感染は、病原体と感染を受ける人(宿主といいます)、病原体が宿主に至る道(感染経路といいます)があって成り立ちます。細菌、ウイルス、スピロヘータや寄生虫など、病気を引き起こすもとになるものを病原体といいます。

 

病原体が宿主に感染しても、実際、病気を引き起こすか(発症するか)どうかは、病原体の強さ(病原力)と宿主の抵抗力(あるいは免疫能)に左右され、宿主の状況によっては発症しないこともあります。感染症を予防するには、病原体を撲滅すること、感染経路を断つこと、宿主の抵抗力・免疫力をつけることです。

 

 

老年者の感染症の特徴

 

診断の手がかりとなる感染症に特徴的な症状が必ずしも現れないことがあります。老人の場合、肺炎を起こしても、発熱、咳、痰、息切れなどが全例にみられるわけではなく、38℃以上の発熱や咳、痰は60%に認められたにすぎないとの報告もあります。

 

これには体温測定上の問題や、脱水や循環不全の影響により局所皮膚温の上昇をみない例も含まれているようです。したがって、一般的には、発熱があるかどうかが感染症の主な手がかりとなるのですが、老人では感染症を起こしていても、発熱を伴わないことがあることに注意しておく必要があります。

 

老人の場合、感染症に特徴的な症状よりも、特徴のはっきりしない症状が前景に出る例もあります。食欲不振、なんとなく元気がなくべッドから起きてこない、失禁、意識障害などの症状が目立ったり、これに脱水症状が加わったりします。一方、老人は、自覚症状を欠くことがしばしばあり、患者本人の訴えがないことがあり注意する必要があります。赤ちゃんと同様、いつもより元気がないという症状が、発症に早く気がつく手がかりとなります。

 

老年者の感染症は、背景になんらかの基礎疾患や機能障害が存在していることが多いという特徴があります。従って、その基礎疾患や機能障害が改善されない限り、感染症を繰り返して起こします。尿路感染症を例にとると、ほとんどの例に尿流障害がみられます。

 

尿流障害の原因としては男性では前立腺肥大や尿道狭窄が、老年者全体としては脳の血管障害に伴う神経因性膀胱が挙げられます。また便失禁で外陰部が汚染されると尿路感染を起こしやすくなります。そのほかカテーテル留置例では尿路感染は必発ですし、女性では加齢に伴い、腔炎があれば汚染を受けることがあります。

 

老人では感染に関係のない疾患をもっていることが多いという特徴があります。心疾患や糖尿病のある例は感染で原疾患が悪化するし、これが予後を左右する場合もあります。

 

 

特徴的な感染症

 

高齢者の主な感染症には、「インフルエンザ」「結核」「MRSA」「伝染性膿痂疹」「疥癬」「B型肝炎」「C型肝炎」「梅毒」「エイズ」「日和見感染」などがあります。

 

インフルエンザ(流行性感冒)

インフルエンザはカゼの一種です。非常に感染力が強いインフルエンザウイルスによって、小・中学校をはじめ、社会全体に流行するカゼです。インフルエンザウイルスは、次々に変異株が発生するため、免疫ができず、大流行になります。秋から冬にかけて多く感染します。

 

発熱、頭痛、関節痛等の全身症状から始まり、鼻汁、のどの痛み、せき、痰などの呼吸器症状が現われ、ときに腹痛、嘔吐、下痢などの腹部症状を伴うことがあります。インフルエンザに効く薬はありません。対症療法のほかは、治るまで安静にして過ごします。高齢者や病気のある場合は、流行時には人混みをさけ、ウイルスを吸い込まないようにします。

 

結核

結核は結核菌の感染によっておこる病気です、かつては国民病といわれ抗結核剤が普及するまでは死に至る病気でしたが、今日では、ツベルクリン検査とBCGの普及による予防策の効果で激減し、また治療法も進んで、恐れられる病気ではなくなりました。しかしながら高齢者では、若いときにかかった結核が再発したり、体力が衰えているために感染したり、まだまだ多い病気です。

 

微熱が続き、発汗、だるさ、さらに敗血症がおこることがあります。結核菌は全身をおかしますが、肺に病巣をつくることが最も多いのです。結核菌は、患者の痰などに含まれて、空気中に飛び散り、それを気づかずに吸い込むことによって伝染します。患者が排菌している場合は、接する側の感染予防を考慮しなくてはなりません。

 

排菌している間は、入院加療していることがほとんどなので、接することはないと思いますが、マスクをして、衣服を包めるようなガウンまたは割烹着をつけて接します。また接する側は、自分が結核菌に対する免疫力があるかどうかをチェックしておく必要があります。ツベルクリン検査が陽性であれば、免疫があります。

 

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)

今日、非常に話題になっているのは、MRSAによる感染症です。この細菌は、空気中のどこにでもいる病原性の弱い菌ですが、抗生物質に対して強く、抗生物質が効かないのでやっかいです。皮膚や鼻、気道の粘膜から感染します。病原性が弱いので、通常は症状を現わすことがないのですが、抵抗力のなくなっている人、たとえば大手術のあと、免疫不全症の患者、高齢者では、発熱、上気道炎のほか、重症の病気をも引き起こします。

 

MRSAは、病院内感染の原因菌としても注目されており、感染予防が大切です。この菌は乾燥に強いので、部屋のほこりのなかにもいます。床、壁を含め、部屋を清潔にすることが大事です。手指の皮膚にもいますから、石けんを使い流水で手をよく洗うことです。洗ったあと、同じタオルでふくとまた菌がつく可能性がありますから使い捨でのぺ一パータオルを使うようにします。

 

伝染性膿痂疹(とびひ)

ブドウ球菌や連鎖球菌が皮膚に感染して、水疱やかさぶたをつくるもので、非常に伝染性が強いものです。水疱ができるタイプのものを水疱性膿痂疹といい、夏期、子どもにみられます。えんどう豆大の水疱ができ、水疱の分泌物がつくと次々に広がります。

 

かさぶたをつくるタイプは、痂皮性膿痂疹といい、四季を通じて子どもにもおとなにもみられます。膿をもった丘疹が集まり、汚いかさぶたをつくり、やはり分泌物で広がります。抗生剤入りの軟膏が有効ですが、内服薬も併用した方が早く治るので、広がらないうちに受診を勧めます。

 

疥癬(かいせん)

疥癬虫によってうつる皮膚の病気です。直接接触により伝染し、陰部をはじめ、皮膚のやわらかい部分に疥癬トンネルをつくります。粟粒状の赤いブツブツや水疱ができ、強い痒みがあります。夜間、特にかゆみが強くなります。効果のある軟膏薬がありますから、受診して治療をします。

 

B型肝炎

肝炎は、原因となるウイルスの型により、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎に分類されています。このなかでB型肝炎は、急庄肝炎として発症することが多く、2~3か月で回復しますが、その一部が劇症肝炎になることがあります。また慢性化したり、肝硬変や肝がんになるものもあります。B型肝炎は、血液を介して感染しますので、従来輸血後肝炎といわれたものですが、輸血のほか、母子感染、性行為でも感染します、

 

母子感染予防のため、妊婦検診でB型肝炎ウイルスに感染しているかどうかを調べ、子どもに対して免疫グロブリン等の投与を行っています。B型肝炎ウイルスに感染しても、発症するのは20~30%と考えられていますが、感染の予防と発症の予防は大切です。ウイルスをもっているけれど発症していない人をキャリアといいますが、B型肝炎のキャリアは200万から300万人にも及ぶと推測されています。日常の介護では、血液の取り扱いに気をつけます。

 

傷口の出血、鼻血などの血液には、直接手を触れない注意が必要です。触れた場合は、すぐ流水で洗います。血液中には、肝炎ウイルスばかりでなく、いろいろな病原体が入っている可能性がありますので、感染しないように、またさせないように気をつけます。

 

C型肝炎

C型肝炎も、B型肝炎と同様に、輸血や性行為で感染します。C型肝炎は慢性肝炎に移行しやすく、肝硬変、肝がんになることが多いことで注目されています。血液の取り扱いに注意することは、B型肝炎と同じです。C型肝炎のキャリアは、150万人といわれています。

 

梅毒

梅毒トレポネーマというスピロヘータ(微生物の一種)によって伝染する、特徴のある感染症です。代表的な性行為感染症で、性交による接触感染でうつります。梅毒トレポネーマは、はじめ局所に結節をつくります。ついで血液中に入り、全身の皮膚粘膜に広がり、バラ疹や丘疹が出て、脱毛がおこったりします。

 

さらに進行すると、トレポネーマは臓器中に入り、ゴム腫といわれる結節をつくったり、心臓血管系や中枢神経系をおかします。ペニシリン等の抗生物質による治療で効果がありますので、早期の治療が大切です。梅毒トレポネーマは、胎盤を通って胎児に感染します。死産になる場合もありますし、先天性梅毒の子どもが生まれる場合もあります。妊娠時に梅毒の検査が行われるのはこのためです。

 

エイズ

後天性免疫不全症候群(エイズ)は、いろいろな意味で社会の注目を集めている感染症です。エイズはヒト免疫不全ウイルスの感染によっておこります。潜伏期間は比較的長いのですが、ほば100%発症します。ヒト免疫不全ウイルスは免疫作用に欠かせないリンパ球に住みつきます。このためリンパ球が働けなくなり、免疫力が低下します。通常なら免疫力で勝てるような細菌やカビ類に対しても抵抗できず、いろいろな感染症(カリニ肺炎やカンジダ症など)にかかったり、カポジ肉腫ができたりします。つまり、身体が無防備な状態におかれてしまうのです。

 

現在治療薬が開発されてきておりますが、予後が悪い病気です。性行為や輸血によって感染し、母子感染も報告されています。地球規模で人類にとって、今しばらく非常に脅威的な感染症だといえます。血液の取り扱いに注意することなど、感染を予防することが大切です。肝炎同様に、介護については、血液に注意すれば、一般の介護動作では感染しません。

 

日和見感染

日和見感染は、病気の名前ではありません。通常ならば発症しないような、弱毒病原体による感染のことをいいます。宿主の側の抵抗力が落ちているとき、たとえば、大きな手術後、がんの末期犬態にある場合、免疫抑制剤を使っている場合、エイズ、高齢者などで発症します。弱毒病原体は、どこにでもいるような微生物で、すでに宿主のなかにいて、宿主の抵抗力が落ちたとき、病原性を発揮するのです。前述したMRSAやカリニ肺炎、カンジダ症などがこれにあたります。