以前の記事「妊娠中期~後期に起こりうるトラブル・病気について」で、出産前について述べましたが、今回は「出産時」におけるトラブル・病気について解説します。

 

出産前のトラブル・病気は、何かしらの症状が出現するものですが、これまでに順調にきていても、出産時に「微弱陣痛」、「遷延分娩・分娩停止」、「児頭骨盤不均衡」、「回旋異常」、「DIC」などのトラブル・病気が起こることがあります。

 

 

微弱陣痛

 

陣痛が始まると、子宮収縮は強くなり、間隔は短く、接続時間が長くなってきますが、子宮の収縮力が弱く、間隔が長く、陣痛の持続時間が短い場合をいいます。陣痛が不十分だと、お産が長引いてしまい、ママや赤ちゃんにストレスを与えます。ママに疲労が蓄積し、分娩が順調に完了する可能性も低くなります。微弱陣痛がすぐに何か影響を与えるわけではありませんが、破水している場合は、感染の心配があります。

 

分娩期に時間がかかると、赤ちゃんの頭を圧迫する時間が増えるので、低酸素状態になる可能性もあります。分娩期に、ママから胎盤が出るのが遅くなると、弛緩出血や感染の原因となります。

 

原因としては、ママの疲労がいちばん大きな要因です。または、お産に対する不安であったり、子宮筋腫や子宮奇形、前置胎盤、羊水過多などママ側の原因であったり、多胎や巨大児、回旋異常など、赤ちゃん側が原因の場合もあります。分娩監視装置で陣痛の強さや間隔、接続時間を確認し、内診や超音波検査をしたり、児頭骨盤不均衡がないか骨盤X線検査が行われたりします。回旋異常がないかなどもチェックします。

 

陣痛が遠のいた場合、歩いたり階段を上ったり下りたりすると、陣痛が強くなってくる場合もあります。ママに疲労がたまっているときは、水分や栄養補給をして休養をとります。お産に対する不安が大きいときなどは、その不安を緩和するために精神安定剤を使うこともあります。

 

分娩の進行は、個人差が大きいので、ママと赤ちゃんの状態が良好な場合は、無理をしないで時間をかけるという選択もありますが、分娩が遅れすぎた場合にはママと赤ちゃんの状態が悪化することが多いので、分娩の経過を順調にするためには、人工的に陣痛を誘発したりする場合もあります。

 

 

遷延分娩・分娩停止

 

遷延分娩とは、陣痛開始から初産で30時間以上、経産で15時間たっても赤ちゃんが生まれないことをいいます。お産が同じ状態で2時間以上ストップしてしまうことを分娩停止といい、いわゆる難産です。

 

通常、陣痛開始から初産で12~15時間、経産では6~8時間が平均的ですが、分娩時間は個人差が大きいので、数時間で終わるママもいれば、一昼夜かかるママもいます。分娩期とは、陣痛が始まってから子宮口が全開大になるまでをいい、遷延分娩の場合、分娩?期が長引くので、陣痛室で過ごす時間も長くなります。

 

分娩監視装置や内診で、陣痛の強さや感覚、接続時間を見たり、子宮口の開き具合、子宮頚管の長さややわらかさ、赤ちゃんの下がり方や回旋の向き、赤ちゃんの心拍数の確認したり、お産の進み具合を定期的にチェックします。

 

ママと赤ちゃんの状態に問題がなければ、急がずゆっくりと休みながらお産を待ちますが、赤ちゃんに異常があったり、ママに疲労がたまってしまい、お産が進まないときは、陣痛促進剤を使ったり、鉗子分娩や吸引分娩、帝王切開を行うこともあります。

 

 

陣痛促進・陣痛誘発

 

自然な陣痛が起きそうもないときに、ホルモンを抽出して作られた薬などを使って人工的に陣痛を起こします。出産予定日を2週間過ぎている過期産、前期破水をして時間がたっているときなどで、自然な陣痛が期待できないときには、陣痛誘発を行います。弱い陣痛を強くしようとするときは陣痛促進を行います。

 

陣痛促進や誘発で怖いのは、薬剤が効きすぎて、陣痛が強くなりすぎることです。とくに子宮口が開いていないのに、陣痛が急激に強くなると、子宮破裂を引き起こす可能性があり、とても危険です。

 

子宮口が開いていないときは、子宮口を開かせる処置をしてから使います。効きすぎを防止するために、分娩監視装置で陣痛の強さ、赤ちゃんの心拍数などの様子を見ながら、慎重に量を調整して使う必要があります。この薬の反応には個人差があり、促進剤による事故が問題になっていますが、陣痛をコントロールすることでママと赤ちゃんの安全を保てることも事実です。

 

子宮口が開いているのに陣痛が弱い場合は、卵膜を人工的に破る人工破膜を行うこともあります。羊水が流れ出ると陣痛が強くなりますが、前期破水同様、ここから時間がかかると感染の心配が出てくるため、お産を急がなくてはいけません。

 

 

児頭骨盤不均衡(CPD)

 

骨盤の広さに対して、赤ちゃんの頭が大きいこと。赤ちゃんが骨盤を通過するのが難しいので難産になりやすく、帝王切開になる可能性があります。お産が近づくと、ホルモンの働きでママの骨盤のつなぎ目がゆるんでいきます。そして赤ちゃんの頭は骨盤に入ると、骨を重ねて頭を小さくするので通りやすくなります。

 

しかし、骨盤が小さかったり、赤ちゃんの頭が大きかったりすると、この骨盤を通り抜けることができません。骨盤の形が三角形だったり、細長かったりしても、赤ちゃんの頭は通りにくくなります。ママが小柄な場合も要注意です。

 

臨月頃に超音波検査や骨盤X線検査などで、骨盤と赤ちゃんの頭の大きさを見て、児頭骨盤不均衡が疑われる場合、予定帝王切開になることがほとんどです。しかし、お産が始まってから、なかなか赤ちゃんが下りて来られずに、経膣分娩から緊急帝王切開に切り替えることもあります。

 

 

回旋異常

 

赤ちゃんは狭い産道を、骨盤のカーブに合わせて、頭を回旋しながら下りてきます。この回旋が正常通りにいかない状態を回旋異常といいます。

 

赤ちゃんは狭い産道を通るときに頭の骨を産道に重ね、頭を回転させながら通ります。まずあごを引く姿勢になり、次に赤ちゃんの顔がママの背中を向く方向になり、産道を出るときにあごを挙げ上を向き、頭が出てから横にねじって肩を出して誕生します。あごの引き方が不十分だったり、ママのお腹の方を向いてしまうことが多いようです。

 

原因としては、ママの骨盤に対して赤ちゃんの頭が大きい児頭骨盤不均衡や、胎盤が子宮の下の方にあったり、へその緒が赤ちゃんに巻き付いていたりなどが考えられます。回旋異常でお産に時間がかかると、赤ちゃんが危険な状態に陥ることがあるので、状態を見ながらお産を進めます。鉗子分娩や吸引分娩で引き出したり、経膣分娩が難しいと判断された場合、お産の途中で帝王切開に切り替えることもあります。

 

 

過期妊娠

 

分娩予定日を2週間過ぎてもお産が始まらない状態を過期妊娠といいます。つまり妊娠42週以降も妊娠が継続している状態です。妊娠40週を過ぎると、胎盤の機能が低下し、赤ちゃんにも影響が出ることがあります。赤ちゃんに酸素や栄養が十分に届かないため、赤ちゃんの体重や、羊水の量が減り、赤ちゃんは低酸素状態になってしまいます。

 

最終月経から予定日を決めた場合には、誤差が生じますが、現在病院では、妊娠10週頃に、超音波検査で胎児の頭の大きさを計り、予定日を修正することが多く、誤差はほとんどないとされています。この場合の過期妊娠は、全体の約2%ほどです。

 

過期妊娠になりそうな場合は、妊婦健診を頻繁に受け、胎盤機能を調べます。赤ちゃんの状態もこまめにチェックしていきます。これらに異常が見られる場合は、分娩誘発を行ったり、帝王切開になることもあります。

 

過期妊娠の場合、陣痛誘発や陣痛促進をしても、うまく陣痛が起こらないことも多く、赤ちゃんの心拍にも異常がみられることも多いので、帝王切開になる可能性は高くなります。

 

 

帝王切開

 

様々な理由で経膣分娩が難しいときに、麻酔をかけて腹部にメスを入れ、子宮から赤ちゃんを直接取り出す手術です。帝王切開には、前もって日にちを決めて手術をする予定帝王切開と、お産の途中でトラブルが起きて手術をする緊急帝王切開があります。

 

予定帝王切開となる原因としては、骨盤位(さかご)、双子以上の多胎妊娠、児頭骨盤不均衡、重症の妊娠高血圧症候群、前置胎盤、その他経膣分娩が危険だと判断される合併症妊娠などです。

 

緊急帝王切開になる原因としては、常位胎盤早期剥離、微弱陣痛や回旋異常などでお産の進行が期待できないとき、前期破水後時間がたち、感染の心配があるとき、赤ちゃんが弱ってきたときなどです。

 

帝王切開で腹部を切る場合、おへその下あたりから下へむかって縦切りと、恥骨結合の上で横切りとがあります。一般的に縦切りが多い傾向にあります。麻酔は、下半身にだけ麻酔をかける硬膜外麻酔や腰椎麻酔がよく使われ、意識はしっかりしているので、赤ちゃんの産声を聞くこともできます。緊急で時間に余裕がない場合は、全身麻酔になることもああります。手術の翌日には、起き上がって、少しずつ歩行を始めることが多いでしょう。ママの状態や産院によっても違います。

 

帝王切開にもメリット、デメリットがありますが、お医者様はママの赤ちゃんのために最善の方法でお産に導いてくれます。心配なことがあったら、なんでも主治医に相談してください。帝王切開で出産した人の次の妊娠出産ですが、陣痛が来たときに子宮破裂の心配があるので、予定帝王切開になることが多いでしょう。中には経膣分娩をできるケースもありますので、主治医とよく相談してください。

 

 

鉗子分娩・吸引分娩

 

子宮口が全開していて、胎児の頭がある程度降りてきているのに、なかなか赤ちゃんが出てこないなど、緊急に娩出させる必要がある時におこないます。お産が始まって、子宮口が全開になっているにもかかわらず、赤ちゃんがなかなか出てこられないと、赤ちゃんの心拍が低下してしまったり、破水している場合、感染の心配があるので、早急に娩出させる必要があります。そんなときに、赤ちゃんを急いで取り上げる方法です。

 

鉗子分娩とは、金属の鉗子で赤ちゃんの頭の左右を挟んで引き出す方法です。経験を積んだ産科医が行わなければなりませんが、鉗子分娩は吸引分娩に比べ、赤ちゃんに与える損傷は少なくて済みます。

 

吸引分娩とは、丸い吸引カップを赤ちゃんの頭に装着して、カップの中を真空にして赤ちゃんの頭に密着させて引き出す方法です。ママの陣痛の波に合わせて、いきみと同時に医師が引っ張ります。

 

吸引分娩、鉗子分娩の処置が行われる場合には、会陰が大きく切開されるというデメリットがありますので、ママは産後に会陰切開の痛みが強いかもしれません。また、赤ちゃんの頭が伸びたり、鉗子の跡がついたりすることがありますが、これは通常なら2~3日で消えるでしょう。

 

 

弛緩出血

 

お産のあと、胎盤がはがれた所からの出血が止まらず、大量に出血することを弛緩出血といいます。子宮収縮が悪いときに起こり、多胎や巨大児などで子宮への負担が大きく、子宮の筋肉が伸びきった状態や、遷延分娩で子宮の筋肉が疲れて収縮しなくなったとき、子宮奇形、子宮筋腫などの合併のある人に起こりやすくなります。

 

正常な分娩でも胎盤がはがれた場所の子宮壁面から多少の出血がみられますが、分娩中及び分娩後2時間までに500ml以上の出血がある場合は、分娩時出血多量と呼ばれ、その原因は弛緩出血であることが多い傾向にあります。

 

お産の直後から勢いよく出血するケースがしばしばあります。触診では子宮は軟らかくふにゃふにゃした感じで、子宮底の確認が困難なこともあり、子宮腔内に血液がたまると子宮底は徐々に上昇し、出血量が多くなるとショック症状も現れます。出血量が多い場合には、貧血の程度と播種性(汎発性)血管内凝固症候群(DIC)の合併の有無をみるため、血球数算定のほかに血液凝固系の検査をします。

 

治療は、腟内に挿入した手とお腹の上の手の間に子宮体および子宮頸部を挟んで、両手で子宮を圧迫しながらマッサージしたり、子宮収縮剤を点滴で投与します。それでも止血できないときは、動脈塞栓術で出血部位に栓を詰めます。この栓は自然に溶けるものなので、心配ありません。

 

出血多量の場合には輸血も行われ、子宮内操作を行うため感染防止の目的で抗生剤も投与されます。DICが発症した場合には、その治療も開始します。これらを用いても止血が不可能な場合は、まれではありますが、子宮全摘除術または腟上部切断術がおこなわれることもあります。

 

 

播種性(汎発性)血管内凝固症候群(DIC)

 

播種性(汎発性)血管内凝固症候群(DIC)は、基礎疾患や手術が引き金になり、血管内で過剰な血液凝固作用が進む病気です。正常な血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子のはたらきにより、血液は凝固しないような仕組みをもっています。

 

しかし、播種性(汎発性)血管内凝固症候群(DIC)は、全身の血管に小さな血栓がたくさんできて、そこに凝固因子が使われてしまうので血液が固まらなくなり、出血が起こります。呼吸困難やショック、腎不全を起こし、ときには命にかかわることもある病気です。

 

播種性(汎発性)血管内凝固症候群(DIC)が起こりやすいのは、急性前骨髄球性白血病・前立腺がん・肺がんなどの悪性腫瘍、常位胎盤早期剥離、羊水塞栓症、弛緩出血、重症の妊娠高血圧症候群などの産科的疾患、敗血症、熱傷、外傷など、さまざまな重症の疾患があります。全身に血栓がたくさんできて、血小板や凝固・線溶因子の消費・欠乏状態を起こし、皮膚の紫斑や点状出血、静脈注射痕からの出血、下血、血尿などを生じます。

 

治療法としては、原因となる基礎疾患の治療が極めて重要なのですが、基礎疾患の除去は容易でなく、時間がかかる場合が多いので、実際には抗凝固療法などによりDICをコントロールしながら、基礎疾患の治療を行うことが必要です。