がんには痛みがつきものであり、激しい痛みによってQOL(生活の質)が著しく低下する患者さんは少なくありません。そのため、医療の現場においては、いかに安全に痛みを取り除けるかが課題となっています。

 現在では、どのように痛みを取り除く処置が行われているのか、一般の方には分からないことも多いと思いますので、ここでは「がんの痛み」をテーマに、詳しく説明していきたいと思います。

 

 

がんの痛みとは?

 

 一般的に、早期のがん患者の3分の1に痛みが生じると言われています。痛みがあると、体を動かすのか億劫になったり、気力や意欲もそがれます。また、食欲がなくなり、よく眠ることができません。さらに、仕事や身の回りの世話など、自立した生活ができなくなります。

 WHO(世界保健機構)では、1986年に「がんの痛みからの解放(第1版)」というガイドラインを定め、世界中の人々が等しくがんの痛みから解放されることを訴えました。がんの痛みを取り除き、人間らしさを取り戻すことは患者の権利であると謳っています。

 がんの痛みはさまざまな療法によって取り除くことができ、WHO方式がん疼痛治療法では、およそ70~80%の痛みが取り除かれるといわれています。また神経ブロックなどを使用するとさらに多くの痛みを取り除くことが可能です。

 

痛みの種類

 がんの痛みの原因にはさまざまなものがあります。主なものとしては、

  • がんが組織に広がって痛みが出る場合。(特に神経を圧迫する場合、骨への転移、リンパ浮腫などがあると強い痛みがおきます。)
  • がんで寝たきりになったための関節痛、縟瘡による痛み。
  • がんの治療のための手術の傷跡、抗がん剤や放射線療法による口内炎などの痛み。
  • 帯状疱疹など、がんのときにかかりやすい病気やもともとある病気の痛みなど。
  • 心理的な影響、がんに対する恐れや緊張、あるいはうつ状態といった、精神的な不安が身体的な痛みをより一層強くします。

 

 このように、がんの痛みの原因はさまざまであり、人によって痛みの種類は異なります。がんに対しては主に抗がん剤を用いて治療していきますが、この治療に加えて、潜在する痛みを和らげることも非常に大切なものとなっているのです。

 

 

現在行われている痛みを和らげる治療

 

 痛みは他の症状のように検査して数値ではかることができず、患者さんが訴えなければわかりません。そのため、我慢せず、また遠慮せず看護師や医師に訴えて下さい。また上手に痛みの具合を説明するために、「いつから」、「どこが」、「どうしたら」、「どんなふうに」、「どの位」痛むと具体的に伝えてください。そこから痛み治療の第一歩が始まります。

■いつから

1時間前、昨日から、1週間前から、1か月前から、など

■どこが

頭が、胸が、腹全体が、腕が、腰が、など

■どうしたら

首を動かしたら、寝返りしたら、立ち上がったら、重いものを持ったら、食べ物をのみこんだら、排便したら、など

■どんなふうに

重苦しく、つっぱったように、裂けるように、針で刺されるように、など

■どの位

夜眠れない位、歩けない位、じっとしていられない位、何も考えられない位、など

 

 これらは、痛みの原因を特定するためにも非常に重要な情報となります。看護師も医師も、患者さんの痛みを少しでも取り除けるよう努力していますので、分かる限りの情報を提供してください。

 

早い時期に痛みの治療を

 「痛みを我慢しなければ」、「痛み止めを早くから使うと効果がなくなってしまう」、「モルヒネは中毒を起こす恐い薬」・・・という誤解が患者さんをはじめ、医師にも看護師や薬剤師にもまだまだあります。痛みは治療や日常生活を妨げます。痛みは我慢し切れなくなる程強くなるとその治療も時間がかかります。なるべく早く治療を開始するべきです。

 治療は最初は一般的な鎮痛薬、次いで強さに応じてモルヒネなどの医療用麻薬(オピオイドと呼ばれています)が使用されます。がんと診断されたら、痛みがでる前に情報を集め、予め痛みの治療法の説明をうけるなど、痛みが起きてからどうしようと悩まないよう、知識を身に付けておきましょう

 

痛みの治療の基本

①痛みの原因を取り除く

痛みの原因であるがんを手術で取り除いたり、抗がん剤や放射線でがんを治療するのが痛みを軽くする基本的な方法です。がん自体への治療前の痛み、治療中の痛みに対しても積極的な疼痛治療が必要です。

 

②鎮痛薬を使う治療法

一般的な治療法は鎮痛薬を使用する方法です。鎮痛薬を使用する場合、普通に痛み止めとして使用されている鎮痛薬に加えて医療用麻薬を痛みの強さに応じて増量していく方法が取られています。

 

③その他の治療法

その他には神経ブロック(神経の近くに麻酔薬を注射する)、鍼やマッサージ、ストレスや心の病に対しての治療が必要な場合があります。

 

痛みの治療の進み方

 痛みが満足のいく状態まで軽減されることがまず必要です。医師の説明を十分に受け、自分の納得のいく治療法を選びましょう。薬を使う場合は、医師や薬剤師から薬の説明をよく聞き、薬の効き目の現れ方、副作用への対処法を理解しましょう。

 また実際に薬を使用してどのように効いたか、患者さん自身で評価してください。痛み除去の薬物療法の特徴は、患者さんの痛みに合わせて薬剤の量や種類を決めていくところにあります。満足の行くコントロールが得られることが基本です。

 

 

WHO式がん性疼痛治療

 

 戦後から1980年代にかけて、世界中でがんで亡くなる方が増加しました。日本も例外ではなく1981年から現在にいたるまで、がんが死亡順位の第一位を占めています。当時は、MSコンチンなどの長時間作用型の経口オピオイド鎮痛薬もなく、アヘン戦争などで培われたモルヒネに対する誤解や偏見も根強く残っていました。モルヒネは死の間際にようやく投与されていました。

 患者さんは痛み治療も十分ないまま、最後まで治療を継続し、苦しい闘病を強いられていました。 日本で本格的に緩和病棟やホスピスが作られ、痛み治療が広く行われるようになったのは「WHO方式がん疼痛治療法」が日本にもたらされてからでした。

 

「WHO方式がん疼痛治療法」の導入

 「WHO方式がん疼痛治療法」は、1986年「がんの痛みからの解放(第1版)」として世界に発表されました。1996年には第2版が出されました。

 がん患者は痛み治療をがん治療と並行して受ける必要があり、患者の精神面-不安、恐怖、うつ状態、絶望感-社会面、死生観なども合わせて、患者の満足のできる痛みからの解放が必要であること、「がんの痛みは治療できる症状であり、治療すべき症状である」、「痛みからの解放は患者の生きる権利であり、医師の義務である」と訴えました。現在の日本の痛み治療は基本的に「WHO方式がん疼痛治療法」の考え方を踏襲しています。

 

「WHO方式がん疼痛治療法」とは

 「WHO方式がん疼痛治療法」は「痛みの診断」、「治療戦略」、「鎮痛薬の使用法」、「鎮痛薬の選択」から構成されています。13項目にわたる治療の指針から治療の骨子となる9項目を以下に示します。

 

■痛みのマネジメントについて

①マネジメントの第一段階では、詳しい問診とていねいな診察とを行い、痛みについて次の点を確認する。

  • がん自体が原因となった痛みか、がんに関連した痛みか、がん治療による痛みか、併発症による痛みか。
  • がん特有の症候群の一部としての痛みか。
  • 侵害受容性の痛みか、神経障害性の痛みか、それとも両者が混在した痛みか。

 

②痛みの治療は、説明から始めるべきであり、身体面へのアプローチと精神面へのアプローチが必要である。

  • これらのアプローチには薬による治療と薬以外の治療法の双方が用いられる。

 

③痛みのマネジメントで大切なことは、次のような段階的な目標を設定することである。

  • 痛みに妨げられない睡眠時間の確保
  • 安静にしていれば痛みが消えている状態の確保
  • 起立したり、身体を動かしたりしても痛みが消えている状態の確保

 

④がん自体による痛みは、適切な薬が適切な量で適切な時間間隔で投与されると、薬の使用のみによって十分な鎮痛が得られるのが普通である。

 

痛み治療の5原則

①経口的に

モルヒネを始めとする鎮痛薬は、経口投与とすることがもっとも望ましい。

 

②時刻を決めて規則正しく投与

痛みが持続性であるときには、時刻を決めて規則正しく投与する。頓用方式の投与を行ってはならない。

 

③除痛ラダーにそって効力の順に

鎮痛薬を除痛ラダーにしたがって順次選択していく。

  • 痛みが強くないときには、非オピオイド鎮痛薬を使い、必要に応じて最大投与量に向けて増量する。
  • 非オピオイド鎮痛薬が十分な効果をあげないときには、非オピオイド鎮痛薬に追加してオピオイドを処方する。
  • コデインを始めとする軽度から中等度の強さに用いるオピオイド鎮痛薬が十分な効果をあげないときには、モルヒネをはじめとする中等度から高度の強さの痛みに用いるオピオイド鎮痛薬を代わりに用いる。

 

④患者ごとの個別的な量で

鎮痛薬の適切な投与量とは、治療対象となった痛みが消える量である。その量は患者ごとに異なり、経口モルヒネについてみると、4時間ごとの反復投与における1回量が5mgから1,000mg以上にわたる。

 

⑤そのうえで細かい配慮を

患者にとって最良の鎮痛が得られ、副作用が最小となるように治療を進めるには、治療による患者の痛みの変化を監視し続けていくことが大切である。

 

 

医療用麻薬について

 

 上ですでに述べたように、がんにはさまざまな痛みがつきまといます。こうした痛みのコントールには、医療用麻薬が使用されています。麻薬というと依存性があるものと認識されていますが、医療用で用いる麻薬は少量投与が原則であり、また痛みがある状態で投与した場合には、依存しないことが分かっています。

 患者さんの中には、麻薬に対して強い抵抗がある方もいらっしゃいますが、上記のように依存性はなく、痛みのコントロールがスムーズであることから、治癒までの間は積極的に活用していただきたいものとなっています。

 もちろん、医師との話し合いの中で決定しますので、どうしても麻酔に対して抵抗のある方は、他の処置を実施しますので、ご安心ください。

 

モルヒネなどのオピオイド鎮痛剤について

 モルヒネをはじめとする医療用麻薬はオピオイド鎮痛薬とも呼ばれています。 医療用麻薬を代表するモルヒネはあへん(阿片)から作られます。けし坊主を傷つけるとそこからしみ出してくる粘液を固めて作ったものがあへん(阿片)です。また生体内のオピオイド受容体に作用する物質を総称してオピオイドと呼びます。

 モルヒネはオピオイド受容体に結合して鎮痛効果をあらわすオピオイド鎮痛薬の代表的なものです。オピオイド鎮痛薬には色々な種類があります。モルヒネの他にコデイン、フェンタニル、オキシコドン、ブプレノルフィンなどがあります。

 

有効限界がないこと

 WHOのガイドラインである「がんの痛みからの解放-WHO方式がん疼痛治療法-第二版*」には「複数の研究によって、モルヒネと一部のオピオイド鎮痛薬には有効限界(ceiling effect)がないことが明らかにされています。

 モルヒネは、患者の痛みが緩和するまで増量できる薬であり、副作用に患者が耐えられる量である限り過量投与となることがない薬です。

 また、モルヒネには標準投与量というものがなく、モルヒネの適切な投与量とは、痛みを消失させる程度の量のことで、この適切な量が患者ごとに異なるため、少数の患者で痛みの除去に必要な1日分の経口投与量が数千mg以上となることがあると、有効限界がないことを記載しています。これはオピオイド鎮痛薬の他の薬剤にはない基本的特性です。

 

不安や誤解のために

 主なオピオイド鎮痛薬に対する代表的な「依存性」「耐性」「致死性」などの不安や誤解について、以下に解説します。

 

■モルヒネ中毒になる?

医療用として痛み止めに適正に使用される場合、精神的な依存性(いわゆる薬物中毒;異常に薬剤に執着する状態)はほとんどみられません。いつでも中止や減量が可能です。しかしそのときに身体的依存症状(退薬症候群;倦怠感、不安、不眠、興奮など)が発現することがあります。が、徐々に減量することによりそれらの症状を避けることができます。

 

■使用を継続すると耐性が生じて、どんどん効かなくなる?

耐性が生じることがあります。しかし実際に耐性が生じてオピオイド鎮痛薬が使いにくくなることは実際には少ないと考えられています。オピオイド鎮痛薬を使用しているにも関わらず、痛みが強く感じられる場合、まず痛みそのものが病状によって強くなったことが考えられます。

そのときはオピオイド鎮痛薬を痛みがなくなるまで増量します。それでも痛みが消失しない場合はオピオイド鎮痛薬が無効の新たな痛みが生じたと考えられますので、それに対する治療を開始します。

 

■モルヒネが使われだすとすぐ死ぬ?

これは20年程前、使いやすいオピオイド鎮痛薬がまだなく(当時は短時間作用型の経口薬や注射剤しかありませんでした)、またモルヒネが誤解され、恐れられていたため、死の直前になってようやく使用されたために生じた誤解と考えられます。

現在ではがん治療の早期からオピオイド鎮痛薬が使用されるケースが増加しつつあります。痛みを上手にコントロールすれば、がんの治療を成功させ、社会復帰を果たすことも可能です。緩和医療はもちろん、より良く生きるために必須な薬剤なのです。

 

 

痛みに対する薬物療法

 

 軽度~中程度の痛みに対しては、アスピリンやNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)、アセトアミノフェンの経口剤(経口不可能なときは坐剤)を使用します。

 これらの薬剤は鎮痛作用だけでなく抗炎症作用や解熱作用も持っています。関節痛や腰の痛み、抜歯後の痛み等に使われるお馴染みのものです。NSAIDsでよく使用されているものには、ロキソニン、ボルタレン、ソレトン、ハイペン、ロルカム、オステラック、モービック(以上製品名)などがあります。それぞれ作用の強度、作用発現の時間、作用の持続時間、副作用などが異なります。

 これらの鎮痛剤が単剤で効かないとき、さらにNSAIDsを追加するのではなく、弱いオピオイド鎮痛薬であるリン酸コデイン、低用量から始められるオピオイド鎮痛薬のオキシコンチン5mg錠などを追加します。

 

 強い痛みが出現したときは強オピオイド鎮痛薬を使用します。モルヒネ製剤の主なものにMSコンチン、MSツワイスロン、カディアン、モルヒネでないものにオキシコンチン、デュロテップ(以上製品名)などがあります。炎症性の痛みに対応するためには、NSAIDsを強オピオイド鎮痛薬に併用します。

 弱いオピオイド鎮痛薬であるリン酸コデインには、効力に上限があるため、強い痛みには使用できません。痛みが抑えられないようでしたら、強オピオイド鎮痛薬に変更します。オキシコンチンはそのまま継続し、増量で対応することができます。

 

 強い痛みに対応する場合、痛みの強さにあわせて、オピオイド鎮痛薬の量を加減する必要があります。それぞれの痛みにあわせてオピオイド鎮痛薬の量を増減しながら決めます。経口剤投与が基本ですが、患者の条件に合わせて貼付剤や坐剤を選択します。

 用量の設定がうまくいって鎮痛効果が安定していても突然痛みが襲うことがありますが、このときは速効性のモルヒネ(モルヒネ水)、オキノーム(製品名)などを使用して対応します。

 

鎮痛補助薬

 NSAIDsやオピオイド鎮痛薬の使用が痛みの除去の基本になりますが、さらにいろいろな薬剤を併用することにより痛みを和らげ、オピオイド鎮痛薬の使用量を減らすことができる場合があります。これを鎮痛補助薬といいます。

 痛みが強いと交感神経が興奮して益々痛みがひどくなり、また気持ちが痛みに集中し、緊張、不安、恐怖が強くなります。また痛みのために不眠となり消耗してしまいます。これらの対策のために抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などを早期から使用します。オピオイド鎮痛薬にこれらの薬剤を併用すると、オピオイド鎮痛薬の量を減量できる場合があります。

 また神経そのものが障害されて出現する痛み、骨転移に伴う痛みなどはオピオイド鎮痛薬が効きにくい痛みです。神経障害性の痛みには三環系抗うつ薬、副腎皮質ステロイドなど、骨転移にはビスフォスフォネートが有効である場合があります。

 

副作用について

 いずれの薬剤も副作用が報告されています。副作用の出現には注意が必要です。特にモルヒネには便秘や吐き気の副作用がかなりの高頻度で出現します。副作用を上手に乗り切る事が痛みの除去の成功の鍵になることもあります。

 予想できる副作用に対しては事前によく理解し、便秘には食事療法や緩下剤、吐き気には制吐剤をうまく使ってコントロールしていきます。

 

 

さいごに

 

 がんに痛みはつきものであり、激しい痛みに襲われることも少なくないため、根本的な治療に加えて痛みのコントールも積極的に行っていく必要があります。がんの痛みをコントールするためには医療用麻薬が第一選択となりますが、医療の範囲内で使用するため、依存性や耐性、致死性などについて心配する必要はありません。

 もちろん、医療用麻薬は100%安全なものではなく、副作用は高頻度で発現し、副作用が原因となって苦痛を感じることもあります。その場合は、医療用麻薬の投与量を減らしたり、そのほか薬物を用いないさまざまな手段によって、痛みのコントロールを行いますので、少しでも痛みがある場合には、看護師や医師に伝えるようにしていただければと思います。