薬物依存は昔も今も変わらず、大きな社会問題の一つとなっています。 一度、薬物依存に陥ると、離脱を図るのに数年を必要とし、治療を終えたとしても再発率(再使用率)が高く、一生を通して薬物と向き合っていく必要があります。

 

ひとえに薬物といってもその種類は豊富に存在し、また薬物によって発現症状や離脱症状、さらには依存性など大きく異なります。治療においては上述のように数年の月日が必要となりますが、使用年数(依存年数)が長いほど、治療期間が長くなるのが通常ですので、身を滅ぼさないよう、少しでも早く治療に専念することが重要となってきます。

 

 

依存(薬物)とは?

 

WHOでは「薬物依存とは生体と薬物の相互作用の結果生じる、特定の精神的、時にまた身体的状態を合わせていう。特定の状態とはある薬物の精神効果を体験するため、また、時には退薬による苦痛から逃れるために、その薬物を継続的あるいは周期的に摂取したいという強迫的欲求を常に伴う行動やその他の反応によって特徴づけられる状態をいう。耐性はみられることも見られないこともある。1人のものがひとつ以上の薬物に依存することもある」と定義づけています。

 

要するに、薬物依存は、ある薬物を摂取したいという止めがたい欲求を示す精神依存と生体がある薬物の影響下にあることに適応した結果、その薬物が体内から消退して薬理作用が減弱もしくは消失したときに精神や身体的に病的や異常な症状を発する状態のことです。依存という概念には精神依存があることは必要条件ですが、耐性の形成や身体依存は必ずしも必要とはならないということになります。

 

 

依存に関連する用語

 

中毒

中毒とは「有害物質によって生命現象に逆行する生体の障害」のことを言います。サリン中毒、O-157中毒、毒キノコ中毒、ふぐ中毒などというように使います。精神作用物質は反復摂取されるので厳密な意味での有害物質とは違ってきます。しかし、用量・用法によっては中毒症状を示すことから、これらの精神作用物質には「急性中毒」と「病的中毒」に分類されます。

 

急性中毒中毒をもたらす十分な量を摂取したことで、意識水準、認知、知覚、感情、行動上の障害が起こっている状態。
病的中毒大部分のヒトが中毒を起こさない量で急性毒性と同じような精神運動機能上に障害が出ること。

 

麻薬

もともとの麻薬の意味は、微量で強い麻酔作用を示し、反復使用によってクセになり、使用中断によって激しい退薬症状が出るものとされていました。ところが、コカインなどは耐性ができにくく、LSDなどは退薬症状がでません。そのため現在では、その使用が社会的弊害を招くときに行政が指定したものとなっています。法律に麻薬と指定されたものが麻薬であると言うことです。現在日本で麻薬に指定されているのは、アヘン類(アヘン、モルヒネなど)、コカイン、合成鎮痛薬、幻覚薬(LSDなど)、合成大麻有効成分などです。大麻は大麻、覚醒剤は覚醒剤と指定されています。

 

症状

■禁断症状

身体依存を起こす薬物を反復して大量に摂取していたのを急激に中止したことで出現する症状のこと。

 

■離脱(退薬)症状

身体依存は薬物が体の中に持続的に存在することによって生体が適応している状態で、その薬物が体内から消失していくときに、その薬物特有の精神・身体症状がでてきます。こうした症状は急にやめることでなくてもその薬物が体の中から減っていく過程でも生じます。その症状を離脱症状、退薬症状と呼びます。

 

■反跳現象

治療薬の反復摂取によって改善していた症状が、突然の中断によって服薬開始前よりもさらに強く出現してくる現象。ただし、一過性です。例えば、睡眠薬服用中の不眠症者がよく眠れるようになったからと、服薬を急にやめると一睡もできなくなったと訴えることはこの現象のひとつです。退薬症状とは明らかに違います。

 

■耐性

薬物の効果が連続服用により減弱する事。依存薬物の多くは連用により耐性を形成し、同じ効果を得るためにはさらに多くの薬物を服用しないといけなくなります。また、逆耐性も生じてきます。

 

 

依存の成因

 

薬物依存は精神依存と身体依存に分けられますが、薬物を服用することで発現する多幸感などを繰り返し経験すると服用に対する強い欲求「渇望」が生まれます。これが精神依存です。さらに薬物を服用すると耐性が形成されて摂取量が増加していきます。

 

服用を中断すると退薬症状などが出現してきます。このような状態が身体依存です。退薬症状は非常に苦痛なのでそれから逃げるために大量の薬物を渇望するようになり、服用を絶つことができないという悪循環に入っていきます。この悪循環が薬物依存の形成過程です。

 

依存の成立

薬物依存の成立には「薬物の特性」「個体の要因」「個体を取り巻く環境」の3つがかみ合って成立すると考えられています。「薬物の特性」とは、その薬物が作用として依存形成性を持っているかがポイントです。例えば、トルエン(シンナー)には依存形成性があります。だから乱用され、たまに依存になるものがでてきます。

 

しかし、60過ぎてから「シンナー遊び」を始めることは少なく、10代前半から半ばに始められるのがほとんどです。そこにはその年齢層特有の心と、その時の家庭や交友関係が深く関わってきます。ここに薬物依存の要因として「個体の要因」「個体を取り巻く環境」の重要性があります。

 

「個体の要因」には、遺伝的素因、薬物感受性、性別、年齢、学歴、職業、性格特性、心理状態などがあります。「環境要因」には、家庭環境(養育、経済、ストレス)、社会環境(薬物入手難易度、就学・就労状況、セットとセッティング)などがあります。

 

 

「個体要因」と「環境要因」の現状

ここでは、年齢・性別、初回使用動機、人間関係、社会的入手可能性について解説します。

 

■性別

性別でみると男性に多い傾向にあります。違法な薬では特にそうなのですが、医薬品に至ってはその限りではありません。睡眠薬ではほぼ同率、鎮痛薬では女性の方が多い傾向にあります。違法薬物乱用・依存は社会において男女平等が進むか、その薬物が「市民権」を得れば得るほど、男女間の格差は小さくなっていきます。

 

■初回使用動機

睡眠薬・抗不安薬・鎮痛薬はそれぞれの薬物の医療用薬効をその主たる使用動機としています。覚醒剤・有機溶剤などは「刺激を求めて」「快感を求めて」使用されています。しかも、覚醒剤・有機溶剤などはそのほとんどが「誘われて」使用・乱用を始めています。では、誰が誘ったのかというと、どの薬物も同性の友人が一番多いのが実情です。

 

■人間関係

年齢と交友関係が大きな意味を持っているのですが、違法な薬物を入手するにはその手の方と結ぶつくことになっていくことが必要となってきます。有機溶剤、覚醒剤などの違法薬物を乱用すること自体、違法性へのそもそも親和性を持っています。また、睡眠薬関連患者には特異的な人間関係がみられます。「友人知人に医療関係従事者がいる」という割合が増えてきます。要するに、人間関係が薬物の入手可能性とその維持に深く関わっていきます。

 

■社会的入手の可能性

ハルシオンなどは半減期が短いので「持ち越し効果」の少ない睡眠薬として、よく簡単に処方されます。「遊び」目的で使用することがあり、40%程度のシェアを持っていることから、簡単に入手できることを意味します。また、ブロムワレリル尿素は普通の薬局でも簡単に入手することができます。

 

 

薬物依存症と乱用の診断

 

上述のように薬物依存の成因としては次の3つがあげられます。それらの相互作用、絡み合いによって形成されていきます。

 

■性格特徴

最も重要な要因です。意志薄弱、依存的、未熟性、逃避的、自信欠乏、情緒不安定、自己中心的、顕示的などがあげられます。このような性格の持ち主は依存しやすく、どのような薬物の依存にもなることもあるし、ある薬物から他の薬物へと移行することもあります。

 

■薬物の存在

鎮痛、快楽、興奮というような作用のある、しかも耐性を生じやすい薬物が存在すること。

 

■環境

薬物と出会い、その薬物を求めるきっかけとなるような、しかもそれが手に入りやすいような社会、家庭環境にあること。

 

診断基準

1、薬物乱用

乱用とは、「①医薬品をある種の満足を得るために医療以外の目的に使用すること。②酒などの嗜好品を健康、社会生活を破綻させるほど摂取すること。③使用規制がされている薬を違法に入手使用すること。」であり、具体的な診断基準としましては、以下のようなことが1つでも一年以内に起こっていれば薬物乱用とされます。

 

  1. 薬物を常用しているために社会の中(仕事、学校、家庭など)で重要な役割、位置、責任を果たせなくなっている状態。
  2. 薬物を使うのが危険な状況でも使用してしまう。
  3. 睡眠薬を飲んで車を運転する。火のあるとこでシンナーを吸う、など。
  4. 薬物が原因で逮捕された。
  5. 薬物が原因で対人関係のトラブルが絶えない。
  6. 夫婦、恋人間でのケンカ・暴力、、会社の中でのトラブル、など。

 

2、薬物依存症

依存症とは「使用していないときに、離脱症状・禁断症状がでる状態」です。具体的には、以下のうち3つ以上が一年以内に起こっていれば薬物依存症とされます。

 

  1. 薬物を継続して使用しているので効きにくくなっている。そのため、自分の望んでいる状態になるまでにかなりの量が必要となってきている状態。
  2.  離脱症状・禁断症状があるとき。
  3. 薬を止めると(いやな)症状がでてしまうので、それから逃れるために薬を使う状態。
  4. 最初の頃よりも大量、頻回、長時間使うようによくなる状態。
  5. やめたくてもやめられない状態。やめようと試みるもいつも失敗する。
  6. 薬物を手に入れるためには、時間、費用など手間をかけるのを惜しまない。
  7. 薬物が原因で重要な社会的、職業的な活動ができない状態。そのため、今までの娯楽を放棄したり、減らしたりしている。
  8. 精神的、身体的問題が薬物のために起こるとわかっていてもやめられない状態。

 

 

薬物依存の種類

 

精神的依存、身体的依存、耐性形成のそれぞれの特徴によって依存性薬物を7種類に分類されます。

 

依存型精神的依存身体的依存耐性薬物
モルヒネ型++++++モルヒネ、コデイン、ヘロイン
アルコール型+++++++アルコール、バルビツール酸系、抗不安薬
コカイン型+++なしなしコカイン
大麻型++なしなし大麻、マリファナ、ハッシッシュ
アンフェタミン型+++なし++メタアンフェタミン、ヒロポン
幻覚剤+なし++LSD、メスカリン、サイロシビン
有機溶剤型+なし+シンナー、トルエン、アセトン

 

ちなみに精神的依存を来さない薬物はありません。

 

①モルヒネ型

モルヒネ、コデイン、ヘロインやアヘンがこれに含まれます。モルヒネは強い鎮痛作用があり、不快感をのぞき快感をもたらします。精神的依存を形成しやすいです。反復しようで簡単に耐性ができ、著しい身体的依存が認められ、その程度はどの薬物よりも強度です。身体的依存が形成された場合、使用を中止すると激しい禁断症状がでます。

 

精神症状疲労感、倦怠感に続いて無気力で意欲減退、高等感情が鈍ります。モルヒネを得るためにはいかなる手段も選ばない反社会的行動にでることが多くなります。
身体症状やせ、皮膚乾燥、口渇、徐脈、血圧・体温低下、性欲減退などが見られます。
禁断症状禁断(薬をやめて)12?16時間後に不安、落ち着きのなさがでてきて、48時間後にくしゃみ、あくび、悪寒、嘔吐、よだれ、動悸などが出現します。(自律神経の嵐)7~10日でこれらの症状は消失しますが、完全な体に戻るには6ヶ月以上かかります。

 

②バルビツール酸系、アルコール型依存

バルビツール酸系型依存は精神的依存、身体的依存ともに認められますが、精神的依存はモルヒネ型より強くなく、身体的依存が形成されるまでには長時間かかります。アルコール依存と交差耐性(お互いで同じ耐性現象が見られる)ことがあります。

 

精神症状注意散漫、記憶力の低下、感情不安定、意欲低下。
身体症状振戦、フラフラ歩く、ろれつが回らない。
禁断症状せん妄、けいれん、振戦、感情不安定、不安、幻覚、妄想など。

 

③コカイン型

耐性、身体的依存性はほとんどありませんが、精神依存性は最強で、薬物による精神に対する効果も強いです。摂取すると疲労感の消失、活力増大、気分高揚などの興奮症状が見られますが持続は長くありません。薬が切れると反動としてこれらの逆の症状がでてきます。これらの症状から逃れようとするため反復して使用する精神的依存が容易に形成されます。

 

精神症状不眠、食欲不振、高等感情が鈍ります。意識がはっきりしているのも関わらず幻聴、幻視などや被害妄想が見られることがあります。
身体症状身体衰弱、不整脈など。

 

④大麻型

大麻やマリファナ、ハッシッシュが含まれます。コカイン型と同様身体的依存は生じますが、コカインよりも弱く、身体的依存、耐性は生じません。

 

精神症状知覚が敏感になります。特に色や音に対して敏感になります。気分は高揚して、幸せ気分でいっぱいになります。酔っぱらったような状態で、夢を見ているようで幻覚、錯覚が見られます。不安や、抑制困難、衝動的行動がでてくることもあります。大量使用により時空間体験の変容、性的興奮が起きます。
身体症状頻脈、血圧上昇、頭痛、吐き気、口渇などが見られます。

 

⑤アンフェタミン型

いわゆる覚醒剤中毒です。メタンアンフェタミン(ヒロポン)とアンフェタミンがあります。強い精神的依存を形成し、耐性も形成しますが、身体的依存は生じません。急性中毒では眠気や疲労感がとれ、気分爽快、多幸的となりますが注意散漫、錯覚や幻覚がでてきます。薬が切れると倦怠感、疲労感、気分不快となりまた薬に走ります。

大量の覚醒剤を数カ月以上使用すると精神分裂病のような症状(幻聴、被害妄想、追跡妄想など)がでてくることが多い傾向にあります。これに、粗暴な性格がでて、暴行などに及ぶことがあります。覚醒剤の中止により症状は消失していきますが、何年経っても症状が見られることがあります。

 

⑥幻覚薬型

LSDが代表格です。その他にはSTP、メスカリンなど。耐性はすぐに形成されますが消失も早いのが特徴です。精神的依存は弱く、身体的依存は生じません。知覚異常(幻視など)、感情の変化(不安、抑うつ、爽快気分、上機嫌など)、意識の変容などが見られます。

 

⑦有機溶剤型

シンナー、トルエンなどです。吸引により気分は高揚して、酔っぱらった状態になります。幻視や夢想症などが見られ、長期使用により不安、無気力、被害妄想などに変化していきます。身体症状は生じませんが、精神的依存と耐性を生じます。

 

 

薬物依存の治療

 

ここでは各種薬物に関する治療法について解説していきます。薬物依存の治療の最終目標は、依存物質に頼らず、それ以外の健康的な方法で実生活に対処し、自己実現を果たすことができるようにすることです。

 

治療の目標

■長期目標

数年以上の歳月をかけて治療の最終目標にもっていきます。決してスムーズなものではありませんが、何回も失敗してその体験を学び取っていく過程です。

 

■短期目標 

急性期、慢性期での症状や身体障害に関する理解を深める必要があります。

 

断薬抗不安薬や睡眠薬への依存の初期で社会生活が十分に保たれていれば減薬が可能ですが、それ以上になりますと断薬が原則です。(麻薬、覚醒剤は違法なのだから当然でもあります)しかし、断薬の意志はいつも一定してないのでついついやってしまうこともあります。それを失敗としないで、次へのステップと考える必要があります。
家族依存症は家族を否応なしに引き込みます。そのため家族の理解、協力と家族の自信の回復も必要です。
動機づけ本人の意思なしには治療は成立しません。依存の問題が自分自身の問題だと理解する動機づけが必要となってきます。これが最も大事な基本的なことです。

 

治療方法

■離脱症状

それぞれの薬物に特徴的な離脱症状がありますが、特に合併症がなければ時間の経過とともに消えていきます。依存物質を急に減らすのではなく、少しずつ減量していくことで、離脱症状なしにもとの状態に戻ることも可能です。

 

■依存のリハビリ

自助グループへの参加など。こういったところで、集団精神療法がおこなわれます。同じ体験をした人が集まり、お互いの仲間意識で支持し、激励しあいます。

 

■その他

薬物療法、行動療法、内観療法、支持的精神療法などがあります。

 

依存の治療で怖いのは、治ったと思ったと思ったところで、何らかの機会にまたその薬物に触れると以前より激しい状態に陥ることが何年経って起こりうるということがあります。そのため、薬物の使用ならびに依存は、一生を通して注意深く考えていくことが必要となってきます。