2015年時点におけるクラミジア感染症の罹患者数は、男女あわせて24,450人(厚生労働省調べ)にのぼり、男性が11,670人、女性が12,780人となっています。性感染症の種類は多岐に渡りますが、中でもクラミジア感染症の罹患者数は高く、日本だけでなく世界全体をみても頻発しています。

 

上述のようにクラミジア感染症は頻発する性感染症であり、治療法も確立されていますが、放置するとさまざまな臓器に感染し、重篤化する(治療困難となる)ケースが多々ありますので、同疾患が疑われる場合には早急に病院へ受診し、治療を行うようにしてください。

 

 

クラミジアとは

 

クラミジア感染症は性感染症のうちで最も頻繁に認められ、淋菌感染症と比較して自覚症状がほとんどないために潜在化、蔓延傾向にあります。クラミジアは細菌に分類される小微生物ですが、その特徴はヒトや動物の細胞に寄生(偏性細胞寄生体)することによってのみ増殖が可能である点です。

 

クラミジアの分類とその感染経路

 

クラミジア属は上の表のようにC.trachomatis 、C.pneumoniae 、C.psittaciおよびC.pecorumの4種より構成されています。C.pneumoniaeは肺炎や気管支炎の原因菌になりますが、性感染症の主役はC.trachomatis(トラコマチス)です。また、C.pecorumはウシ、ヒツジの病原菌であって、ヒトへの感染の報告はありません。

 

クラミジアは細菌に分類される小微生物(直径300〜1000nm)で、グラム陰性細菌に類似した微生物ですが、普通の細菌やウイルス、リケッチアとは異なる病原体です。不完全ながらも物質代謝系を有し、抗生物質に対する感受性を有しています。

 

また、クラミジアはその細胞内に自身のエネルギー産生系を欠くために、ヒトや動物の細胞内に寄生し分裂増殖します。いわゆる、偏性細胞寄生性の生物であることが特性の一つとなっています。

 

もう一つの特徴は、その特有なライフサイクルです。クラミジアは細胞の食菌作用により宿主細胞に取り込まれ、この段階では感染性のある基本小体 elemental body (EB)と呼ばれる直径約300nmの小粒子ですが、これが細胞内で非感染性の増殖型粒子である網様体 reticurate body (RB) となり分裂増殖をし、再び基本小体(EB)に変化するという独特な増殖環を持っています。この増殖サイクルは2〜3日間であるとされています。

 

 

性器クラミジア感染症と淋菌感染症の罹患率の推移

 

クラミジア感染症は現在、世界的にみて最も多い性感染症です。わが国においても例外ではなく、性器クラミジア感染症は1992年以降は淋菌感染症に代わって最も多い性感染症となりました。

 

しかし、その初期においては淋菌感染症と比較して著明な自覚症状があるわけではないために潜在化し、感染は拡大し蔓延傾向にあります。このような無症候性感染(不顕性感染)がクラミジア感染の特徴であり、検査を行わなければ診断を見逃すことになります。

 

クラミジアや淋病など性感染症の感染者数の年別推移(男性)

 

クラミジアや淋病など性感染症の感染者数の年別推移(女性)

 

上の表は、わが国における性器クラミジア感染症や淋菌感染症などの性感染症の罹患率の推移を示しています。10年前と比較して減少傾向にあるものの、男女あわせて年間およそ2万4000人の方が性器クラミジア感染症を罹患しています。

 

 

性器クラミジア感染症の病態生理

 

女性の場合は、膣内に排出された精液中に含まれるクラミジアが子宮頸管上皮細胞に感染することから始まります。子宮頸管炎が発症しても自覚症状がないために放置されることが多く、子宮内腔、卵管内、腹腔内さらには肝周囲へと感染が拡大します。

 

その結果、卵管不妊、卵管妊娠(子宮外妊娠)、児への産道感染、さらには流産、早産の原因菌になる可能性が出てきます。

 

クラミジアの多臓器への感染拡大

 

男性から女性への感染経路について

クラミジアに感染した男性の精液中には当然、クラミジアが含まれています。そのため、性交によって膣内に排精された精液とともに排出されたクラミジアに感染します。膣から子宮への入口の部位は子宮頸管と呼ばれていますが、この子宮頸管がクラミジアの初感染部位であり、女性のクラミジア感染は子宮頸管炎から始まります。

 

潜伏期間

潜伏期間は、1〜3週間とされていますが、一般的には感染機会後、およそ2週間で発症します。しかし、70%以上が無症状であり、感染を自覚することのほうが少ないのが実情です。一旦、子宮頸管炎が発症すると炎症は速やかに子宮内、卵管内さらには骨盤内、腹腔内と感染は拡大し、後述するようにさまざまな障害を引き起こします。

 

産道感染

子宮頸管にクラミジアが感染している場合には、分娩時にその部位を通過し出生する児は、クラミジアに被爆することになります。その結果、産道感染が起こり、児は結膜炎や肺炎を出生後に引き起こすことがあります。

 

性器クラミジア感染症と妊娠

妊娠中にクラミジア頸管炎があると、隣接する子宮内の卵膜への感染、つまり絨毛羊膜炎を続発する時もあります。絨毛羊膜炎が起こると、卵膜組織より子宮収縮物質であるプロスタグランジンが産生されるために、子宮収縮が起こりその結果、子宮内圧が上昇し、同時に卵膜の感染部位の脆弱化、非適時破水を起こし、流産あるいは早産につながることがあります。

 

性器クラミジア感染による卵管障害

クラミジアによる子宮頸管炎から感染が子宮内を上行し、卵管さらには腹腔内に拡大すると、卵管上皮の損傷さらには付属器炎により卵管狭窄・卵管閉塞に至ることもあります。その結果、受精卵の卵管内の輸送障害が起こり子宮外妊娠(卵管妊娠)の原因になることもあり、さらに卵管閉鎖により卵管不妊に至ることもあります。

 

腹腔内感染・肝周囲炎

クラミジア感染が卵管炎から腹腔内感染に至ると骨盤腹膜炎になります。さらに腹腔内感染が上腹部に及ぶと肝臓と他の臓器の炎症性癒着をきたし、激しい上腹部痛を発症することもあります。これが肝周囲炎と呼ばれる炎症性の病気です。

 

 

性器クラミジア感染症の診断

 

クラミジア感染は自覚症状が乏しいために、必然的にその診断は臨床検査に頼るしかありません。クラミジアの検査法としては、大別して抗原検査法と抗体検査法の2つの方法があります。

 

抗原検査法(クラミジア自身の検出)

クラミジアはその細胞内に自身のエネルギー産生系を欠くためにヒトや動物の細胞内に寄生し分裂増殖します。つまり、偏性細胞寄生性の生物であることがクラミジアの特性の一つなのです。

 

以上のクラミジアの特徴から、自らの力のみでは増殖・生存することはできず何等かの寄生細胞が必要になります。抗原の検出のためにはこの寄生細胞・感染細胞が検体として必要になり、十分擦過し多少出血するくらいのほうが感染細胞の採取がより確実になるため診断学的に重要となります。

 

女性の場合には子宮頸管が初感染部位であるために、頸管上皮細胞が検体になることがほとんどです。そのほかに尿道、直腸、鼻咽頭粘膜などの細胞がクラミジア検出のための検体として利用されます。いずれにせよ体表面に近い部位の細胞のみしか採取出来ないのが欠点です。

 

腹腔内の細胞は簡単には採取することができません。細胞が採取出来ないために直接感染が起こっていることを診断出来ないのです。そのために、このような場合には後述するように血清学的診断に頼ることになります。

 

クラミジア感染症の診断は原則としてクラミジア自身の検出によってなされるのが理想です。クラミジア抗原の検出方法は細胞分離培養法、抗原検出法、核酸検出法(遺伝子診断)に大別されます。

 

抗原検出方法として重要なのは感度と特異性です。感度とは極わずかのクラミジアに反応すれば感度が高いということになり、特異性とはクラミジアのみを検出しその他の微生物には全く反応しないことです。診断を確実にするためにはこの両者が必要となります。

 

■細胞分離培養法

クラミジアは偏性細胞寄生性の生物であるために、一般細菌と同様に寒天培地で培養することは出来ません。培養するためには生きた細胞が必要になり、組織培養のための設備と時間が必要になり、極めて煩雑で熟練を要します。そのために最近では行われず、極めて高感度な診断法として遺伝子診断法が開発され一般的に利用されるようになりました。

 

●抗原検出法:イデイアクラミジア法

C.trachomatis(トラコマチス) L2株の属特異的モノクロナール抗体と専用綿棒擦過検体中のクラミジア抗原とを反応させ、酵素抗体法により発色させ吸光度を測定して判定するために高い客観性を有しています。また、手技も比較的容易であり、感度も高いのが実情です。属全てに反応し一部球菌との交差反応の可能性を認めますが、臨床的には問題にはなりません。

 

●抗原検出法:クラミジアザイム法

クラミジア属特異的ポリクロナール抗体を用いた酵素抗体法です。しかし、イデイアクラミジア法よりも特異性が劣り、ナイセリア属やグラム陰性桿菌との交差反応も認めるために、鼻咽頭や直腸などの検査には向きません。

 

●遺伝子診断法:DNAプローブ法

C.trachomatis(トラコマチス)に特異的な遺伝子の一部分の存在を確認する検査法です。擦過検体中のC.trachomatisリボゾームRNAに特異的なDNAプローブを結合させ、その結合体を発光させてその強度で判定。特異性は極めて高く手技も容易です。また、1本の擦過検体で淋菌の検査も可能です。

 

●遺伝子診断法:PCR法・LCR法

DNA プローブ法と同様に遺伝子診断法です。PCR(Polymerase Chain Reaction) 法、LCR(Ligase Chain Reaction)法はともに極めて高感度であり、またその特異性も極めて高く、1本の擦過検体で淋菌の検査も可能です。

 

抗体検査法(血清学的診断法)

クラミジア抗体の臨床的意義としては、①感染細胞の採取が困難な深部感染症(骨盤内感染・腹腔内感染・呼吸器感染症)の診断、②抗原検査の施行を決定する前検査法、③多数対象に対する血清疫学調査法などが挙げられます。

 

抗体検査は、抗原検査が困難な症例に対する補助診断としてはその利用価値はありますが、確定診断ではありません。クラミジア感染は子宮頸管、子宮内膜、卵管上皮さらに腹水中へと上行性に進んで行くために、慢性感染症へと移行した症例では、子宮頸管内に抗原が証明されないことが少なくありません。このような場合には、クラミジア抗体測定による血清学的診断が参考になります。

 

IgG抗体、IgA抗体、IgM抗体の3種が測定できますが、その臨床的意義に関してはさまざまな議論があります。血清IgG抗体はクラミジア感染の既往を意味します。かつてIgA抗体が陽性の場合には「活動性感染」を意味していると診断された時もありましたが、その意義は不明確です。

 

最近問題になっているのは持続感染です。治療が不十分な場合にはもちろんですが、十分な治療を行ったにもかかわらず持続感染が問題になる症例もあります。このような症例は抗体価の下降が不良のことが多く、抗体価の下降不良の症例は持続感染に注意しなければなりませんが、「下降不良」の明確な医学的定義は確立されていません。

 

 

クラミジアの治療

 

まず感染の予防が重要ですが、一旦感染が起こってしまった場合には、当然カップルで同時に早期診断、早期治療をすることが重要となります。

 

クラミジアは抗生物質に対する感受性を有し、テトラサイクリンやマクロライド系の抗菌剤が用いられ、ほかにもニューキノロン剤や、妊婦に対してはエリスロマイシン、クラリスロマイシンなどが用いられます。

 

持続性感染(慢性感染)の防止のためには、指定された薬剤をきちんと服用することが重要でとなります。明確な治癒判定基準は確立されていませんが、抗体値を参考にしながら抗原の消失よってなされるのが理想です。

 

クラミジア・トラコマチス感染症の治療薬(内服薬)

 

クラミジアのライフサイクルは特有であり、細胞の食菌作用により宿主細胞に取り込まれます。この段階では感染性のある基本小体 elemental body (EB)と呼ばれる直径約300nmの小粒子です。

 

これが細胞内で非感染性の増殖型粒子である網様体 reticurate body (RB) となり分裂増殖をし、再び基本小体(EB)に変化するという独特な増殖環を持っています。この増殖サイクルは2〜3日間であるとされています。

 

上記の抗生物質は、網様体reticurate bodyが増殖する1〜2日間に作用するので、クラミジアを完全に消滅させるためには増殖期に3〜4回作用し続けなくてはならず、そのため14日間程度の継続投与が必要とされていました。しかし、この明確な根拠はなく7日間投与で有効であるとの説もあります。

 

いずれにせよ一定期間(一日当たりの投与量が異なりますが日本では14日間、アメリカでは7日間とする考えが主流)にわたって、きちんと服用すると治療効果は十分であるとされています。

 

しかし、自覚症状がほとんどないために、時として服用忘れがある事も予想されますが、完治のためにはきちんと服用すべきです。なお、妊娠あるいは妊娠している可能性のある方に対しては、副作用の関係からエリスロマイシンやクラリスロマイシンが選択されます。

 

■パートナーへの投薬

性感染症の性質上、パートナーへの投薬は当然です。それぞれが治療したとしても別々に行っても意味がなく、同時に行うことがいわゆるピンポン感染の防止のために重要です。また、両者とも服薬が終了し、治癒確認がなされるまでは性交渉を避けることが必要不可欠です。

女性あるいは男性の片方がクラミジア感染の診断を受けたにもかかわらず、他方が感染を確認されなかったり、陰性と診断された場合にも、両者同時に治療することが重要です。

 

■治癒の確認

明確な治癒判定基準は確立されていません。クラミジア抗原の検出によってクラミジア感染が診断された場合には、治療後に抗原の消失をもってなされるべきですが、PCR法などの遺伝子診断法は感度が極めて鋭敏なために、治癒確認の抗原検査は薬剤終了後およそ3週間おくべきであるとされています。

なぜなら、治療後2週間以内は死菌を検出して偽陽性の結果を与えかねないからです。抗体の検出によって感染が示唆された症例は、薬剤の投与後に抗体価の推移を長期的にみるしかありません。

また、IgG抗体、IgA抗体、IgM抗体の抗体価は時とともに下降するのが一般的ですが、下降不良や持続性高値の場合には持続性感染・慢性感染の可能性が考えられるために、注意深くフォローアップする必要があります。

 

■再感染の予防

クラミジア感染既往者は一般的に再感染のリスクが高い傾向にあります。そのためにコンドームの使用などにより再感染予防に努めるべきです。また、クラミジア感染は自覚症状が乏しいために、自覚症状がなくても、また再感染の可能性が少なくても既往者は定期的に検査を行うことが重要となります。

 

■性感染症の社会的問題点

性器クラミジア感染症のみならず一般的に性感染症の場合には、感染の診断がセックス・パートナーとの人間関係の破綻につながりかねないこともあります。第三者を感染源とすることが予測されるからであり、離婚問題や婚約破棄につながりかねないわけです。医学的にはわずかに偽陽性(検査過程での誤差)の場合もありますが、感情的にならず冷静な対応が必要です。