平成27年に厚生省が行った調査によれば、糖尿病が強く疑われる、または糖尿病が否定できない人が全国で1370万人いると推定されています。これまでにいろいろな調査から、糖尿病またはその予備軍の人が、地域によってはその人口の数十パーセントにおよぶことがあることや、糖尿病で治療を受けている人が年々増加していることがわかっています。

 

これは車など交通機関の発達などによる運動量の低下や食生活の欧米化などライフスタイルの変化とそれによる肥満の増加が大きく影響していると考えられており、今後さらに増加していくことが懸念されています。

 

 

糖尿病とは

 

糖尿病という病気は、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなる病気です。これがある程度以上になると尿にこぼれてくるために糖尿病という名前がつきました。尿に糖がこぼれはじめる血糖値には個人差があるため、尿に糖が出なくても糖尿病である人もいれば、尿に糖が出ていても糖尿病ではない人もいます。

 

血糖値は膵臓で作られるインシュリンというホルモンで調節されています。このホルモンが不足した場合や、インシュリン抵抗性といってこのホルモンがうまく効かなくなると血糖値が上昇し、糖尿病へとつながります。

 

日本人の糖尿病の大部分を占める「2型糖尿病」の場合、何らかの体質的な要因に肥満や運動不足が加わることでインシュリン抵抗性が出現→たくさんのインシュリンが必要な状態になって膵臓の負担が高まる→さらなる肥満、暴飲暴食、病気、ストレスなど何らかのきっかけでインシュリンが不足、血糖値の上昇がおこる→膵臓の負担がさらに高まり疲弊、インシュリンを作る能力が低下→さらに血糖値が上昇、といった経過が推定されています。

 

この他に免疫異常によってインシュリンが作れなくなる「1型糖尿病」や、妊娠中だけ血糖値が上昇する「妊娠糖尿病」、「その他の原因、疾患による糖尿病」、といった糖尿病があります。

 

 

血糖値が上がるとどうなるのか

 

血糖値は食前で80mg/dlから110mg/dlが正常値です。これが、繰り返し126mg/dl以上になった場合や食後の血糖、あるいは75gの糖分を負荷して(糖負荷試験と言います)120分後の血糖が200mg/dl以上の場合、糖尿病と診断されます。

 

ところが、血糖値が200mg/dlまで上がってもまだ自覚症状はありません。この症状がないところがくせもので、そのまま高い血糖にさらされていると、体のあちこちに余病がおこってきます。これが合併症とよばれるもので、最悪の場合、失明したり、尿毒症をおこしたりします。

 

さらに血糖値が上昇して300mg/dlから400mg/dlぐらいになってくると、尿の中に大量の糖がこぼれてくるために尿量が増えて、夜中のトイレの回数が増えたりのどが渇いてたくさんの水が必要になったりします。栄養が尿中に逃げてしまうため体重減少がおこりますが、ひどいときには食べれば食べるほど血糖が上がり、さらに痩せてきます。

 

このような状態になると合併症は急速に進行するようになります。このような状態の時に十分な水分がとれずに脱水状態になったり、風邪や下痢、暴飲暴食など肉体的なストレスが加わって血糖が上昇すると、糖尿病性昏睡となり、命にかかわることがあります。

 

 

糖尿病の合併症

 

慢性的な高血糖が続くと、数年から十数年で合併症を生じますが、全ての合併症は血糖がコントロールできていれば予防が可能です。代表的な合併症として神経障害、網膜症、腎症があり、三大合併症とよばれています。

 

≪神経障害≫

感覚神経の障害による手や足のしびれ、痛み、感覚低下などや、自律神経の障害による便秘や下痢、立ちくらみ、インポテンス、膀胱機能障害などがあります。

 

≪網膜症≫

目の奥にある光を感じる組織である網膜に障害がおこるものです。網膜では、黄斑とよばれる中心部が正常であれば視力に変化が起こらないのに対し、網膜症は周辺部から始まるため、視力が正常でも網膜症がないとは限らないばかりか、失明直前まで症状がないこともめずらしくありません。現在、失明原因の第一位がこの網膜症です。

 

≪腎症≫

腎臓とは、血液をろ過して尿を作る臓器で、これが障害をうけるのが腎症です。尿に蛋白が漏れるようになるのが初めの兆候ですが、実はこの時点ですでに腎臓の障害はかなり進んでおり、最近はアルブミンという特殊な蛋白質を調べることでより早期に発見できるようになりました。尿の蛋白が増加するにつれて腎機能は低下し、むくみや貧血、さらには呼吸不全などをひきおこし、最終的には人工透析が必要な状態となります。

 

この他にも、動脈硬化が起こりやすくなる、白内障が早く進む、細菌やウイルスに対する抵抗力が低下する、キズが治りにくい、足などに壊疽や潰瘍を作りやすい、等々いろいろな合併症があります。

 

 

糖尿病の治療

 

たとえ糖尿病となっても、治療によって血糖値を正常近くにコントロールすることができれば、合併症を予防することができます。すでに起こってしまった合併症も進行がくい止められますし、軽い合併症ならば消えてしまうこともあります。

 

≪食事療法≫

いちばん基礎となる治療が食事療法です。他の治療がどんなにうまくいっても食事療法が適切に行われないと血糖はうまくコントロールできません。体にとって必要な栄養を上回って食べれば余った栄養は血糖値を上昇させてしまいますが、必要な栄養をきちんととらなければ栄養失調になってしまいます。栄養のバランスを崩さずに必要な栄養をちょうど良くとることが糖尿病の食事療法です。

 

≪運動療法≫

2型糖尿病の人の場合、肥満や運動不足など何らかの理由でインシュリン抵抗性が出現することが原因の一つとなっています。運動療法にはインシュリン抵抗性を改善させる効果があります。また、肥満の解消のためには脂肪分の分解が必要ですが、適切な運動によって分解、消費が促進されます。

 

≪薬物療法≫

食事と運動で血糖が正常化しない場合、薬物療法を行うことになります。薬には大きく分けてインシュリンと飲み薬があります。インシュリンは不足しているホルモンそのものですので、膵臓での合成が不足している人にとっては不可欠な薬ですが、残念ながら飲み薬にすることができず、注射になります。

飲み薬は最近になってその種類が増えてきましたが、膵臓のインシュリン合成能にに余力が残っている場合か、あるいは血液中に(膵臓からの分泌あるいは注射によって)インシュリン存在している状態でないと効果を発揮できないのが共通した特徴です。

 

検査、通院について

糖尿病の治療で一番大事なことは、良いコントロールを”続ける”ことです。糖尿病には自覚症状がほとんどないため、定期的に血液検査を受けないとコントロールがうまくいっているかどうかを知ることができません。体調は良いし、近頃仕事が忙しいので検査を延ばしていたら、久しぶりに検査してみてびっくり...という事例は残念ながらめずらしくありません。忙しいときこそ血糖を乱しやすいものです。定期的な検査、通院を欠かさないようにしましょう。

 

 

糖尿病の治療薬

 

糖尿病の治療には、薬物療法が非常に有効です。「インシュリン」、SU剤やBG剤、α−グルコシダーゼ阻害剤などの「飲み薬」が使用され、これらは糖尿病の種類や症状などによって使い分けられます。

 

≪インシュリン≫

最近ではペン型の注入器を使うことが増えてきましたが、注射器も使われます。持続注入ポンプを使う場合もあります。速効型、中間型、その両者を混合したもの、持続型、といろいろなタイプがあり、単独で、あるいは組み合わせて使われます。不足しているホルモンそのものを補充するため、安定して確実な効果を発揮し、膵臓の負担を軽減する効果もあります。

 

≪飲み薬≫

■SU剤

膵臓からのインシュリンの放出を刺激する薬です。以前から使われてきた長時間作用するタイプと最近使われ始めた短時間作用するタイプがあります。肥満が促進されることがあり、食事療法の遵守が重要です。

 

■BG剤

肝臓や筋肉に作用してインシュリンの作用を増強することで血糖を下げる薬です。肥満を促進することはありませんが、比較的作用が弱いためSU剤などとの併用が中心です。単独で使用されることもあります。

 

■α−グルコシダーゼ阻害剤

食後過血糖改善剤ともよばれます。でんぷんや糖分の消化、吸収を遅らせることで食後の血糖の上昇を遅らせる薬です。食前の血糖値が低く押さえられていても食後の血糖が押さえきれない場合に使います。

 

■インシュリン抵抗性改善剤

血液中には多量のインシュリンがあるのにもかかわらず、肥満によるインシュリン抵抗性のために血糖が下がらない場合に使われます。インシュリンが高値であることを確認してから使用することになります。肥満を促進することがあり、食事療法の遵守が重要です。

 

 

糖尿病の早期発見

 

いろいろな病気で言われることですが、糖尿病の場合もやはり、早期発見・早期治療が大切です。発病初期であれば合併症もまだ進んでいないでしょうし、インシュリン合成能が残っているうちであれば大半の人が食事と運動だけでコントロールが可能ですので、早く見つけるほど治療が容易です。

 

糖尿病は血液の中のブドウ糖が上昇する病気ですので、糖尿病を早く見つけるには、血液の検査を受ける必要があり、尿の検査だけでは早期発見は困難です。最近は健康診断の際に血糖値を調べることが多くなってきましたし、人間ドックなどでは糖負荷試験を含める場合が多いようです。糖尿病が心配だけれど定期検診には血糖検査が入っていなかったと言う場合は、お近くの医療機関にご相談下さい。

 

なお、肥満のある人はそれだけで糖尿病になる危険性が高くなりますし、そうでない人でも家族や親族に糖尿病の人がいる場合、なんらかの共通した生活習慣や体質が受け継がれている可能性がありますので、思い当たる点のある人は機会がありましたら検査を受けてみることをおすすめします。

 

 

糖尿病を予防する

 

早く治療を始めるほど容易にコントロールできる糖尿病ですが、もっと早く、病気になる前に予防することはできないでしょうか?。2型糖尿病の原因は肥満と運動不足によるインシュリン抵抗性にあります。そして肥満の直接の原因は食べ過ぎと運動不足ですので、食べ過ぎと運動不足の解消が糖尿病の予防になります。

 

一つの家族や親族に複数の肥満や糖尿病の人がいることがあります。これは何らかの体質が共通している可能性と、生活習慣が共通しているための可能性があります。糖尿病の治療や肥満の解消のための食事や運動の注意は健康な人にとっても共通です。

 

もしも家族の中に糖尿病の人あるいは治療を要する肥満症の人がいる場合は、家族みんなで食事や運動に取り組んで、治療と予防、健康増進ににつなげると良いでしょう。親世代の肥満を子世代や孫世代に伝えないことが糖尿病予防の第一歩になります。