高齢化に伴い、免疫力の低下などが原因となって身体的疾患が発症しやすいという事実は、ほとんどの人が知るところですが、耳鼻咽喉科領域においても例外ではありません。

 

代表的な疾患には、「難聴」「嚥下障害」「めまい」がありますが、生活に支障をきたすだけでなく、場合によって生死に関わる事態に陥ることもあります。

 

 

難聴

 

近年わが国は高齢化が進み、地域において高齢者の占める割合が徐々に増加してきていますが、特に都市部以外ではその傾向は著明です。この様な状況の中、加齢に伴う難聴、おもに老人性難聴の罹患率も増加しつつあります。

 

加齢による聴力の変化

聴力は年齢が進むにつれて自然に衰えてきますが、これは全身に見られる老化現象の一つであり、病気と言うよりはむしろ生理的な機能の低下と考えられます。人間の聞こえは20歳代を頂点として、それ以後徐々に低下してきます。聴力検査の検査音域でみると、8000Hz、4000Hzといった高い周波数帯域から徐々に聴力低下がみられます。この変化が明瞭になり聴力低下のすすみが早くなるのは60歳代以降です。

 

聴力低下の大きさには個人差がありますが、老人性難聴では難聴が左右対称に生じ、高音域を中心に聴力低下が生じる高音漸傾型感音難聴という聴力型を示します。したがって、初期には電話のベルが聞き取りにくい、子どもや女性の甲高い声が聞き取りにくいなどの症状から始まり、難聴が進行すると日常生活での会話に支障がでてきます。

 

老人性難聴のもう一つの特徴はことばの聞き取りが悪くなる(語音弁別能の低下)ことです。つまり、音は聞き取れるがいったい何を言っているのか分からないという状態です。とくに、騒音下のような条件の悪いところではこの訴えは強くなります。また、性別では男性の方が女性よりやや聴力低下の度合いが大きいようです。社会的、環境的に男性の方がより多くの騒音やストレスによる負担がかかるためではないかと言われています。

 

老人性難聴の原因、障害部位

老人性難聴の原因は先に述べたように全身の老化現象の一症状と考えられていますが、そのほか騒音などの環境も関与すると言われています。障害の部位については諸説がありますが、耳(内耳)と脳(中枢神経系)の両者に障害が起こると言われています。内耳ではラセン神経節細胞の変性萎縮がみられますが、その他の有毛細胞、血管条、基底板などにも変化が起こることが知られています。また、内耳から大脳の聴覚野につながる聴覚中枢路の神経核細胞変性も老人特有の病変として観察されます。この中枢の変化のためことばの聞き取りが悪くなります。

 

現在のところこのような老人性難聴を予防したり治療したりすることは不可能です。そこで、聞こえが悪いことで日常生活に問題が生じた場合には、まず補聴器装用を試みるのが一般的です。

 

補聴器の効果

補聴器を有効に活用し役立てるためには、補聴器の効果とその限界について十分に理解する必要があります。補聴器がうまく使用できた場合には、単に会話能力が改善するばかりでなく、聴力が悪いために家族や地域から孤立してしまうという社会的問題を解決することにもなります。

 

しかし、老人性難聴のすべてに補聴器が有効であるわけではありません。補聴器が有効かそうでないかは、聴力低下の程度よりも中枢の障害の指標となる語音弁別能の程度に左右され、さらには言葉や文章の内容に対する関心度や聞き取ろう、理解しようとする意欲によります。補聴器を使用する場合には練習が必要です。購入前には必ず試聴する必要があります。納得されないまま購入すると、補聴器が使いづらいのは補聴器の選択が悪いためと考えて使用しなくなります。

 

補聴器の問題点

補聴器使用時の問題点として、音が響いて聴こえる、音は聞こえるが言葉としては聞き取れない、周囲の雑音や騒音のために聞きたい声が聞こえないなどの訴えが多くようです。これらの問題は補聴器の調整を適切に行い、補聴器を通って聞こえる音や操作法に慣れることで解決できることがあります。

 

また、最近の補聴器の性能の向上は著しく、プログラマブル補聴器やノンリニア補聴器、デジタル補聴器などの新しい補聴器も開発されてきており、これらの多種多様の補聴器の中から自分にあった補聴器を選択する必要があります。

 

 

嚥下障害

 

嚥下は食物を口から胃へ送り込む一連の輸送動作で、この運動は中枢に組み込まれた精巧な嚥下プログラムのもとに遂行される複雑な運動です。この嚥下運動が何らかの原因で障害された状態が嚥下障害です。「口から食べること」は人が人らしく生きるための基本的な生理的行為であり、これが障害されると人のquality of lifeが著しく損なわれることになります。

 

正常の嚥下運動は随意的に食塊を口腔より咽頭へ送る口腔期、反射運動により食塊が咽頭から食道入口部を通過するまでの咽頭期、食道の蠕動運動により胃まで運ばれる食道期に分けられます。このうち耳鼻咽喉科的な治療の対象となりうるのは主に口腔期および咽頭期です。

 

嚥下障害の症状

嚥下・通過困難口から咽頭への飲み込みができない。また飲み込めても食道内を通過しにくい。
誤嚥食物の気管内への流入により、食事中に咳込んだり息を詰まらせたりします。高度の場合は肺炎をおこします。
鼻腔内逆流食物が鼻へ逆流して鼻から出てくる。
嚥下痛飲み込む時に痛みを感じる。あるいは痛くて飲み込めない。
食物停留感食物がのどの奥につまった感じがする。

 

嚥下障害の原因

神経疾患脳血管障害、頭部外傷、頭蓋内手術、喉頭麻痺、筋萎縮性側索硬化症など
筋疾患重症筋無力症、筋ジストロフィー症など
その他炎症性疾患、異物、外傷、悪性腫瘍、憩室、加齢による影響など

 

嚥下障害の検査

嚥下障害を来す疾患は非常に多岐にわたっており、治療方針を決定するためには嚥下状態、嚥下障害の程度を正しく知ることが必要です。そのために十分な問診をした上で次のような検査を行います。

 

■X線透視検査

バリウムなどの造影剤を実際に服用し、嚥下状態をX線を使って透視します。またこれをVTRに録画し詳しく解析します。

 

■内視鏡検査

喉頭ファイバースコープや下咽頭ファイバースコープを用いて咽喉頭の器質的疾患の有無をはじめ、下咽頭の唾液の貯留や誤嚥の有無などを確認します。

 

■嚥下圧測定

嚥下関与筋の活動の結果もたらされる下咽頭や食道の内圧を測定し、障害の程度を定量的に評価します。特に咽頭期で重要な役割を果たす食道入口部の弛緩状態を捉えることができます。

 

嚥下障害の治療

高齢者では神経系の機能低下や、筋肉の緊張低下により、嚥下の予備能力が低下します。高齢者の嚥下機能は個人差が大きく、その人それぞれにあった治療法の選択が必要です。嚥下障害の治療目標は経口的食事摂取により、必要な全栄養をまかなえる状態に回復させることであります。治療法は嚥下訓練法と手術的治療に分けられます。

 

■嚥下訓練法

残存機能をより有効に活用するために、嚥下のリハビリテーションを行う。具体的には食事道具、食餌の温度や粘性、頭位や体位の工夫などが重要です。

 

■手術的治療

嚥下訓練により嚥下機能の回復がはかれない場合には、症例ごとに病的嚥下機能を詳細に検討した上で、輪状咽頭筋切断術や喉頭吊り上げ術などを行います。

 

 

めまい

 

一口にめまいといっても様々な病態があり、放置しても自然軽快するものから、危険な病気の前兆である場合もあります。脳炎、脳幹梗塞、小脳・橋出血、脳腫瘍、心疾患、血圧異常などの生命を脅かす恐れのある疾患は早期に鑑別しなければなりません。

 

とくに意識障害を伴う場合には速やかに医師の診療を受ける必要があります。しかし、急性のめまい発作でも多くの場合は安静にしていることで軽快します。この場合、めまいにともなう不安感への対処も必要となります。

 

めまいの性状

めまいには様々なものがありますが、以下のように大別されます。

 

■回転性めまい

自分自身や周囲がグルグル回ったり、流れていくような感じのこと。内耳疾患が急激に発症したときに出現することが多いが、脳疾患でも出現することがある。

 

■浮動性めまい

雲の上を歩く感じ”、”船に乗っている感じ”などと表現されることが多いフワフワ感のこと。極めて多くの疾患で出現し、性状のみからの判断は難しい。

 

■ふらつき

ふらつく、体がよろめく、足元がおぼつかない、倒れそう、などの自覚。

 

■その他

立ち上がった瞬間クラクラする、目の前が真っ暗になる、全身脱力感、目の前がかすむ、など体の位置や動きの感覚の異常を伴わないめまい感。

 

このようなめまいの性状だけで原因部位を確定し診断することは困難です。めまいの誘因や発症時の様子、持続時間や経過、随伴症状の有無、合併症の有無などをチェックし、耳鼻咽喉科的診察、平衡機能検査や頭部MRI、CTを参考に診断を進めます。また、内科、眼科、脳神経外科、整形外科などの診察が必要となる場合もあります。

 

加齢とめまい

高齢者のめまいで特徴的なのは、若年者に比べて脳血管障害によるめまいが多いことです。高齢者では動脈硬化や高血圧の罹患頻度が高くなり、血流の障害や血管の脆弱化によって脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が起こりやすい状態となります。これらの病変が平衡機能に関わる部位に生じるとめまいが起こります。

 

また、高齢者ではめまいの治癒過程における代償能力が若年者に比べて低下しています。耳、目、筋肉・関節の固有受容器および皮膚の感覚受容器は周囲に対するからだの位置を常に脳に知らせています。これら無数の情報を脳が処理することによって体の平衡が保たれています。

 

そして、これらのいずれかの部位に障害が生じたとき(たとえば一側の内耳障害など)にはその機能の低下や脱落を補うように代償機能が働きます。これがめまいの回復に大きな働きをします。高齢者では代償機能が低下するため若年者に比べてめまいの回復が遅くなるのが一般的です。

 

椎骨脳底動脈循環不全症

脳は内頸動脈と椎骨動脈という2種の大きな血管によって栄養されますが、平衡機能に関与する脳幹、小脳、内耳などにはおもに後者の椎骨動脈が血液を供給します。この椎骨動脈は加齢に伴って動脈硬化性病変が生じやすく血流の障害が起こりやすいと言われています。椎骨動脈の血流障害はとくに延髄の前庭神経核や内耳の末梢前庭器に虚血を生じ、その結果めまいが起こります。これが椎骨脳底動脈循環不全症の病態と考えられています。

 

本症は虚血状態に陥りやすい正常血圧例や低血圧例に多くみられますが、高血圧例でも何らかの理由で血圧が低下した場合にはめまいが起こります。また、椎骨動脈は頚椎に沿って走行しており、頚椎の変形によって椎骨動脈が圧迫された場合には血流が低下します。高齢者では動脈硬化に加えてこのような頚椎の変形の頻度も高く、椎骨脳底動脈循環不全症が起こりやすい状態にあると言えます。

 

めまいは約3分の2が回転性のめまいで、約3分の1が浮動性のめまいです。回転性のめまい発作は多くは数秒から数分間の短いものです。その他の症状として頭痛、一過性の視力障害、しびれや四肢の麻痺、嚥下障害、構音障害、転倒発作などを伴うことがありますが、めまいだけを訴える例も少なくありません。

 

頭痛は後頭部の強い、おさえられるような痛みが特徴で数時間続くこともあります。この後頭部痛は初期症状としてよくみられます。以上の症状は頭を後ろに傾ける、頚を回す、急に立ち上がる、横になる、寝返りを打つなどの際に起こることが多く、このような運動でめまいが誘発されることが髄骨脳底動脈循環不全症の特徴とされています。

 

椎骨脳底動脈循環不全症では血圧の調整、脳循環改善剤、脳代謝賦活剤などの薬物治療が行われますが、急激な起立や頭部の後屈や回旋を避けるなどの日常生活での注意も必要です。

 

その他の脳血管障害によるめまい

脳出血や脳梗塞の後遺症として頭痛、頭重感、手足のしびれ、肩こりなどとともに浮動性めまいや立ちくらみを訴える場合があります。このような例では脳や内耳にごく軽い慢性的な循環障害があり、体位変換や頭部の回転などに際してこの潜在的な循環障害が増強されてめまいが起こると考えられています。脳循環改善剤や脳代謝賦活剤などの薬物治療を行います。

 

小脳出血では初期に激しいめまいと嘔吐を訴え歩行不能となり、特徴的な眼球所見を示します。放置すると急速に進行し呼吸停止から死に至ることがあります。また、脳幹部の梗塞例のなかには急性のめまい、歩行障害をきたすものがあり、嚥下障害や嗄声、触覚の異常などを伴います。

 

このような出血や梗塞といった病変はMRI検査やCT検査で診断は比較的容易ですが、生命予後に関わる危険な疾患であるため、早期に脳神経外科医など専門医による治療を開始することが重要です。

 

各種めまい疾患

めまいは様々な原因で生じます。ここでは原因別に主なめまい疾患を挙げ、その治療法について簡単に解説します。

 

≪内耳の病気≫

メニエール病内リンパ水腫(内耳に水がたまる)が原因。過労やストレスが誘因となることが多い。めまい、耳鳴、難聴が主な症状。急性期には回転性めまいが起こることが多く、しばしば発作を繰り返す。両側性になることもある。発作時には安静の上、薬物治療を行うが、難治例では手術治療も行われる。めまい発作予防に有効とされる薬剤もある。
突発性難聴原因不明の突然に難聴をきたす疾患。同時にめまいも起きることがある。回転性から軽い浮動性までさまざま。安静の上、ステロイドホルモンを中心とした薬物治療を行う。難聴は早期に治療しないと治らないことがある。
内耳炎中耳炎の炎症が内耳に波及して起きる。めまいの程度は様々である。中耳炎の治療を行うとともに抗めまい剤などが投与される。良性発作性頭位性めまい:めまい疾患のうちもっとも多く見られる病気である。三半規管の一部に無機物質が沈着するのが原因と言われる。一定の頭の向きをとると起こる回転性めまいが特徴で、多くは数十秒の短時間で治まり、難聴や耳鳴は伴わない。放置しても自然に治ることが多く、理学療法が有効である。

 

■内耳と脳をつなぐ神経の病気

聴神経腫瘍聴神経に出来る良性の腫瘍。耳鳴、難聴が徐々に出現し、時に急激な難聴をきたすこともある。めまいは浮動性であることが多い。大きくなると顔面神経麻痺をおこしたり、脳腫瘍になって生命に関わることもある。根治治療は手術以外にないが、手術が行えない例では放射線治療も行われることがある。
前庭神経炎ウイルスや血行障害による前庭神経の炎症。発症前に風邪症状を伴うことが多い。突然激しい回転性めまいがおきる。難聴や耳鳴は伴わない。薬物治療により予後は良好である。
ハント症候群顔面神経や聴神経に潜伏した帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因。顔面神経麻痺、難聴、耳鳴、めまいが起きる。めまいの程度はさまざまで、耳介や口腔内に水疱が出来ることもある。抗ウイルス薬などの薬物治療が基本で、高度の顔面神経麻痺がある場合には手術治療も行われる。

 

■中枢神経(脳)からのめまい(脳血管障害を除く)

脳腫瘍

腫瘍のできる部位によって症状は著しく異なる。小脳や脳幹部の腫瘍では回転性めまいが起きることがある。放置しても軽快しない。脳神経外科医の診察、治療が必要。髄膜炎、脳炎、外傷、てんかんなどもめまいの原因となることがある。

 

■その他のめまい

起立性低血圧自律神経の働きが弱って血圧の調節がうまくできなくなることが原因。立ったときの目の前が暗くなる感じ(いわゆる立ちくらみ)や失神。自律神経調整剤や昇圧剤が有効。
視性のめまい眼鏡の不適合、外眼筋麻痺による複視がふらつきの原因になることがある。眼科専門医の診察、治療が必要。頚椎の異常、貧血、心疾患などもめまいの原因になることがある。