赤ちゃんから乳児へ、そして、幼児へ。その過程における変化の一つが運動発達であり、歩行を獲得するに至るまでの過程は実に多様です。そして、ときどき「ちょっと気になる・・・」「遅れている?」と心配を持って受診されます。それら、ちょっと気になる心配の内容の多くは、運動発達の個性によるものと考えられます。もちろん、それらの一部には、療育指導・育児環境に対する配慮などが必要になる場合も含まれています。

 

①そりかえりやすい、②うつぶせを嫌う、③寝返りをしない、④足をつっぱらない、⑤這おうとしない、⑥這う姿勢に左右差がある、⑦座らせると後ろに倒れる、⑧つま先立つなど、他の子と違うというように不安に感じる場合がありますが、多くは運動発達の多様性です。もちろん発達障害に起因している場合もありますので、程度が大きい場合や長く続く場合には、病院へ受診してみましょう。ただ、ほとんどは心配のしすぎですので、過度に心配しなくても大丈夫かと思います。

 

 

①そりかえりやすい

 

生後2~3か月において、反り返り(そりかえり)やすい赤ちゃんに出会います。「反り返りが強くて、抱きにくい」赤ちゃんです。仰向けに寝かせていますと、頭を後ろに反らせたりすることもあります。このことが医学的に問題になるのは、脳性麻痺の可能性を早期に診断し、早期に療育を開始したい願いからです。

 

大半の場合は、脳性麻痺ではなく、いわば「運動発達上の個性」です。この傾向にある赤ちゃんでは、抱く時にも、つい反った姿勢で抱っこをしていることが多いのです。「両手を前に出して、お座りをした姿勢」で抱くことをオススメします。将来的に問題のない運動発達上の個性だと診た場合、「early dystonia」と診断し、丁寧に発達経過を追います。例外的に、頭囲が小さい、その他気になる診察所見があったりする場合は、必要な検査をしたり、療育を開始する場合もあります。

 

 

②うつぶせを嫌う

 

うつ伏せを嫌う赤ちゃんは、比較的多い「ちょっと気になる」徴候の一つで、うつ伏せを嫌う赤ちゃんは、意外にも多いのが実情です。うつ伏せを嫌うのは、筋肉がやわらかい「筋緊張低下傾向」である場合が多いのですが、筋緊張にも個性があり、高い子や低い子がいます。筋緊張の低い赤ちゃんは、しばしば筋力が弱い傾向にあります。

 

うつ伏せになると、赤ちゃんは本能的に顔をもたげようとしたり、顔を横に向けたりします。筋緊張が低く、筋力の弱い赤ちゃんは、頭をもたげるのが苦手であるかのように、うつ伏せ姿勢を嫌うというわけです。首が座るようになった生後3か月頃からは、機嫌のよさそうなときに、赤ちゃんと向い合って寝そべり、赤ちゃんの二の腕(上腕)から肘の当たりを、あなたの手のひら(掌)で起こし、顔が向い合うようにして視線を合わせ、あやしてみるなどの遊びを行ってみるといいでしょう。また、手のひらで、赤ちゃんの上体を揺らして変化を持たせることもよいでしょう。

 

こうした遊びを、赤ちゃんが嫌わなければ、どうぞお続け下さい。しかし、それでも嫌うという場合は無理には続けません。うつ伏せを嫌う赤ちゃんは、やがてお座りを獲得します。場合によっては、立位を経験するようになる頃からうつ伏せで遊んだりもしましょう。なお、筋緊張の低下が目立つ赤ちゃんの場合は、専門医の診断を必要とすることもあり得ます。

 

 

③寝返りをしない

 

お母さん方にとって、比較的多い訴え、心配事の一つといえます。一方で、寝返りの獲得には個人差が大きいと分っています。よって、寝返りが早い・遅いは、その子の発達が異常であるかどうかの目安にはなりにくいのです。つまり、寝返りのみで発達を評価することの意義が乏しいわけです。

 

首の座り(頸定)や、仰臥位姿勢の発達、うつ伏せ姿勢や、手・上肢の機能など、総合的に評価することが欠かせません。確かに、寝返りが早いことは順調に発達している目安にはなりましょう。ところが、寝返りが早すぎて、むしろ問題になる場合も稀ですがあり得ます。それは、反り返り傾向の強い赤ちゃんの場合で、あおむけの姿勢から、頭を反らせるために、うつ伏せ姿勢になってしまう場合です。

 

もちろん、これは正常な発達過程における寝返りとは異ります。一方、頻度は少ないのですが、発達障害児の場合は、寝返りの獲得について、療育において丁寧に取り組んでいきます。他の発達に問題がなくて、寝返りだけが遅い赤ちゃんもいるのです。

 

 

④足をつっぱらない

 

しばしば歩き始めが遅れる傾向があり、育児者を惑わすのが、足を突っ張らない赤ちゃんだといえます。多くの場合は、第二伸展期に入り、立位姿勢の獲得に向けて足を突っ張るようになる生後半年以降、とくに7~8か月以降になっても、下枝を突っ張ろうとせず、お座りの姿勢を好む赤ちゃんがいるわけです。あやし笑いや人見知り、おもちゃを持って遊ぶ様子などを参考にしますが、大半は「運動発達上の個性としてとらえられます。

 

足を突っ張らない赤ちゃんは、「うつ伏せを嫌う赤ちゃん」と同様に、筋緊張が低い傾向があります。稀ですが、知的発達の遅れる傾向がうかがえる赤ちゃんがいたりするため、乳児健診においては留意して赤ちゃんを診ていきます。「うつ伏せを嫌う赤ちゃん」がお座りを獲得した後、今度は「足で体重を支えない」「膝の上でトントンと、足で蹴るようにしない」「膝を曲げたままだ」などの心配に変わっていることもあります。

 

 

⑤這おうとしない

 

這おうとしない・這わない赤ちゃんも、一般的な運動発達上の心配の一つといえます。這うことが出来れば良いのでしょうが、しかし、健康な赤ちゃん全員が這うというわけでもありません。這う・這わないだけで、発達上の問題があるか否かを決めるのには無理があります。

 

赤ちゃんの運動発達の過程において、最も多様性が大きいのが「ハイハイ(這い這い)」だといえます。這いの発達は「ずり這い」から「四つ這い」そして「高這い」へと進んで行きますが、そもそもうつ伏せを嫌う赤ちゃん、這おうとしない赤ちゃん、背這いをする赤ちゃんなど多様です。 この中に、下肢の左右差が明らかな這い方をする乳児もいるわけです。

 

 

⑥這う姿勢に左右差がある

 

這う姿勢に左右差がある赤ちゃんというのは、運動発達上の心配の中で比較的多い徴候です。この訴えで多いのは、例えばこうです。左膝は床面に付けて通常の四つ這いの位置にありますが、右膝は立てたままで(立て膝の位置で)這うということです。

 

実際、這う様子を診ると、移動のスピードは素早く、思うところへ行き、おもちゃ遊びを楽しんでいることが多々あります。這う姿勢には、明らかに左右差がありますが、手の使い方やつかまり立ちをしたときの足の運びなどには左右差が認められません。稀なことですが、脳性麻痺中で、片麻痺が混じっている場合があり得ます。

 

 

⑦座らせると後ろに倒れる

 

座らせると後ろに倒れる赤ちゃんにも、多くはありませんが出会います。お座りの姿勢を診ると、背をシャキッと伸ばし、十分安定して座れる様子に見えて、突然後方に倒れてくるという場合です。後方に倒れると頭を打って痛いなどの危険性について、まるで無頓着のように見えます。こうした赤ちゃんの多くは、座位姿勢が安定するまでの一過性のエピソードといえます。

 

 

⑧つま先立つ

 

つま先立つ赤ちゃん、つまり生後10か月前後の乳児であることが多いのですが、発達上問題になるのは、その子が脳性麻痺であるかどうかを診断することにあります。専門的な診断方法になりますが、乳児の斜位懸垂姿勢の正常発達を知っておくことがヒントになります。これは、首が座った頃は胸の当たりを両手で支え、体の軸をさっと斜めに変化させたときの手足の反応を診る手技です。お座りが出来るようになったら、腰のあたりを両手で支え、上半身・手足の反応を診ます。

 

つま先立ちとの関連では、天井側の下枝の反応を大切に診ます。正常な発達では、股関節・膝関節をヒョイと曲げる反応が得られます。つま先立つ乳児で、この屈曲反応がみられる場合は、おそらく、麻痺はないといえるでしょう。脳性麻痺の危険性のある乳児では、むしろ伸ばし気味になる傾向があります。