低肺機能すなわち呼吸機能障害は、その大半が不可逆性の肺構造の破壊〜変化により、完全に治癒することはまず期待できません。そのため、低肺機能の医学的管理、日常生活管理の第一目標は、残された肺機能を可能な限り有効に機能させ、少しでも制限の少ない生活を有意義に送ることにあります。

 

ここではまず、呼吸機能障害による入院(その大半は、慢性呼吸不全の急性増悪であるが)から退院までの治療過程の概要について簡略的に解説し、さらに、退院後または入院を要しない呼吸機能障害とつきあいながら、いかに自己管理をおこない、日常生活において注意をしていくかを中心に述べていきたいと思います。

 

 

呼吸器のしくみと呼吸機能障害をきたす疾患

 

呼吸器は肺が膨らんだり縮んだりを繰り返すことにより、空気中の酸素を取り入れ、体内の二酸化炭素を排出する大切な働きをしています。呼吸器には、吸ったり吐いたりしたときの空気の通り道である気道系と、吸い込んだ空気から血液中に酸素をとりこみ、一方で血液から二酸化炭素を排泄する役割をもった肺胞系からなっています。呼吸機能障害はこの2つの働きのいずれか、または両方が十分に機能しえなくなったときに発症する障害です。

 

■慢性肺気腫

慢性肺気腫の大半は、長年の喫煙によって、酸素を取り込む役割を果たす肺胞が、破れて癒合することにより発現します。そのほかに、先天的にα1-アンチトリプシンという物質が先天的に欠損していたり、肺結核や肺炎が治って収縮した後に、残された肺がその収縮を補うようにして肺が伸びきってしまう(代償性肺気腫)場合もあります。いずれにしても、肺が使い古したゴム風船のように伸びきってしまい、力強く縮むことができないため、肺胞への空気の出入りが悪くなることで、息切れが現れます。

 

■慢性気管支炎・び慢性汎細気管支炎・気管支拡張症

これらの疾患は、慢性下気道疾患で、空気の通り道である気管支の壁が厚くなったり、潰れ易くなることにより、痰が溜まりやすくなり、空気が通りにくくなることにより、息切れが現れます。

 

■肺結核後遺症

結核の治った部分の肺が縮んだり、肺を被っている胸膜が厚くなったり(かつて肋膜と呼ばれていたもの)、あるいは手術による胸郭の変形により、肺が十分に膨らむことができず、必要なだけの空気が出入りできない状態です。

 

■塵肺、肺線維症(間質性肺炎)

肺胞と肺胞の間に、線維(本来組織と組織をつなぐような丈夫で伸びにくい物質)がたくさんできて、このために肺全体が硬くなって縮んでしまい、膨らみにくくなることにより、空気が出入りできなくなり、さらに線維が邪魔をして、酸素を血液中に取り込みにくくなる病気です。

 

■その他

そのほかにも、慢性的な気管支喘息、肺癌、肺胞蛋白症、種々の肉芽腫症などでも、呼吸機能障害をきたすことがあります。

 

 

入院から退院までの過程

 

呼吸機能障害はいつやってくるのか

呼吸機能障害は突然にやってくるものではなく、長い年月をかけてじわりじわりと形成されていきます。つまり、心筋梗塞や脳卒中のように、何の前触れもなく突然おこるのではなく、「若い頃に比べて、少し走ったり、階段を急いで登ると、息切れや動悸がする」といったような何気ない症状から始まります。

 

この時期に呼吸器専門医療機関を受診すれば、早期に病気を発見でき、早い時期から呼吸機能障害に対する対策をたてることが可能です。しかし、多くの呼吸機能障害を有する患者さんは、検診で発見されて呼び出されるか、「休んでいても呼吸が苦しくてたまらない」ような重症になって受診しているのが実情です。

 

発症から入院まで

救急入院、緊急入院で最も多いのが、慢性呼吸不全の急性増悪といわれるものです。このような場合、既に呼吸機能障害は完成していて、病気の診断がついていますが、気道感染を合併することにより、急に呼吸困難症状が増強します。

 

つまり、低下している呼吸機能が、感染によって肺胞や気管支に分泌物が貯留して、より機能が低下し、酸素不足となって息切れが強くなるのです。場合によっては、二酸化炭素が血液中に溜まって意識不明になることがあり、こうなると生命そのものが危険にさらされることになりえます。

 

集中治療室にて

厚生省呼吸不全研究班の基準によれば、動脈の中の酸素の量が60mmHg以下の時に呼吸不全と呼ぶことになっていますが、意識低下をきたした場合は、呼吸不全の中でも重症中の重症で、直ちに気管に管をいれて、レスピレータと呼ばれる機械をつけて人工呼吸をしなければなりません。もちろんほとんどの場合、この治療はICUとかRCUと呼ばれる集中治療室で行われます。

 

気管に管を入れるため、口から食事をとることができないので、心臓近くの血管の中へ管をいれて(中心静脈栄養)、栄養分を補ったり、鼻から胃まで管を入れて栄養剤を注入します。気管支に痰が溜まっていれば、吸引器や気管支鏡を用いて痰をとることになります。

 

これらの治療は医師や看護師にとっても大変な仕事ですが、いちばんつらく、苦しく大変なのは患者さん自身であり、次に大変なのが、心配して付き添っている家族であるのは言うまでもありません。したがって、自分自身の病状、病態をよく理解し、このような状態になる前に早めに医療機関を受診することが大切です。

 

人工呼吸器からの離脱と呼吸リハビリテーション

自力である程度の呼吸ができるようになると、少しずつ機械による呼吸を減らして、患者さん自身の自発呼吸を増やし、最終的にレスピレータなしで、動脈血中の酸素の量が維持できるようになれば、管を抜くことができ、口から食べ物を摂取することも可能となります。しかし、まだまだ自力で生活することはできないため、酸素吸入をしながら、呼吸リハビリテーションといって、呼吸訓練をする必要があります。

 

これは、余計な力を入れずにリラックスすることから始め、口すぼめ呼吸、仰臥位腹式呼吸、座位、立位腹式呼吸、歩行訓練、階段昇段訓練と段階を追って進めてゆき、効率の良い日常生活動作を身につけるという、手順を踏んで行います。この間、同時に呼吸機能検査、心機能検査、心臓カテーテル、運動負荷検査など、患者さんの呼吸、心機能状態、運動予備力、合併症の有無を調べます。

 

退院へ向けて

慢性呼吸不全の場合、生活の質を向上し、日常生活範囲を広げるためにはどうしても酸素が必要になってきます。厚生省呼吸不全研究班の慢性呼吸不全の定義を満たす場合、健康保険を使って、自宅で酸素を吸うことが可能です(在宅酸素療法)。したがって、退院前に、酸素濃縮器、高圧酸素ボンベ、液体酸素ボンベ等の取扱い、保安維持、適切な酸素吸入量の理解など修得し、退院後は、原則として毎月動脈血中酸素量のチェックを医療機関で受けることが必要です。

 

 

自己管理と日常生活上の注意

 

体調を保つために注意すること

慢性呼吸器疾患があると、今までに述べたように動脈の中の酸素の量が不足し、このために疲れやすくなり、病気に対する抵抗力、特に感染に対する抵抗力が弱くなります。そのため、常に良好な体調を保つために以下のことに注意する必要があります。

 

■免疫力低下に注意

季節の変わり目など、気温が大きく変化するときなど、健康な人より風邪をひきやすいので、風邪などの感染症に特に注意が必要である。風邪をひくと、発熱、気道炎症のために、体力を消耗し、風邪にひきつづいて呼吸器二次感染症と呼ばれる細菌性の下気道感染症となる危険性が非常に高くなります。これらに対する対策として、うがいの励行が重要です。うがいは塩水でも十分ですが、薬局薬店で販売している「イソジンうがい薬」などを使用すると、さらなる消毒効果が期待できます。

 

■部屋の換気・身体の清潔を保つ

体の表面などに付着しやすい表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌は、健全者にとっては何でもない病原体ですが、慢性呼吸器疾患のある患者さんにとっては、肺炎や気道感染の原因になりうるために、体や身の回りを清潔に保つことが重要です。また、十分な休養、栄養、睡眠をとり、不規則な生活や不摂生を避けて体力を維持するように心がけ、空気の汚れているところ、ほこりの多いところは避ける、急激に温度が変化するような場所への移動は避けるなど、体調面に関しても十分に注意する必要があります。

 

■アロマテラピーを取り入れる

喘息や気管支炎などには、アロマテラピーが効果を示すことがあります。重症の場合で効果がみられない場合、憎悪する場合には即座にやめる必要がありますが、軽度の多くは高い効果を示しますので、一度試してみるとよいでしょう。(関連:喘息に効果的!!アロマテラピーの意外な効果

 

■症状発現時はすぐに医療機関へ

症状発現時において、通常より痰の量が増えたり、痰の色が透明から白や黄、褐色に変化した時、また熱や咳、息切れなど呼吸器症状がいつもよりひどいときは、気道感染を起こしている可能性が高いので、このようなときは、早目に医療機関を受診するようにしてください。

 

入浴について

入浴は身体を清潔に保ったり、疲労回復のために、特に日本人の生活習慣の中においては大切なことです。ただし、入浴すること自体が相当の酸素を消費する行為でもあるので、以下のことに注意するようにしてください。

 

■人によっては酸素吸入を同時に

在宅酸素療法を受けている患者さんは、面倒でも必ず、酸素吸入をしながら入浴しましょう。体を洗うこと自体も酸素を消費しますが、湯船につかると、胸に水圧がかかり、呼吸運動が圧迫されるので、一定の空気を吸い込むために余分なエネルギーが必要になります。したがって、入浴中こそ酸素吸入が必要です。

 

■体調のよい時間を選ぶ

体の調子の良い時間を選んで入浴するようにしてください。食事の前後1時間は入浴を避け、体調のすぐれないとき、息切れが強い時は、入浴をやめるか、シャワーや体を拭くだけにしましょう。

 

■短時間の入浴を心がける

体力の消耗を避けるために、熱いお湯、新湯は避け、短時間の入浴にしてください。浴槽に浸かっていて急に立ち上がると、起立性の低血圧が起こってふらつくことがあるので、あわてずゆっくり確実に浴槽からでましょう。当然のことながら、飲酒をして入浴することは厳禁です。なお、風呂場に椅子を置いたり、手摺をつけると安全で、体力の消耗も軽減できますので、積極的に導入しましょう。

 

■入浴後は休息を

入浴後は湯冷めをしないように、早めに髪や肌を乾かし、衣服、寝巻きをきて、ゆっくりと休んでください。

 

睡眠について

睡眠は十分にとるように心がけましょう。そのためには、日中に適度に運動することも大切です。不眠が強いときには睡眠薬、安定剤等を使うこともありますが、睡眠薬にしても安定剤にしても、その副作用として呼吸抑制作用(呼吸の働きを抑えこんでしまう作用)がありますので、使用するときは必ず医師の指示、処方を受けてください。

 

特に、肺気腫、慢性気管支炎、び慢性汎細気管支炎、気管支拡張症など、二酸化炭素が血液中にたまりやすい病気では、睡眠薬の使用により、さらに二酸化炭素がたまり、意識状態が悪くなることがあるので細心の注意が必要です。

 

日常生活上の身の回りの工夫

余計な体力、酸素の消耗を避けるために、以下のような工夫をすることも一つの方法です。

 

■ゆったりとした服装を

ボタンやホックを前で留めるような着やすいものがよいでしょう。また、医療機関を受診するときなどは、診察時に脱いだり着たりする必要がない伸縮性の良いポロシャツがよいでしょう。ポロシャツだと上に上げるだけで診察でき、診察前後に慌ててボタンを外したり、留めたりする必要がありません。女性の場合、和装は帯で胸から上腹部を締め付けることになりますので、腹式呼吸が難しくなります。そのため、できれば洋装で、しかも、ズボンやスカートは、腰骨のすぐ上で留めるような腰丈の浅いものを選んで着るようにしましょう。

 

■安全に気を付けながら着替える

椅子などに座って着替えるようにしてください。下にかがむ回数を少なくするために、座って足を組んだまま、靴下、下着、ズボン、スカートを着けるようにするとよいでしょう。

 

■整理整頓、家具配置

衣服、食器などは取り出しやすいように普段から整理しておきましょう。在宅酸素療法を行っている患者さんは、酸素供給器(酸素ボンベ、酸素濃縮器)の設置場所から酸素チューブの届く範囲に効率よく家具を配置するようにしてください。

 

自身の呼吸機能に合わせた生活パターン

呼吸機能障害がある以上、健常人を比べて運動能力にハンデを負っているのは紛れもない事実ですが、余計な意識をする必要はなく、自然体であわてず、ゆっくり、息切れが強ければ休息し、息切れがよくなれば再開するといった調子で、マイペースな生活を送るようにしましょう。

 

■余裕をもった生活を心がける

一日に必要最小限何をするのか決めておきましょう。時間のかかる仕事は、十分な期間を設けて取り組み、予定通り計画が実行できなくとも、無理せず次の日に延ばすような余裕がほしいところです。

 

■体調、体力にあわせて行動する

自分の体力、体調に見合ったことからまずはじめるようにし、最も体力があるとき、調子のいいときに、いちばん大切な仕事、最も根気のいる仕事をするようにしましょう。この時も調子がいいからといって、決して無理をしてはいけません。

 

■適度に休息をとる

適当な休息をとり、疲れを残さないように注意し、自分でできないことは誰かに協力してもらうようにしてください。

 

 

食事に関する注意事項

 

誰にとっても食事というのは生活のなかで大きな楽しみです。その一方で、慢性呼吸器疾患の患者さんでは、食欲が減退し、体重が減少していくことが多い傾向にあります。しかしながら、体調を保ち、感染に対する抵抗力をつけ、呼吸に必要な筋力を維持するには、十分な栄養が必要となりますので、食べやすい調理をする、一回あたりの量を減らして食事回数を増やすなどの工夫をして、栄養が不足しないようにすることが大切です。

 

また、栄養をとるとともに、その内容がバランスのとれた消化のよいものであることも大切なことです。いろいろな食品を含んだバランスのよい食事をとることは、体力を向上させ、病気、感染に対する抵抗力を高め、また精神的安定にも繋がります。夕食後の満足感、適度な血糖値の増加は入眠しやすくなり、十分な睡眠をとることにもなります、

 

ただし、食べ過ぎや肥満は、お腹の中の圧力が増えて、胸と腹を分けている横隔膜を胸の方に圧迫し、呼吸がしにくく余計に息苦しくなるので、ほどほどの量の食事にすることが大切です。いわゆる腹八分目を心がけるにしてください。

 

■吸入酸素量

在宅酸素療法を行っている患者さんでは、患者さん毎に、食事時に必要な酸素の流量が異なりますので、主治医の指示がある場合は、必ず指示通りの流量に切り替える必要があります。基本的に、食事をするときは、入浴と同様、眠っているときや休んでいるときより体力、酸素を消耗しやすい傾向にあります。

 

■ガスを発生させる飲食物を控える

炭酸飲料、豆、芋は腸の中でガスが発生しやすく、腸の中にガスが溜まると腹が張って横隔膜を胸の方へ押し上げ、呼吸に悪い影響を与えますので、これらの食事はできるだけ控えるようにしてください。もちろん嗜好もありますので、心がける程度で構いません。

 

■アルコールは適度に

少量の酒は食欲増進につながるので構いませんが、適量を越すと息苦しくなり、動悸が出現することがあるので注意が必要です。また、入浴前の飲酒は、のぼせたり、動悸、起立性の低血圧の原因になるので控えてください。ビールやシャンパンなど炭酸ガスの入ったものは、先に述べたように腹が張るので同様に避けるようにしてください。

 

■食後に休息をとる

リラックスして家族と一緒に楽しみながら食事を摂ることが望ましいでしょう。食後は、消化吸収をよくする意味でも、十分な休息をとるようにしてください。

 

 

禁煙について

 

喫煙は慢性呼吸器疾患の大きな原因であり、肺気腫や慢性気管支炎では統計学的にも、喫煙が原因であることが明らかにされています。喫煙を続けると、肺気腫が余計に悪化し、喘息発作を誘発し、さらには呼吸器感染症を起こしやすくするなど、呼吸器そのものに悪い影響を与えます。さらに呼吸器のみにとどまらず、循環器系では、動脈硬化、心筋梗塞、狭心症、脳卒中の原因になることは、よく知られていますし、消化器系では胃の働きが悪くなり、胃潰瘍になりやすくなります。

 

喫煙において最も怖いのは、肺がん、咽頭がん、舌がん、食道がんの誘引になることです。タバコの箱の側面に書いてある「あなたの健康を損なうおそれがありますので吸いすぎに注意しましょう」というのは、呼吸器疾患患者さんにとっては正確ではなく、実は「あなたの健康を間違いなく損なうので、絶対に吸ってはいけません」というのが真実です。そのため、治癒を望むのであれば、禁煙は必ず行わなければいけない事項なのです。

 

禁煙することの利点

先に述べたような病気になる危険が減少します。また、胸部の不快感がなくなり、咳が少なくなり、楽に呼吸ができるようになります。禁煙が成功すれば自信につながり、体調の自己管理の面からも役に立つでしょう。禁煙により食欲が増し、栄養状態も改善していきます。ただし、肥満のある人は、太りすぎに注意する必要があります。

 

タバコを吸いたくなったら

タバコを吸いたくなった時には、「待って、考えて、行動する」ことが第一に大切なことです。まず「待て」と心の中で言ってみましょう。なぜ自分が禁煙しているのかをよく考え、「自分はタバコの誘惑に勝つことができる」と言い聞かせるのです。また、歩き回る、手を絶えず動かす、深呼吸する、水やお茶を飲むなどいろいろ行動することで紛らわせる方法もあります。それでもどうしても止められなければ、禁煙パッチなどがありますので、医療機関で相談してみましょう。