生体防御系の老化によって、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などの「自己免疫病」、「感染症」といった病気が引き起こされることが知られています。

 

マクロファージの浄化機能の維持や、活性化することができれば、加齢によって生ずる変性物質の排除を促進することで老化自身に対抗し、病気の予防や健康の維持を図ることが可能です。

 

 

生体防御系の老化に伴う変化

 

生体防御系とは、感染性の微生物などから自分を守るシステムのことを意味しています。生体防御系は、皮膚・粘膜などの物理的バリアーと、補体などの血清成分やマクロファージ、好中球、ナチュラルキラー細胞などの細胞群から構成される先天免疫系(初めて出会った微生物でも直ちに攻撃できる古典的な免疫系)、そしてリンパ球(T細胞とB細胞)や抗体分子が主役となる獲得免疫系(一度感染した微生物を記憶して、2度目の感染の時、強力に攻撃できる免疫系)の3つの系からなっています。

 

それらは互いに関連、協力しつつ、生体を感染性の異物から防御しており、これらのどれが欠けても十分な働きができません。加齢・老化に伴ってこれら3つの防御系の全てが多かれ少なかれ変化し、老年者の様々な病気の原因になっています。これら3つの系の中で、リンパ球からなる獲得免疫系は、加齢に伴ってかなり早い時期から機能低下を始めます。その結果、老年期には生体防御能が低下することが多く、老年者の易感染性の大きな背景となっています。

 

また、免疫系は病原体などの外来性抗原には敏感に反応して生体を防御しますが、自分自身(自己の細胞や蛋白などの生体の構成成分)に対しては攻撃しないような仕組みになっていて、これを免疫寛容といいます。加齢に伴う免疫機能の低下・失調は、この免疫寛容の破綻をも生じ、老年者の血清中には自己成分と反応する様々な抗体(自己抗体)が出現してきます。

 

 

免疫系の老化

 

免疫系は老化の重要なペースメーカーと考えられています。60歳以上のヒトを対象として生存時の免疫機能とその後の死亡率について調べたところ、免疫機能のレベルの低かったグループは正常域のグループに比べて死亡率が高いことが明らかになっています。

 

免疫機能の低下のメカニズムは次のように考えられています。まず胸腺の退縮が起こり、免疫機能の低下はしたがって主としてT細胞に起こると考えられます。一方、B細胞の機能は加齢とともに大きな変化を示しません。マクロファージやナチュラルキラー細胞も加齢とともにやや低下します。

 

T細胞が老化の影響を受けやすい主な理由は、T細胞の補充がほとんど新生児期に限られ、その後十分に補充されないためです。したがって、老化に伴って免疫細胞・免疫組織の機能は多かれ少なかれ低下しますが、中でも免疫応答全体をコントロールするT細胞系が特に影響を受けやすいと考えられています。

 

このように老化現象は免疫系に一様に起こるのではなく、選択性が認められています。このような選択的老化は他の臓器においてもしばしば認められます。

 

 

免疫組織の加齢変化

 

胸腺の変化

免疫組織として重要な胸腺は、小児期に最大に達し、その後次第に退化していきます。この免疫組織の退縮は、リンパ細胞の数の減少や機能の低下、および結合組織の増殖をもたらし、このことから生ずる免疫能の低下や機能失調は、老化に伴う感染症や免疫病の増加と関連していると考えられています。

 

加齢とともに胸腺が生理的に委縮することは古くから知られ、ギリシャの医師Galenも指摘しています。胸腺の役割はT細胞の産生です( T細胞の T は胸腺 thymus の頭文字に由来します)。それは、骨髄で生じるT前駆細胞が胸腺に移住し、そこで増殖・分化・選択され、成熟T細胞として末梢のリンパ組織に移住するというプロセスからなっています。

 

マウスをモデルにして、このプロセスの加齢による変化を新生仔と4週齢マウスで比較すると、胸腺でのリンパ球の増殖率、胸腺から末梢リンパ組織への移住も、加齢とともに減少します。こうした胸腺のT細胞供給能力の変化は、骨髄から胸腺へ移住するT前駆細胞の変化ではなく、胸腺微小環境の変化が原因であることが明らかになっています。そして、さらに興味あることに、同じ骨髄由来のT前駆細胞であっても、老化胸腺内で生じたT細胞は若齢胸腺内で生じたT細胞とは質的に異なっています。

 

すなわち、胸腺を除去したマウスに、若齢胸腺あるいは老化胸腺を移植する実験から、老化胸腺を経由して末梢に供給されたT細胞は免疫学的活性が不十分であることが明らかになりました。加齢に伴い胸腺は委縮し、 T細胞供給能が減少し、供給されるT細胞の活性も不十分であり、これらのことが獲得免疫の老化の主因となっていると考えられます。

 

末梢リンパ組織の加齢変化

免疫機能の加齢変化の結果、末梢リンパ組織でもT細胞数が減少し、構成内容(サブセット)が変化します。老化マウスでの実験では、脾臓(末梢リンパ組織の一つ)のT細胞のサブセットの構成は加齢とともに大きく変化します。ナイーブT細胞(まだ一度も微生物などの抗原と接触したことがないT細胞)は加齢とともに減少しますが、メモリー T細胞(抗原と接触し、その抗原を記憶したT細胞)は逆に増加します。

 

ヒトの末梢血でも同じようなことが観察され、加齢とともにナイーブT細胞は減少し、メモリー T細胞は増加します。このことは T細胞由来のサイトカイン(リンパ球から産生され、他の細胞に影響を与える分子)産生にも反映され、インターロイキン-2 (IL-2) の産生は低下し、IL-6などB細胞増殖に関わる因子は増加します。前者はT細胞の増殖能力低下に関連し、後者は組織中の形質細胞の増加や血中の免疫グロブリンの増加に関連しています。

 

 

免疫細胞自身の加齢変化

 

加齢に伴って、T細胞数が減少し、サブセットが変化するのみならず、 T細胞自身の質的変化が起こってきます。すなわち、抗原に接しても老化したT細胞は十分に増殖することができなかったり、また、十分なサイトカインを産生することができないのです。

 

この場合、抗原を認識するT細胞受容体の数を調べても加齢変化は見られないので、加齢に伴うT細胞の増殖能の低下には細胞の中の刺激伝達機構に異常があると考えられています。これとは対照的に、マクロファージに代表される食細胞は加齢にかかわらずその機能は比較的良く保たれていて、細胞内機構も機能維持されていると考えられます。

 

 

免疫系の加齢変化と疾患

 

これまで述べてきたように、老年者の免疫系の加齢変化には、質的変化(自己寛容の破綻による自己免疫)と量的変化(免疫機能の低下)があります。この観点から老年者の免疫系に関連する疾患を大別すると次のようになります。

 

自己免疫

≪自己免疫現象≫

加齢に伴う自己免疫現象の大半は生理的な現象で、病的な意味あいはおそらく強くないと考えられています。しかし、現象的には高血圧や脳血管傷害などの老年性疾患にこのような自己免疫現象が伴います。この自己免疫現象とそれぞれの疾患の進展との因果関係は不明ですが、例えば、高血圧を有する老年者は、80%という高い頻度で抗核抗体(自己の細胞核の成分に対する抗体)が出現してきます。

 

≪自己免疫病≫

自己免疫現象よりもはるかに重篤な状態である自己免疫病も発症してきます。慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などの膠原病・類縁疾患です。膠原病・類縁疾患に共通する臨床的特徴は、炎症病変が全身の臓器、関節、筋肉、皮膚、血管などの結合組織を病変の主座とする点、背景に自己免疫または免疫異常を伴うことが多い点です。

膠原病の発症機序は単純でなく、外因、ホルモンなどの内因、遺伝、免疫異常と複雑に絡み合っています。ただ、さらに老化が進んだ場合には、かえって自己免疫病は減少する点が生理的自己免疫現象の場合とは異なります。それぞれの疾患の特徴を以下に示します。

 

シェーグレン症候群全身の外分泌腺の慢性炎症を基本病態とし、乾燥性角結膜炎、慢性唾液腺炎による眼および口腔内乾燥症状が特徴的です。
慢性関節リウマチ慢性に経過する多発関節炎を特徴とするが、発熱、臓器障害を伴うこともあり、全身性の自己免疫性疾患です。膠原病の中で最も頻度が高い疾患です。
リウマチ性多発筋痛症頚部~肩、骨盤帯、四肢近位筋の強い痛みとこわばりを特徴とする全身性炎症性疾患であり、ほとんどが50歳以後に発症します。
全身性エリテマトーデス女性に好発する慢性の炎症性疾患であり、関節炎、発熱、蝶形紅斑、口腔内潰瘍、光線過敏などの症状が見られます。老年者では非典型例が多く、診断が困難なこともしばしばです。
結節性多発動脈炎全身の中小動脈から細小動脈に病変の主座があり、多臓器障害を呈する壊死性血管炎です。
進行性全身性硬化症全身の皮膚硬化と内蔵病変を特徴とする全身性結合組織疾患であり、炎症性、線維性、血管性病変が見られます。
多発性筋炎・皮膚筋炎咽頭筋、頚部筋、四肢近位筋の対称性の筋力低下を特徴とする炎症性疾患で全身の横紋筋が障害されます。これに、特徴的な皮膚所見を伴う場合、皮膚筋炎と呼ばれます。

 

感染症

老年者に限らず、ヒトが感染症に罹患するか否かは、微生物の毒力とヒトの防御力とのバランスで決定されます。この点に関してはどの年齢層のヒトも同じですが、老年者では、これまで述べてきたように生体防御・免疫系が加齢とともに機能低下していて、そのバランスは微生物に有利な側に傾いています。多くの感染を経た結果、ある種の微生物に対しては免疫が強く成立し、幼・小児期に感染し易くても老年者にはまれなものもありますが、全体としては、生体防御系が最後の力を振り絞って感染症に対抗している姿が老年期の実体であるといえます。

 

≪老年者の易感染性≫

老年者の易感染性は加齢による生体機能の変化に加えて、糖尿病や癌などの基礎疾患の影響も大きく、そのヒトの背景要因を理解することが重要です。老年者において感染症の引き金となりやすい要因を下表に示します。

 

全身性要因■基礎疾患による障害免疫不全,悪性腫瘍,代謝異常,栄養障害など
■医原的要因による障害抗癌剤,副腎皮質ホルモン,放射線照射などによる以下の機能低

a.      非特異的液性因子;急性反応性血清因子,補体

b.      貪食細胞;好中球,マクロファージ

c.      特異的感染免疫;抗体,感作T細胞

局所的要因■気道扁桃・咽頭リンパ節の委縮,気管支線毛運動の低下,咳反射の低下,誤嚥,胸郭・肺構築の変化など
■尿路神経因性膀胱,前立腺疾患,尿路結石,悪性腫瘍,尿路カテーテル,尿道狭窄,外陰部汚染など
■肝・胆道悪性腫瘍,結石など
■皮膚・軟部組織褥瘡,糖尿病性壊死,閉塞性動脈硬化症など
■医原性要因静脈カテーテル,各種カテーテル操作,各種検査処置など

 

≪感染標的臓器≫

老年者に高頻度に見られる感染症は、基本的には若年者と大差なく、呼吸器感染症と尿路感染症です。生命予後の意味では呼吸感染症の方が重要であり、剖検例の検討では老年者のおよそ30%症例で肺炎が死因につながっています。ついで、皮膚、軟部組織感染症(ことに褥瘡や壊疸に伴うもの)や胆道感染症が高頻度にみられます。この他、重要なものとしては、髄膜炎、肺外結核、深部膿瘍、腸炎、子宮留膿症などがあります。

また近年、静脈留置カテーテルなどの医療行為に付随した異物に伴う感染症が増加しています。また、老年者では、感染を局所に止めることができずに、敗血症(全身の血中に細菌や細菌成分が混入する重篤な状態)に移行する頻度が高く、逆に、若年者で頻度の高い扁桃炎や虫垂炎などは老年者では比較的少ない傾向があります。

 

≪代表的原因微生物≫

■細菌

老年者感染症の原因菌の特徴をみると、大腸菌、クレブジェラ菌などは尿路、胆道感染の原因菌として大きな役割を占めています。いずれも健常者の腸管内に常在する菌種であり、老年者細菌感染の主体は内因性感染(自分自身の体内に常在している細菌による感染)といえます。また、近年の分離菌の特徴を見ると、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、腸球菌、緑膿菌などが多いことがあげられます。

これらは抗菌剤に耐性があるため、抗菌剤の投与によって逆に増加してくる菌種で、老年者に多い慢性呼吸器疾患、慢性複雑性尿路感染、褥瘡感染などが難治化する過程で出現してきます。また、過去に広く蔓延した結核菌による病変が老年期になってくすぶり、老年者の病原菌として大きな位置を占めています。

 

■ウイルス

老年者に多いウイルス感染症としては、かぜ症候群と帯状疱疹があります。老年者の呼吸器感染にかぜウイルスが関与する例は多く、細菌がさらに複合的に感染して重篤化します。小児に多発する水痘、麻疹、突発性発疹、風疹などの発疹性ウイルス感染症は老年者ではほぼ皆無です。成人に達するまでに罹患し、免疫が成立するためと考えられます。

 

真菌(かび)、原虫

真菌感染は予想に反して老年者ではまれです。日和見感染(易感染者が健常人は感染しない微生物に感染すること)の原因菌の代表格であるカリニ(原虫の一種)感染も老年者ではまれです。これらの微毒微生物による感染症は、ほとんどが白血病患者、免疫抑制剤使用中の移植患者、エイズ患者などに見られるもので、これらの要因のない老年者においては、広い意味で「易感染者」でありながら、このような微毒微生物による感染症はほとんど見られません。

 

 

老年者の生体防御におけるマクロファージの重要性

 

上記のことから、老年者は易感染性の傾向があるにしても、先天免疫系と残存する獲得免疫系が健全であれば、実際には、感染に対して相当に対抗しうることが分かります。 T 細胞を産生する胸腺が10歳台後半には退縮を始めるのと対照的に、先天免疫系、特にマクロファージを中心とする食細胞系の機能は加齢によってあまり変化を受けないことが知られています。

 

多細胞系の生物では、外来の微生物の感染がない場合でも、代謝の過程で生ずる老廃物の除去は不可欠の機能であり、その機能は主としてマクロファージによって担われています。このために加齢に対してもマクロファージの機能は良く保たれているという見方もできます。

 

マクロファージは、生体防御系のみならず、全身にくまなく分布して、生体各部の恒常性の維持に寄与しています。 外来の微生物に対抗する生体防御の方面のみならず、マクロファージの浄化機能を維持、あるいはさらに活性化することができれば、加齢によって生ずる変性物質の排除を促進することによって老化自身に対抗し、健康を長らく維持する道が開けるのではないでしょうか。