明治から昭和の初期まで、日本人の死因のトップは肺結核や肺炎。呼吸器疾患がダントツでした。その後、抗生物質の普及により激減しましたが、75年あたりから再び増え始め、死亡者も増加。現在では肺炎は日本人の死因の第4位になっています。

 

むろん、高齢化が背景にあることは事実ですが、汚れた空気が複合的に拍車をかけているとはいえないでしょうか。また、近年では子供の気管支炎も増えています。(⇒子供の呼吸がおかしい・変な咳をする場合は、呼吸器の病気かも

 

 

肺の奥まで入り込んだ汚れた空気が原因

 

慢性気管支炎……急性気管支炎に比べて、あまり聞いたことがないかもしれません。急性の気管支炎が慢性化した病気かといえば、そうではありません。まったく違う病気で、かぜなどによる急性気管支炎が治らずに長引いて起こることはありません。ではいったい、慢性気管支炎とはどんな病気なのでしょうか。それにはまず、肺の仕組みについて知っておく必要があります。

 

気管支は、最初は1本の空気の通る管。でも、先に進むにつれ、次第に枝分かれしていきます。枝分かれを繰り返す回数は22回。次第に細くなり、最終的に17?22回目に至る枝分かれでは、非常に細い管になってしまいます。この細い管のことを「スモールエアウェイ」、つまり「小さな空気の道」といいます。

 

最初に枝分かれしたばかりの大きな空気の通り道には、線毛という毛が生えており、呼吸によって吸い込んだ空気中のチリやホコリ、細菌などを引っかけて、粘液に包み込んで中に入ることを防御し、外に出してしまいます。それが痰です。

 

ところが、何回も枝分かれを繰り返した小さな空気の通り道になると、そこにはもう線毛がありません。そのため、この小さな道までたどりついてしまったチリやホコリ、細菌は、もう外に出ようがありません。外に出られないまま肺のなかに停滞し、組織を傷つけ、二次的に細菌感染を起こします。

 

細菌もまた外に出る手段がないので、そこに定着しています。ところがこの細菌は、かなり狡猾で、細菌であることがわかると免疫機構が働き、殺されてしまうことを知っているかのように、バイオフィルムという皮をかぶって隠れ、共存態勢をとります。

 

ならば、永久にバイオフィルムのなかに隠れていてくれればよいのですが、糖などの細菌の栄養物が入ってくると、皮から飛び出し、組織にくっついて炎症を起こします。この繰り返しによって次第に肺機能が低下し、息切れが起こり、最終的には呼吸不全を起こします。これが慢性気管支炎という病気です。

 

 

ローソクの火を簡単に吹き消せますか?

 

慢性気管支炎とは、空気中のチリやホコリが最大の原因。つまり汚れた空気が何よりもの敵なのです。空気を汚している原因は、工場の煤煙や自動車(とくにディーゼル車)の排気ガス、スパイクタイヤによる道路掘削によるホコリ。そしてタバコの煙もまた、大きな要因になっています。

 

こうした汚染された空気を長い年月吸ってきたことにより、気管支の末端にはより多くのチリやホコリ、細菌がたまってきます。つまり長く生きること自体、慢性気管支炎にとってはリスクなのです。そのため、発病は60歳以上の人が圧倒的に多くなります。ただし、空気汚染の激しい地域に長く住んでいる人の場合には、もっと早くから発症する危険も考えられます。

 

高齢者に発症が多くなるのは、汚れた空気を吸ってきた時間に比例するばかりでなく、生体防御反応が衰えることにより、細菌に対する気管支の抵抗力が弱まることにもよります。

 

慢性気管支炎の診断は、「痰を伴う咳が1年のうち少なくても3カ月は続き、2年以上繰り返されるケース」と定義されています。高齢になると、健康な人であっても咳や痰が多くなります。一時的で治ってしまう場合には加齢肺としてとらえても問題ありませんが、それが長く続いたり、ほかの症状が加わったりした場合には、慢性気管支炎を疑いましょう。3カ月以上続いているならば、専門医に受診してください。

 

自己チェックで重要なのは、息切れです。いつもならば平気で歩ける距離なのに、息苦しくなって途中で休憩しなければたどりつけなくなったり、毎日ごくふつうに上れた階段なのに、気がついたら途中で休まないと上れなくなった……などの変化に敏感になってください。

 

息切れは心臓の病気で起こると思っていたら大間違い。肺の病気でも起こります。息切れとともに、息を吐き出すことが苦しくなり、「口すぼめ呼吸」といって口をすぼめてゆっくり吐き出す呼吸を自然に行っていることが多くなります。

 

吐く息でローソクの火が消せなくなったら、肺の慢性疾患を疑ってください。死亡率の高い病気なので、年だからなどといってあきらめてがまんしないようにしましょう。

 

この慢性の症状に発熱が加わったり、痰の色が黄色くなった場合には、慢性疾患の上に急性の炎症が加わったと考えられます。その場合には、とくに早急に治療が必要になります。微熱程度でも肺炎を起こし、急死につながることがまれではありません。

 

慢性気管支炎は、いわば肺の老化のようなもの。現在のところ、完治することは望めませんが、症状をコントロールすることは可能です。コントロールは、バイオフィルムから細菌を飛び出させないようにしたり、飛び出したとしても炎症を起こす前に殺してしまうなどを試みます。最近は、ジワジワとバイオフィルムに近づき、それを溶かしてしまう薬剤も開発され、治療効果を上げています。

 

 

最後に

 

肺炎や肺結核などの気管支炎では、痰や咳が長期的に続きますが、風邪の症状が似ていることで、病院で風邪と診断されることも少なくありません。

 

そこで、今まで以上に息苦しさや息切れがひどくなった、吹く力が弱くなるなど肺活量の低下が感じられる場合には、医師にしっかりその事を伝えてください。呼吸器疾患は治療が遅くなればなるほど治りにくくなりますので、もし医師に風邪だと判断されても、追加の診察をしてもらうよう頼む勇気も大切です。