うつ病は、今や社会病とも言えるほどに、多くの日本人が罹患している精神疾患で、特に多忙な仕事や人間関係によって発症することが多い傾向にあります。

 

うつ病は”甘え”と言われることが多いものの、れっきとした精神疾患であり、治療をしないと悪化し続けて自殺といった最悪なケースを招いてしまいますので、積極的に治療が必要不可欠となります。

 

 

うつ病の症状

 

うつ病の症状はありふれた症状です。幻覚や妄想などはありません。 誰でもが日常的に経験することがうつ病の症状なのです。 例えば、ご飯がおいしくないとか、夜よく眠れないとかということが、 うつ病の代表的な症状なのです。気持ちの面では、朝出かけるのが何と なく億劫だ、どうも仕事に気が乗らないとか、いつもなら面白くてたまらない大リーグの野球中継がつまらなく感じるとかいうのもうつ病でよくみられる症状です。

 

それでは、わたしたちは全員がうつ病なのだと思うかもしれません。そうではありません。うつ病には特徴があります。ひとつは以下に述べる症状がいくつか、かたまって現れることです。もう一つは、それらの症状がしばらくの間続くことです。専門家の間では、2週間以上続いたときにうつ病と診断することにしています。

 

うつ病の時にみられる症状は沢山あります。うつ病はこころの風邪と言われることがありますが、うつ病にはこころの症状だけでなく、からだの症状もあります。

 

からだの症状
  • 眠れない
  • ご飯がおいしくない
  • 疲れやすい
  • 性欲がない
  • 頭痛、肩凝り
  • 腰痛
  • 便秘
  • 息切れ、動悸
こころの症状
  • 気持ちが沈む
  • 悲しい
  • 悪い方に悪い方に考える
  • 不安でいらいらする
  • 興味や関心がもてない
  • やる気がでない
  • 死にたくなる

 

睡眠は寝つきはまずまずですが、朝早く3,4時頃に目が覚め、その後、もう眠れません。朝の目覚めもすっきりしません。からだの調子も、こころの症状も午前中が特に悪く、夕方からはだんだん軽くなるというのもうつ病の特徴です。元気がでないのは疲れからだとか、身体の病気だろうと考えて、こころの症状には気がつきにくいものです。

 

 

うつ病の生活療法

 

うつ病にはさまざまなタイプがあります。生活療法について説明するには、国際疾病分類(ICD-10)ではなくキールホルツの診断分類のほうが分かり易いと思います。キールホルツのうつ病の分類では、①身体因性うつ病、②内因性うつ病、③反応性うつ病、の三つにうつ病を大別しています。

 

身体因性というのは、脳の疾患、身体疾患、アルコールをはじめとした薬物が原因となったうつ病です。内因性というのは、体質性というか脳の性質による遺伝的要素の大きいうつ病です。反応性というのは、なんらかのきっかけに反応しておきるうつ病です。

 

それぞれのタイプに応じた、生活療法を含めた治療が必要です。抑うつ神経症とも神経症性うつ病ともいう神経症があります。うつ状態を呈する精神分裂病もあります。しかしこれらは神経症であり精神分裂病で、うつ病ではありません。したがってこれらには神経症や精神分裂病としての治療が必要です。

 

タイプによって生活療法はいくぶん違います。また病状の程度や病期によって生活療法をするタイミングが異なります。また年齢やおかれている立場、背負っている背景要因によっても生活療法の具体的なあり方はちがってきます。うつ病の回復のため、とくに再発予防のために生活療法は重要です。

 

■身体因性うつ病

身体因性うつ病の場合は、原疾患に対する治療が最優先されます。身体疾患の治療や身体因となった要因を取り除く事が大切で、飲酒をやめたり薬物の摂取・服用を中止することです。もしうつ病になるほどアルコールや薬を飲まなければならないような心理社会的要因があるならそれへの対処が必要になります。生活行動を不健全なものから健全なものに変えることが大切になります。食生活の偏りをただしストレスをうまく管理するような生活をします。

 

■内因性うつ病

内因性うつ病は、発病のきっかけがある場合ときっかけがはっきりしない場合があります。きっかけや背景要因がはっきりすればそれを取り除くようにしなけれなりません。ただ内因性うつ病は抗うつ薬がよく奏効します。効果のでるまでの期間、服用を続ける事が重要で、副作用をにらみながら主治医に相談しつつ服薬してください。病状の悪い間は無理な生活をしないことです。周囲は励まそうとしますが、励ましや気晴らしの誘いは元気になって受ければよいことです。

気力が戻り意欲がでてきたら、早起きして太陽の光を浴びて散歩などをして回復を促し、社会復帰の備えをします。人に合うのも苦痛で外出も出来ない状態の時や、新聞やテレビも見れないほど状態が悪いときは勤めや仕事は休んだほうがよく、それが回復のためにはもっとも早道です。家族の理解と協力を得てゆっくり休養することです。

 

■反応性うつ病

反応性うつ病では、反応する刺激要因と反応する側の病人の性格や行動の特性、または置かれている状況などに問題があります。多くの場合、原因や要因は複合しています。うつ病性格とかうつ病親和性性格などといわれる、性格行動的な特徴をもつ人は反応性うつ病になり易いので用心が必要です。凝り性でのめり込み易い、きちんと順序だてしないではいられないなどの特徴です。正直すぎて人に頼まれると断れないとか、のめり込んだら熱中しすぎるのです。

消耗して燃え尽きてうつ病になる人も少なくありません。周囲が消耗しすぎないように配慮することも大事ですが、考え方や受けとめ方を変えることが重要です。一呼吸おいてことに当たる事、ゆとりを持つようにすること、バイオリズムに則った生活をすること、ノーと言えるようになること、現実的な思考をすること、などが大切です。

 

うつ病は死にたくなるという症状があり苦しい病気ですが、「こころの風邪」などともいわれるように、だれでもなりうる病気で早く治療し、再発しないような生活をすることが大切です。

 

 

薬物療法について

 

うつ病の治療は休養と抗うつ薬による薬物療法が基本になります。抗うつ薬はうつ病の気分の落ち込みや意欲の減退などの症状を改善させ、身体症状も取り去る薬です。抗うつ薬には幾つかの種類があり、古いものでは、40年以上の歴史があります。最初に登場したイミプラミン(商品名トフラニール)やアミトリプチリン(トリプタノール)が長い間用いられており、これらが抗うつ薬の一番基本になるものです。

 

構造式に亀の子が3個ついているところから三環系抗うつ薬と呼んでいます。これらは第一世代の抗うつ薬といわれ、抗うつ効果は認められますが、効果発現まで10日から2週間を要し、また口渇、便秘、尿の出が悪い、眼に調節障害(新聞などを読む時字が読み難い)や心臓に影響が出るなど副作用が多く臨床医にとっては使い難さがありました。

 

1980年代になると第二世代の抗うつ薬とよばれる一群のお薬が登場してまいりました。これらの薬は第一世代の抗うつ薬の短所である副作用や効果発現まで時間がかかることを是正する目的で作られた薬です。確かに効果発現が1週間程の薬はあり、また第一世代の抗うつ薬に比較すると副作用が少なくなっています。そのため、第二世代の抗うつ薬の1つであるマプロチリン(ルジオミール)は数年前までは、精神科医のみならず各身体科でも使用され、わが国では最もよく使われる抗うつ薬でした。

 

ところが、1999年に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の一種であるフルボキサミン(デプロメール・ルボックス)という抗うつ薬がわが国に導入され、2000年にはパロキセチン(パキシル)も使用可能となりました。欧米では数年前から盛んに用いられていたお薬ですが、ようやく日本でも使えるようになりました。これらの薬は、従来の抗うつ薬に比べ明らかに副作用が少なく、飲み易い薬です。

 

再燃再発予防のために長期間使用しても不快な副作用は極めて少ないといえます。服用初期に嘔気や腹部の不快感が出ることがありますが、早期に消えるのが一般的です。更にアメリカで爆発的に用いられているフルオキセチン(プロザック)も開発中です。またセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の一種ミルナシプラン(トレドミン)も新たに登場し、抗うつ薬は、新時代を迎えつつあります。主治医の指示のもと、抗うつ薬の適量を正しく服用することが、うつ病治療の早道です。

 

 

最近の傾向

 

食欲が無い、お腹が痛い、下痢をする、手足がしびれる、腰が痛い、めまいがする、頭痛や頭が重いなどのからだの症状に悩まされ、内科、外科、耳鼻科、脳外科、整形外科、婦人科などを受診していろいろな検査を受けたが原因がわからず、病院を転々としている患者さんがおられた場合、症状の背後にうつ病が隠されていることがよく経験されます。

 

最近、うつ病のことはよく知られるようになってきておりますから、うつ病が、「気分が憂うつになり、元気がなくなってしまう心の病気」であることは、多くの人が漠然と理解されていると思います。しかし、うつ病の中には、うつ病本来の症状である精神症状が目立たず、身体症状が前面に出ていて、一見すると体の病気のようにしか見えないものがあることは意外に知られていないようです。

 

からだの症状が前面に出るうつ病は、からだの病気の症状という仮面をかぶっているように見えることから「仮面うつ病」と呼ばれております。この「仮面うつ病」は「軽症うつ病」とほぼ同義語とされております。うつ病であることがわからないままでいると、症状が悪化し、最悪の場合には、自殺してしまうというような不幸な事態を招いてしまうこともあります。

 

とりわけ50歳代の男性では、経済・生活問題を理由とする自殺が著しく増加しております。長引く不況が原因で中高年の自殺者が増えているということで、大きな話題になっていますが、中にはリストラ、会社の倒産などが引き金となってうつ病になり、自殺をした人も多いのではないかと推測されます。

 

うつ病になる人は、まじめで責任感が強く、仕事も一生懸命する人です。それだけに、うつ病であることが見逃され、長期間の欠勤を余儀なくされ、仕事を失ったり、自殺という不幸な結果になってしまうのは胸が痛みます。うつ病は特別な病気ではありません。現代社会では、誰でもかかる可能性のある、ありふれた病気だと言えるでしょう。うつ病は早期に発見して適切な治療を受ければ必ず治る病気です。自殺という不幸な出来事を防ぐためにも、医師だけでなく一般の方にもうつ病に対する正しい知識を持っていただきたいと願っております。

 

なお、うつ病の最近の傾向としては、軽症化すなわち「仮面うつ病」の増加、小学生の間にもうつ病が出現、すなわち低年齢化、そして高齢化社会にあって、本当のからだの病気に合併したうつ病や老人性痴呆と誤診されやすい仮性痴呆(うつ病なのにボケたように見える状態)の増加などが特徴と言えましょう。ご自分の身の周りの方にうつ病が疑われるような症状がありましたら、ためらわずに心療内科や精神科を受診していただきたいと思います。

 

 

心療内科の領域について

 

うつ状態は、誰でも時々は陥るものです。また、種々のストレスによって生じることもあります。しかし、そのうつの状態が普通よりも長く続いてしまったり、生活を送る上にさまざまな支障をもたらすことがあります。こうした軽いうつの状態をきたすことは多く、しかも適切な対処を行えば、比較的短期に正常に戻ることができます。うつが‘心の風邪’といわれるゆえんです。心療内科では、このようなストレスによりもたらされたうつ状態に対する適切な対応の仕方を考えます。

 

また、本来うつ病であっても、そのはじまりは症状が非常に軽く、うつと気づかれない場合もあります。このような場合、その主な症状は、食欲不振、体重減少、頭痛、肩こりなどの疼痛、めまい感などの身体症状であることが多いので身体疾患とまちがわれたりします。

 

このような症状に、何となく身体がだるくて仕方がない、疲れやすい、食べる気にならない、疲れているのに寝付かれない、寝た感じがしない、朝早く目が覚めてしまう、やる気はあるのに仕事に集中できない、気が乗らない、あるいは、これまでのような判断力がなくなった、自信がなくなったなどの症状がみられる場合には、軽症のうつとして考えた方がよいようです。こうしたうつ状態に対しては、積極的に心身の安静を保つこと、無理をしないことを心がけ、適切な抗うつ薬を規則正しく服用することが重要です。

 

うつ病も早期に治療を行うことによって、重症化することを防ぐことができます。また、再発の予防という意味でも、正しく治療を行い、うつに陥らないためのストレスの受け止め方や対処方法についての知識を十分にもっておくことが大切です。

 

心筋梗塞や脳梗塞、あるいは重い病気にかかったときには、うつ病が高頻度にみられます。元気がないのはもとの身体の病気のせいだと思われがちですが、その中にうつ病が混じっていることがあります。このような場合には、うつに対して適切な治療を行わないと、リハビリテーションが進まなかったり、病気を重症化させることがありますから十分な注意が必要です。

 

心療内科では、うつ病の中でも比較的軽いうつ状態や身体疾患に合併するうつ病を取り扱っています。日常生活のQOLを損なわないよう適切な抗うつ剤による薬物療法、認知療法、ストレス・マネージメント、対人関係の持ち方、家族への対応、身体面の改善など、総合的な観点からの治療が行われます。

 

また、軽症のうつにみえても、中には重症化や慢性化する恐れのある‘悪性の心の風邪’である場合もあります。こうした場合には、精神科や神経科での治療が必要となります。なるべく早い段階で、重症化、慢性化の恐れについても診断を行い、判断した上で、早期に専門の治療施設を紹介するというコンサルテーション機能も果たしています。

 

うつ病の治療と予防のためには、身体の状態ばかりを心配するのではなく、気持ちの面にも気をくばってみること、また、正しい診断をうけ、適切な治療方針を持つことが最も重要な点であることを認識していただきたいと思います。

 

 

ご家族の対応法

 

うつ病の症状は、外から見るとよく分かりませんが、本人にとってはとても苦しいものです。したがって、うつ病という診断がついたら、家族も次のような点に注意して、本人に治療に専念させるようにします。

 

■必ず病気であると説明する

うつ病の患者さんは、病気だとは思わず、自分の努力が足りなくてこうなったと思い、自分を責めている場合が多いので、家族や周囲の人は、まず、うつ病は自分の心構えが悪くてなるのではなく、身体病と同じく病気であることをよく話します。そして、風邪を引いたようなものだから、無理をすると回復が遅れるので、ゆっくりと静養するように薦めます。うつ病は必ず治る病気であることを力説します。

 

■受容的な態度で傾聴する

何よりも、本人の悩みを受容的な態度でよく聞いてあげることが大切です。そんなことは気の持ちようだ、気にせずに頑張れと激励することは、ただでさえ自責の念に駆られている本人に、よけいに自分の努力が足りないと思わせて、病気を悪化させるおそれがあります。

 

■休養をとらせる

出来るだけ早く休養をとらせます。仕事や学校は出来ればしばらく休ませます。どうしても休めないときにも、実際の仕事は同僚などに任せ、こころの負担を軽くします。

 

■場合によっては入院治療を行う

軽症のときには自宅での療養でよいのですが、自宅にいると静養しにくいとき、自殺したいと言ったり、すでに自殺の試みをしている時などには、入院治療が必要になります。これについては、主治医に相談することです。

 

■計画を認知させる

いつになったら治るかという不安が強いので、主治医から治療の見通しをある程度話してもらい、今後の治療計画に対する自分の心づもりを持たせるようにします。

 

■決定事項を延期させる

仕事をやめる、学校を退学するなどという人生上の大問題については、うつ状態のときに判断すると悲観的な判断をして後で後悔することがあるので、病気が治るまで決定を延期させます。

 

■焦らせない、焦らない

うつ状態がなかなかよくならなくて、家族が焦って来ると、それが家族の言動に表れて本人をも焦らせます。家族は治療に十分な時間をかける覚悟をし、忍耐強く治療を行うことです。

 

■自殺防止に取り組む

自宅で治療するときには、自殺の防止は家族の責任になります。自殺は病気になりかけと、病気がよくなってきた時期に多いとされています。自殺の予知は難しいのですが、もっとも危険なケースは、すでに自殺の試みをしたことがある人ですから、このような場合はとくに注意します。

 

■できる限り相手に合わせる

夫婦間の心理的問題として、うつ病になると気分が落ち込み、意欲がなくなり、配偶者に対する関心も少なくなり、性欲も低下するので、性生活を拒否したりして、配偶者に不満を与えることも少なくありません。配偶者はうつ病の症状によることを理解し、愛情がなくなったと病者を責めることのないように注意が必要です。

 

■運転を避ける

自動車の運転などは、うつ病のときには反応が遅くなるので、避けるようにします。うつ状態になると、気分を紛らすために酒を飲むことがありますが、その効果は一時的なものなので、酒をたくさん飲むことは避けた方がよいでしょう。

 

いずれにしても、家族は本人が最も頼りにしている人たちですから、本人の悩みを十分に受け止め、家族全体で治療を進めるという気持ちになることが大切です。