜以外の組織を由来とする説

子宮内膜症の組織の起源を子宮内膜以外の組織に由来するとする学説は、体腔上皮化生説、誘導説、胎生期組織遺残説などがありますが、それぞれの学説の詳細を以下にしめします。

 

①体腔上皮化生説

腹膜や卵巣の表層にある中皮細胞とこれに伴う間質が、子宮内膜類似組織に化生し、さらに子宮内膜症組織が生じるという学説です。子宮内膜は卵管や子宮頸管とともにミュラー管を原基として発生します。そして、このミュラー管と腹膜や卵巣表層を覆う中皮はともに中胚葉に発生する胎生体腔上皮に由来しています。

従って、中皮と子宮内膜は共通の原基を有することになり、中皮は子宮内膜組織に分化するポテンシャルを持っているというのが体腔上皮の化生説です。子宮内膜症の発生機序として有力な学説ですが、完璧な説ではなく以下に示すような矛盾点も認められます。

化生説の矛盾点

 

  • 胎生体腔上皮に由来する中皮が子宮内膜症の起源であれば、胎生体腔上皮由来の腹膜、胸膜、心嚢膜にも同程度に子宮内膜症が発生しても良いはずです。ところが、子宮内膜症の発生は腹膜とくに骨盤腔内に偏在しています。
  • 中皮細胞の存在しない部位の子宮内膜症を説明できない。
  • 化生という現象は自発的かつ偶然に生じるというよりも何らかの刺激によって生じ、加齢とともに頻度を増すことが一般的です。ところが子宮内膜症の発生は性成熟期にピークがあり、閉経後は減少するのは特異的です。
  • ミュラー管は化生によって子宮内膜類似組織になるポテンシャルを有していますが、同時に卵管や子宮頸管に類似した組織に化生するポテンシャルを有しているはずです。ところが実際は子宮内膜類似組織にのみ化生が認められるのは不自然です。

 

②誘導説

化生説を基盤として、何らかの因子が中皮細胞に対し作用し、子宮内膜症への化生を誘導しているとする学説です。化生誘導因子は何であるかは不明ですが、ホルモン刺激、炎症などがあげられています。

ホルモン因子としては性成熟期に好発することからエストロゲンの存在が示唆されています。月経血中にも多量の性ステロイドホルモンが含まれ、化生に関与しているとの説もあります。

子宮内膜症患者の骨盤腔内貯留液中には炎症細胞数やサイトカイン、種々の増殖因子、接着因子などの炎症性物質が増加していることより、局所における炎症反応が子宮内膜症の発生や増殖に関与していることが考えられます。

 

③胎生期組織遺残説

胎生期組織であるミュラー管やウォルフ管の遺残組織から子宮内膜症が発生するとの学説ですが、矛盾点が多く、現在のところ有力な説ではありません。

 

 

複数の説を組み合わせたもの

 

すべての子宮内膜症をひとつの発生機序で、説明することは出来ないことから、子宮内膜症の発生する臓器によってその発生機序が異なるとした説です。

 

転移説、化生説両者の機序が組み合わさって子宮内膜症が発生するとの説です。卵管を逆流した月経血の暴露あるいは子宮内膜組織片が接触し、何らかの因子の刺激によって、異所性に子宮内膜類似組織が化生して発生すると考えられています。