おっぱいが赤く腫れているときで考えなければいけない疾患としては、大きく分けて、炎症により赤く腫れている「炎症性疾患」と「乳癌の進行した状態」の二種類があります。炎症性疾患(良性)と進行した乳癌(悪性)の鑑別診断をしっかりして、どちらにしてもおっぱいが赤く腫れているときはすぐに乳腺専門医のいる病院へ受診しましょう。

 

悲劇的な例ですが、授乳期の患者さんの中で、進行性の乳癌を発症していながら急性乳腺炎としてそのまま乳房マッサージを受けて、なかなか治らないので乳腺専門医を受診するも手をつけられない状態となり、受診後半年で亡くなられた方もいます。そういうことにならないためにも、乳腺炎で治療を受けても改善のない場合は乳癌の可能性を考慮にいれ、乳腺専門医を受診することをお勧めします。

 

 

原因1「炎症性疾患」

 

おっぱいが赤くて疼痛を伴なう場合、たいていは「急性乳腺炎」、もしくは「乳輪下膿瘍」の場合が多く、これらの疾患が大半を占めています。

 

①急性乳腺炎

急性乳腺症は、主に初産婦の授乳開始2〜3週間後にみられる病変です。授乳期にみられる場合は、授乳による乳頭や乳頭周囲の皮膚の小外傷に細菌の感染が加わって生じたり、また乳管が閉塞することにより生じたりします。乳房には発赤、疼痛、腫脹を認め、授乳期以外でも発生します。授乳期であれば搾乳、それ以外であれば主に抗生物質で治療を行っていきます。

 

■特徴と症状

  • 出産後早期(2〜3週目)に乳汁分泌量が急激に増加する時期に発症する
  • 原因は乳汁排泄不良による乳汁鬱滞
  • 乳汁鬱滞に細菌感染が加わると急性化膿性乳腺炎になる
  • 症状は乳房の疼痛、発赤、腫脹、腫瘤、硬結、熱感
  • 全身症状としては発熱、時に悪寒戦慄を伴なう場合もある
  • 鑑別診断として炎症性乳癌がとてもとても重要である
  • 授乳期以外でも起ります

 

■治療方針

明らかな膿瘍(膿のたまり)がある場合、切開し膿を出す+抗生物質内服あるいは点滴を行います。明らかな膿瘍(膿のたまり)がない場合、抗生物質内服あるいは点滴+局所の冷湿布+搾乳あるいは授乳を行い治療していきます。

 

■予防策

授乳期の場合には、一番良いのは直接子供におっぱいを飲んでもらい、乳管をしっかり開大させることです。また乳房マッサージをして乳汁の鬱滞を防ぐことも大切です。

 

②乳輪下膿瘍

急性乳腺炎が進行すると乳腺組織の壊死や膿瘍形成を伴います。この状態を乳輪下膿瘍といいます。抗生物質投与と膿瘍の切開排膿によって治療を行いますが、長期にわたって再発を繰り返すことが多いため、気長な治療が必要不可欠となります。

 

■特徴と症状

  • 非授乳期乳腺炎の中で最も頻度が高い
  • 陥没乳頭を伴なう事が多い
  • 数ヶ月から数年の単位で再発を繰り返す
  • 症状としては乳輪直下の硬結と膿瘍(膿のたまり)形成
  • しばしば膿瘍は自壊し瘻孔(通路)形成する
  • 急性乳腺炎と異なり全身症状は少ない

 

■治療方針

炎症の活動期には乳輪下の膿瘍に対する切開排膿(膿を切って出す)と、抗生物質を投与すると一見治癒したかのように見えますが、その後、再発を繰り返す例が多くあります。乳輪下膿瘍で病院を受診する患者さんの多くは、今までに何度も切開排膿を繰り返した方が多い傾向にあります。

根治術は膿瘍と瘻孔に加え病巣乳管を完全に切除する事が必要になります。ですので、よくあるケースは不適切な切開排膿と抗生物質投与で再発を繰り返し、難知性になりどうしようもなく専門医を受診するケースが少なくありません。乳輪下膿瘍が疑われる場合は、はじめから乳腺専門医を受診される事をお勧めします。

 

③乳管拡張症

日本人には頻度は少ないですが、閉経期前後の女性において拡張した乳管とその乳管中の分泌物の貯留を特徴とします。乳腺の分泌過剰などの機能的異常に伴うもの、乳管周囲の炎症、乳頭腫や乳頭腫など、さまざまな原因によって発現。おっぱいがやや赤く腫れ、乳頭から分泌液が出る場合には、乳管拡張症の可能性があります。

 

■特徴と症状

  • 50歳以降の閉経期前後の女性に多い
  • 自覚症状がない場合が多い
  • 乳頭から乳汁のような分泌液がでることがある
  • 乳汁が茶褐色または血液混入の場合は悪性腫瘍の可能性も

 

■治療方針

非腫瘍性のものであれば、治療はほとんど必要ありません。ただし、乳管拡張症は将来乳がんを発症するリスクがある病変と考えている病理医もいるので、乳がん検診を欠かさず受診することが重要です。良性腫瘍あるいは炎症性のものであることがはっきり確認できれば、これも経過観察でかまいません。悪性腫瘍が原因であれば、根治的な治療を行います。

 

 

原因2「進行性乳がん」

 

おっぱいが赤く腫れていて進行性乳癌の場合には、”オレンジの皮症状”と呼ばれる特徴的な所見があります。これは乳房全体の毛穴のくぼみが目立ち、オレンジの皮のように見える症状です。

 

乳房皮膚のすぐ下にリンパ管があるのですが、そこに癌が浸潤すると皮下のリンパの流れが妨げられ、乳房の皮膚にむくみが生じます。これによって、乳房の毛穴のへこみが目立つようになり、乳房の皮膚がオレンジの皮のように見えてくるのです。この症状は乳癌の初期症状ではなく、「局所進行乳癌」と呼ばれる種類の症状で、ここまで変化が起こると予後は必ずしも良くありません。

 

また、このような状態の乳癌を「炎症性乳癌」といいます。 おっぱいが赤くて進行性乳癌の場合は、急性乳腺炎と比較してズキズキした痛みがない場合が多い傾向にあります。ただし、乳癌が大きく局所の圧排症状として疼痛を伴なう場合はありますので注意が必要です。

 

そのほか、赤く腫れると同時に乳房全体または局所的に痛みや張りが伴うことがあり、乳頭(乳首)から汁のような分泌液がでることがあります。透明・白色・黄色であれば基本的に問題はありませんが、「赤色」・「茶褐色」・「黒色」・「緑色」の場合は、なにかしらの病気の可能性があります。いずれにせよ、おっぱいが赤く腫れている場合はすぐに乳腺専門医を受診してください。